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【K-1】“人間力の最強王者”山内佑太郎がついにラストマッチ

藤村幸代フリーライター
20年に渡り最後まであきらめないファイトを貫いた山内(右/写真提供:山内佑太郎)

 9月20日(月・祝)神奈川・横浜アリーナで開催される『K-1 WORLD GP 2021 JAPAN~よこはまつり~』は、K-1第2代ウェルター級王者を決するワンデートーナメントを筆頭に、全21試合がラインナップ。豪華カードをさらに盛り立てるべく、演歌界の大御所、小林幸子さんがスペシャルラウンドガールに初挑戦するなど、話題性も十分だ。

 全試合中、個人的にもっとも注目しているカードが第15試合、K-1スーパー・ウェルター級のスーパーファイト、城戸康裕vs山内佑太郎の一戦だ。この日、この試合を「現役最後」と決めている山内は43歳、その山内からの「最後だから一番強い相手とやりたい」というオファーを快諾した城戸は38歳。両者ともキャリア20年越えの大ベテランであり、「渋いチョイスですね」という声もあるだろう。

城戸康裕vs山内佑太郎煽り映像(C)K-1

 私がこの一戦に注目しているのは他でもない、山内佑太郎を見届けたいという思いが強いからだ。

 山内が格闘技を始めたのは2000年、22歳のときだ。キックボクサーをしている職場の先輩の試合を見て、倒されても立ち上がり相手に向かっていく姿に心をわしづかみにされた。キックジムに入門後、2ヵ月目にはアマチュアのグローブ空手大会に出場。フォームなどめちゃくちゃのがむしゃらファイトではあったが、勝利を収めたことが嬉しくて、それ以上に仲間たちが自分の勝利に飛びあがって喜ぶ姿が忘れられず、気づけば試合を重ね、また気づけばプロになっていた。

 私が山内の存在を知ったのも、このグローブ空手時代だ。名門ジム所属であることと、180のひょろっとした体形以外、目立ったところはなかったと記憶している。だからこそ、プロ6戦目でいきなり全日本キックウェルター級王者になったときは驚いたし、それは本人も同じだったのだろう、ベルトを巻いてマイクを握っての第一声は「はじめまして、山内佑太郎です」と、どこかおっかなびっくりで、性格そのままに律儀でノホホンとしたものだった。

 引退にあたり、山内本人は「僕はパンチ力やスピード、カリスマ性といった、何か特別なものを持っている選手ではなかったと思う」と振り返っている。たしかに、格闘家としてはキラキラしたスター性やギラギラした野心を剥きだしにするタイプではなかった。つねにファンや観客と同じ目線でキックを愛し、「平凡な自分でも努力すればここまで行ける」ということを、口に出さず試合で体現していく選手だった。

至近距離からの変則的な蹴りも山内(右)の持ち味。2013年のジョーダン・ピケオー戦でも前蹴りで一度はダウンを奪ってみせた(写真提供:山内佑太郎)
至近距離からの変則的な蹴りも山内(右)の持ち味。2013年のジョーダン・ピケオー戦でも前蹴りで一度はダウンを奪ってみせた(写真提供:山内佑太郎)

 不断の努力は、時として神がかり的な激闘を生んだ。その最たる一戦が2008年10月、望月竜介を挑戦者に迎え王座防衛戦にのぞんだ「全日本スーパーウェルター級タイトルマッチ」だろう。今回、山内本人に20年の現役生活でもっとも印象に残った一戦を尋ねたところ、やはりこの望月戦をあげてくれた。

「全試合怖かったし緊張したけど、とくに望月さんとの2戦目は、練習しても、練習しても、『もっとやらなきゃ』という恐怖心がわいてきて、生まれて初めてメンタルの本を買ったほどでした」

 この前年にも、望月の挑戦を受けた山内は、前半の猛攻をしのぎ、劇的な逆転KO勝利を収めていた。「すべてを犠牲にして再戦に懸ける」という望月の意気込みは尋常ではなく、その情念が山内を精神的に追い詰めていたのだった。

 山内同様、望月も言葉数が多い選手ではなく、周囲の応援に激闘でこたえるタイプ。また真摯な人柄からつねに応援団が客席を埋めていた。両陣営のすさまじい応援はリング内に異様な熱を生み、試合は初戦以上の壮絶な“果し合い”の様相を呈していった。

 フィニッシュはあまりに衝撃的だった。望月の攻撃に押されまくっていた山内が3R開始からほどなく、前に詰めてきた望月の顔面に横蹴りをヒット。そのスピードと変則的な足の角度はこれまでにないもので、見ている誰もが最初は何が起こったか分からなかったほどだ。

 試合後に望月が語った言葉も忘れ難い。

「技術うんぬんではなく、人間として持っているもので負けてしまうとショックが大きいです」

 この言葉を聞いて、私は技術やベルト以外にキックボクサーたちは「人間力」も懸けてリングに上がっているのだと知り、キックの奥深さを改めて学んだのだった。

映像提供:Takeru Toyoshima

 山内が引退後にやりたいことの中には、こんなものもある。

「キックボクサーのなかには、僕みたいに決してカリスマではなかったり、すごく真面目ですごく練習はするけどなかなか結果がついてこなかったりする人もたくさんいる。そういう人が第二の人生で活躍できる場をつくっていけたらいいなと思っています」

 私のなかでは人間力の最強チャンピオン。そんな山内が人間の機微を知り尽くした城戸と戦う“人間力タイトルマッチ”なら、見届けないわけにはいかないだろう。

【『K-1 WORLD GP 2021 JAPAN~よこはまつり~』

生中継・放送情報】

◇テレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA」

「格闘チャンネル」<生放送>

9月20日(月・祝)12:30~22:00(予定)

視聴URL▷https://abe.ma/3yOYaqa

◇CSチャンネル「GAORA SPORTS」

「~よこはまつり~9.20横浜アリーナ」

https://www.gaora.co.jp/fight/1972000

<放送スケジュール>

9月22日(水) 18:00 ~ 25:00 ※初回放送

9月25日(土) 22:30 ~ 5:30 ※リピート放送

◇テレビ神奈川

「K-1 WORLD GP 2021 JAPAN ~よこはまつり~feat.猫ひた」

10月15日(金)19:00~20:55

https://www.tvk-yokohama.com/

フリーライター

神奈川ニュース映画協会、サムライTV、映像制作会社でディレクターを務め、2002年よりフリーライターに。格闘技、スポーツ、フィットネス、生き方などを取材・執筆。【著書】『ママダス!闘う娘と語る母』(情報センター出版局)、【構成】『私は居場所を見つけたい~ファイティングウーマン ライカの挑戦~』(新潮社)『負けないで!』(創出版)『走れ!助産師ボクサー』(NTT出版)『Smile!田中理恵自伝』『光と影 誰も知らない本当の武尊』『下剋上トレーナー』(以上、ベースボール・マガジン社)『へやトレ』(主婦の友社)他。横須賀市出身、三浦市在住。

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