超難しい組織変革。なのに「新しい風を期待」とか言って、その先頭に新入社員や転職者を立たせてはいけない
■採用にはいろいろな目的がある
企業は何のために新しい人を採用するのでしょうか。
「そこにある仕事をやってくれる人を探すために決まっているじゃないか」と言われそうです。それはもちろんそうとして、実は、採用という行為にはさまざまな目的があります。
例えば、事業の方針や内容の変更によって、これまで社内にいる人では適任者がいない仕事が生じたり、これまでの組織文化がフィットしないので変革を起こす必要性が生じる場合があります。
特に、まだ固定的な組織観のない新卒や若手の採用においては、後者の組織文化を変えることを目標としていることが多いですね。
■組織文化を変えるために新しい人を採る
事業戦略や商品・サービスは、変える決断を経営者が行えば、極端な話、次の日からすぐに実施することができます。
ところが、それに伴う組織文化の変革はそうはいきません。人の頭の中にある考え方や価値観を変えなければならないからです。
アメリカの企業であれば、そんなときにはダイナミックに人を入れ替えたりもするのでしょうが、日本ではそうはいきません。そのため、なかなか変わらない人の頭の中を、じっくり時間をかけて変えていかねばならないのです。
しかし、若い人は「真っ白なキャンバス」ですから、いきなり新しい文化に適応してもらうことも可能で、組織文化の変革を促進する人材になりうるのです。
■いちばん弱い人を変革の先頭に立たせるな
このことを指して、いろいろな会社で新入社員に対して「新しい風を期待している」などと言うわけです。
ところが、ここに大きな落とし穴があります。若い新入社員は確かに新しい文化を身につけやすい人ではありますが、会社の中では弱者中の弱者であるということです。
もし、彼ら「だけ」を新しい文化に染めて、旧態依然とした組織に放り込んだとしたら、どうなるでしょうか。
きっと、すぐに摩擦を起こしてしまい、結局、力関係で新人たちは折れて降参するか、辞めていってしまうことでしょう。
いくら指示しやすいからと言って、新人たちを変革の先頭に立たせて戦わせるのは無謀というものです。
■組織変革は非常に難しいチャレンジ
そもそも、一旦根付いた組織文化を変革することは非常に難しいことです。
企業変革についての第一人者、ハーバードビジネススクールのジョン・P・コッターによれば、企業をある状態から別の状態に変革させるためには、8つもの段階があるとのことです。
それは以下の通りです。
1) 危機意識を高める
2) 変革推進のための連帯チームを築く
3) ビジョンと戦略を生み出す
4) 変革のためのビジョンを周知徹底する
5) 従業員の自発を促す
6) 短期的成果を実現する
7) 成果を生かして、さらなる変革を推進する
8) 新しい方法を企業文化に定着させる
(出典:ジョン・P・コッター『企業変革力』日経BP社)
詳細説明は書籍に譲りますが、これだけのステップを踏まなければ変革は成功しないとコッターは言います。
しかも、コッターはこの8段階について、第1段階から順を追って進めることが重要で、途中のプロセスを飛ばしてはいけないと強調しています。
■まず組織内で十分な準備をしてから新人を受け入れる
この理論で言えば、新しい文化に適した人を採用して変革を促進するというのは7段階目以降のことです。それまでに多くのことを社内でやっておかなければ組織文化変革は成功しないのです。
それなのに、6段階目までの組織内での準備ができていないのに、「いちばん手軽にできるから」ということで、まず採用から始めてしまうところが、残念ながらよくあります。
なんでもそうですが、「やりやすいところから始める」ではなく、順序が大事なのです。若い新人たちを組織変革の犠牲にしてはなりません。
そうでなければ、いざ、社内の準備が整って、新しい文化に適した人をいよいよ本格的に採用しようというとき、先人たちの死屍累々を見て、「こんな会社には入らないようにしよう」と有望な若手たちは思うことでしょう。ぜひご注意を!
※OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。