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【新型コロナウイルス】いま知っておきたい「生活保護」

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
イメージ写真です(写真:アフロ)

【新型コロナウイルス】いま知っておきたい「生活保護」

新型コロナウイルスの影響で、このところ株価の乱高下をはじめ、経済の先行きが見えず、不安が拡がっています。

また、小中高校などの学校の一斉休校によって、仕事を休まざるをえなくなった人や、その結果、収入が少なくなってしまう人の存在も明らかになりつつあります。

政府は経済対策をはじめ、さまざまな対策をとるとしていますが、各種支援事業がスタートするのは「すぐさま」ではなく、タイムラグがあります。

非正規労働などの人や、もともと低収入で何とかやっていた、などの人のなかには、今月が乗り切れるかわからない、という人もいるでしょう。

新型コロナウイルスの猛威が早期に終息することを願ってやみませんが、この状態が続いていく限り、生活が苦しくなる人が増加していくことは明らかです。

生活福祉資金貸付等の「貸付」の支援は今回の事態を受けて、生活が再建されないなどの場合、返済免除等の措置はとられるとのことですが、あくまで「貸付」です。

ここでは、もしもの時のために、困ったときに利用できる公的支援である「生活保護」についてご紹介します。リーマンショック並みの経済危機だといわれる現在、自分の暮らしを守ることを最優先に、遠慮なく制度利用をしていただければと思います。

「生活費が今月もつかわからない」「家賃を払えない」「光熱水費の滞納が始まる」などの人は、生活保護の申請をおすすめします。(制度の詳細は後述します)

すぐにでもお近くの自治体(自治体の窓口については後述します)に申請に行く、または、民間の支援団体、法律家などに相談をお寄せください。(私が理事長をつとめる〈もやい〉でも相談をおこなっているほか、民間の支援団体、法律家のネットワークを下記のリンクでまとめています。)

相談先リスト(もやい作成)

繰り返しですが、ご自身の生活を守ることを最優先に考えてください。

生活保護とは

生活保護制度は、収入や資産が少なく、生活が苦しくなってしまった人を支えるための制度です。

収入と資産が生活保護基準以下の状況ですと、その基準に満たない分の支援を利用することができます。

生活保護基準とは、国が定めた生活していくために必要な最低限度の基準をあらわすものです。

一般的に、生活保護基準の金額は、地域や世帯の人数(一緒に住んでいる人の人数)によっても変わりますが、都内で単身だと、生活費(生活扶助)と住宅費(住宅扶助)で、約12万円ちょっととなります。

この金額を収入や資産が下回っている場合に、下回った分(基準額に満たない分)の金額を給付されます。

制度の詳細については下記もご参照ください。

厚労省HP 生活保護

もやいHP 生活保護とは

生活保護はどこで申請するのか

生活保護は原則的には自分の意思で「申請」することによって利用がスタートします。

また、生活保護は、「世帯単位」が基本とされており、ここで言う世帯とは「一緒に住んでいて同じお財布で生活している」関係性を言います。※血縁関係・婚姻関係になくても(事実婚・同性婚など)実態として世帯が同じであれば、一つの世帯とみなされます。

持ち家や賃貸アパートなど、いま住まいがある人は、住んでいる自治体に申請に行きます。

ネットカフェやカプセルホテル、野宿などで住まいがない人は、どこの自治体に申請に行くことも基本的には可能です。(現在地保護と言います)

友人宅に居候している、など住まいがあるのかないのか微妙だ、という状況もあるかと思いますが、迷ったらお近くの自治体に申請に行きましょう。

自治体のどの窓口に申請に行くのかというと福祉事務所と呼ばれる場所ですが、自治体によって窓口の名称が異なることがあります。生活保護課、生活支援課、生活福祉課、などの名称が多いですが、わかりにくい場合もあるので、受付の人に「福祉事務所はどこですか?」「生活保護の申請に来ました」と聞くのが一番です。

各自治体の福祉事務所については厚労省が一覧を作っています。

生活保護の申請から決定までは、原則14日以内(最長30日以内)と定められています。

申請時に住まいがない場合は臨時的に寝泊まりできる場所を福祉事務所側が用意したり、同じく申請時に生活費が手元にほぼない場合など、その日や数日で保護の決定をして支援を開始したり、一時的な費用の貸付け等がおこなわれることもあります。

生活保護の申請について

生活保護の申請は、判例や国会答弁等により、口頭や郵送、FAX等でも可能とされています。また、福祉事務所は、申請があった場合、その申請を妨げることはできません。そして、申請を妨げていると「誤解されるような言動も厳に慎むように」と厚労省から通達されています。

生活保護は、生活に困ったときは、誰でも・いつでも・どこに住んでいても、過去のことや生活に困った理由に関係なく、自由に申請できる公的な制度です。

とはいえ、下記のような不適切な理由で不当に申請を妨害されることもあります。

「若くて健康な人・働ける人は、生活保護を受けられません。」

「必要な書類をそろえて来てください。」

「住所がない人・住民票が別の自治体にある人は申請できません。」

「過去に保護を受けていたのでダメです。」

「申請してもどうせ却下されますから無駄です。」

「借金があると生活保護を受けられません。」

これを「水際作戦」と呼びますが、自治体の担当者によっては申請者を追い返す目的だけではなく、知識不足等から悪意なくナチュラルに上記のような内容で申請を拒むこともあります。

上記のような内容で申請を拒むのは不適切な窓口対応であると厚労省は再三各自治体に指導しています。

しかし、もしそういった対応を自分が申請に行ったときにされたとして、ご自身だけで、行政機関側の間違った対応である、と是正を求めることはハードルが高いのではないか、と思います。ですので、困ったら遠慮なく民間の支援団体や法律家等にご相談ください。

また、生活保護の申請に際して、申請書を渡してくれない自治体もあります。書式等は特に問われていませんので、ご自身で申請書に記入し持参する方法もあります。

申請書の一式をもやいHPからダウンロード可能です。ご活用ください。

扶養義務について

生活保護制度において、家族や親族による「扶養」は生活保護の要件ではありません

親子や兄弟姉妹などが健在であっても、実際に金銭的援助をしてくれない場合、あるいは援助をしてくれてもそれが生活保護基準に満たない場合には、生活保護を利用することができます。

生活保護を申請すると、一般的に福祉事務所が申請者の家族・親族に「○○さんを援助できますか」と確認の連絡(扶養照会)をしますが、援助するかしないか、はそれぞれの事情で決めてよいとされています。

※DVや虐待の被害等がある場合は、家族に居場所を知られないよう、扶養照会を止めてもらうことができます。

持ち家がある場合 借金がある場合

持ち家がある人など、自分は生活保護を利用できないのではないか、と考えている人もいるかと思います。いまは現金や貯金がないが、すぐさま現金化できない資産を持っている、という人もいるでしょう。

資産の価値や状況によってその売却を求められるものもありますが、売却を求められないものもあります。持ち家に関しても、その家に住んでいる場合で資産価値が特段高くない場合など、売却を求められないこともありますので、悩んだら民間の支援団体や法律家等に相談しましょう。

また、借金や、税金・公共料金の滞納等があっても、生活保護は利用可能です。とはいえ、生活保護費から借金の返済をすることは基本的に認められていませんので、借金等がある場合は法律家等に相談しましょう。

困ったら申請に そして、民間の支援団体等に積極的に相談を

ここまで、生活保護制度の概要について紹介してきました。ここだけでは制度の詳細について過不足なくお伝えすることは困難ですので、申請を現実的に考えている人、ここ数日、数週間のうちに生活保護制度が必要になるかもしれない状況の人は、行政機関の窓口や、民間の支援団体等に相談することをおすすめします。

生活保護制度以外にも、生活福祉資金貸付などの貸付系の制度や、生活困窮者自立支援制度など、他にも公的な制度はあります。しかし、あなたはこっち、いやいやあっちの窓口、などといざ相談に行ったときに役所のなかでたらいまわしに合って一日がかりになる、というよりは、ご自身の状況にとって最適な制度を最短で選択できる、というのが、多くの人にとって一番負担が少ないのではないか、と思います。

そういった意味でも、遠慮なく民間の支援団体等にご相談していただければ、と思います。

厚労省HP 生活福祉資金貸付

厚労省HP 生活困窮者自立支援制度

民間の支援団体の相談先(もやい作成)

また、身近な人などで新型コロナウイルスによる影響で休業や失職し、生活が苦しくなっている人やそのリスクを抱えている人がいましたら、こういった情報をお伝えしていただければと思います。

また、政府には緊急的な経済対策のなかで、雇用の維持等のための施策にプラスして、低所得者への給付支援等を早期に検討することを求めていきたいと思います。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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