MotoGPで無線交信が解禁に!? F1ばりの生トークが聴けるかも
世界最高峰の二輪ロードレース「MotoGP」でライダーとチームとのコミュニケーション手段として無線交信の導入を検討しているという。
無線導入のメリットとは
無線交信の最大のメリットは、コース上でのアクシデント発生時に危険をいち早くライダーに伝えられることだろう。
また、刻々と変わる順位争いやライバルとのタイム差、コース状況などの情報をリアルタイムでライダーに伝えたり、ライダー側からもマシンの状態をピットに伝えたり、さらにはチームオーダーなどレースを戦う上での作戦も瞬時にやりとりすることができる。
一方、MotoGPを見ているファンにとっては、まさにF1さながらにライダー達の息遣いも聞こえてきそうな迫真の生トークを国際映像で楽しむことができるわけだ。その無線導入に向けてのテストを先週末にサンマリノGPが開催されたミサノで、レースウィーク中に実施しているということで結果が楽しみである。
F1では早くから導入されていた
MotoGP以前から2輪レースでの無線交信は禁止されてきた。その理由は明確に示されてはいないが、ヒントとなる話は後でしたい。
ちなみにF1では古くから無線交信は許可されていて、有名な話としては、「音速の貴公子」として知られた故アイルトン・セナが、1991年の母国ブラジルGPでの初勝利後に感極まってウイニングランで嗚咽した音声が国際映像に流れたことがある。
そして、2000年代の前半からはドライバーとピット間の交信内容も一般公開されるようになった。
ピットサインは時代遅れか!?
2輪レースでは従来はライダーとチーム間での情報のやりとりはピットサインによるものが唯一の手段であり、自分が知る限り2輪レースが誕生して以来おそらく一世紀以上はこの方法でやってきたはず。
最先端のハイテクの塊である現在のMotoGPにおいても、未だにライダーは300km/hオーバーでホームストレートを駆け抜けながら、ボードに掲げられた簡単なメッセージを一方的に読み取るだけだ。
したがって、その内容は「いま何周目で何番手」とか「誰が何秒遅れで後ろにいる」などの情報を数字とイニシャルで組み合わせた暗号のようなものになっている。そう考えると、ピットサインでのやりとりはちょっと時代遅れのような感じもしないでもない。
オーストリアGPの重大インシデントが契機に
ましてや、先日の第5戦オーストリアGPでロッシとビニャーレスを襲った身も凍るような重大インシデントを目の当たりにしたならば、一秒でも早く危険情報をライダーに伝えられれば、と誰もが思うはず。
事実この一件が今回の無線導入へのきっかけになったようだ。外電などが報じたところによると、現状ではMotoGPマシンには赤旗をダッシュボードに表示させるシステムが搭載されているが、タイムラグと視認性の悪さがネックになっているらしく、これを無線警告システムによって補うのが当座の目的のようである。
ライダーの反応はさまざま
ただし、今回の無線導入について各ライダーの意見は割れているようだ。「便利なものは使えばいい」と肯定的に捉える者がいる一方で、一部のライダーの間では無線導入に懐疑的な声も挙がっている。
それは情報過多の問題だ。現状でもMotoGPライダーは精神と肉体の限界に近い状態でマシンを操っている中で、さらに「無線交信」という新たな負担が加わることで集中力が途切れることに不安を抱いているようなのだ。
情報が多すぎても処理できないし、それによって気が散れば順位や安全にも影響が出る可能性は十分考えられる。また、MotoGPマシンの猛烈な爆音と風切り音の中で無線交信を聴き取れるか、という問題もある。
F1は大丈夫でもMotoGPでは危険!?
「F1は大丈夫なのにMotoGPでは何故ダメなの?」という声もありそうだが、それはバイクに乗ったことがある人なら分かるはずだ。
クルマであればハンズフリーで通話しながらでも余裕でワインディングを流せるが、バイクで同じことをやろうとしたら冷や汗ものである。それだけ、全身の感覚を研ぎ澄ませて集中しないと操れない乗り物なのだ。
ましてや、レーシングスピードで鎬を削っている最中での話となると……。たとえMotoGPで無線が導入されたとしても、F1とは違う使われ方になるかもしれない。
とはいえ、F1の無線交信を聞いていると本当に面白い。ドライバーはたまに冗談を飛ばすほどリラックスしているときもあるし、激しいバトルで激昂したり勝利の歓びに涙を流したり、と超人的なレーサーたちの人間らしい内面を映し出してくれる。
その意味では、無線交信の解禁はMotoGPをさらにエキサイティングで魅力的な人間ドラマにしてくれる予感もする。今後の動向を興味深く見守りたい。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。
画像出典:motogp.com