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日本の政府債務の半分が実際には存在しないという説のおかしさ

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 日本の政府債務の半分かそれ以上の部分が実際には存在しないとの説を唱えてる人達がいる。政府債務の半分ということは、それは日銀が保有する国債のことではないかと推測される。日銀は国の一部機関であるため、日銀が保有する国債は相殺できるという説であろうか。もしくは日銀が保有する国債については、国が借り換えを繰り返せば永遠に償還せずに済むという考え方を示す人もいる。

 仮に自国通貨建ての政府債務はいくらでも積み上げられるとするのであれば、国は税などを取らずとも財政はすべて国債発行で行えば良いことになる。どうしてそれをしないのか。それは当然、そのような財政政策はありえないためである。

 どうして中央銀行制度ができたのか。世界で最初の中央銀行は1668年に設立されたスウェーデンの国立銀行、通称リクスバンクとされている。

 1897年のリクスバンク法により、リクスバンクには独占的に通貨の発行権が付与された。銀行券の発行ができなくなったほかの銀行は、リクスバンクから優遇金利で資金を借り入れることができるようになった。リクスバンクは「銀行の銀行」としての機能を果たすことになる。

 リクスバンクは国王ではなく議会の監督下に置かれるなど、現在の多くの中央銀行と同じように「政府などからの独立性」という特色も持っている。また、民間の資金によって設立されたことなどはイングランド銀行などと同様となっている。

 つまり中央銀行は国王といった国のトップではなく、議会の監督下に置かれている。ちなみに国債も永久機関である議会が承認し、徴税権を担保に政府が発行するものである。

 そして、日米欧とも中央銀行による国債の引き受けを禁じている。これは中央銀行による国債引き受けがハイパーインフレを引き起こしたためとされる。いやいや、デフレ下の日本がインフレなど起きるはずがないと指摘する向きもあろう。ここは言葉を換える必要がある。ハイパーインフレというより国債への信用失墜が起きたためである。

 国債の発行は規律を持って行わなければならないというのが常識的な見方であるが、そのように主張している人たちこそ、国債の信認を維持しようと必死になっている。

 国債はいつかは暴落するかもしれないとオオカミ少年のように唱える人達こそが、信認を維持しようとしているともいえる。

 そのような信認維持などおかまいなく、国債は暴落などしないからもっと増発しろといっている人たちこそ、国債の信認などは考えていないのではなかろうか。そしてもし国債の信認が失墜した際には責任を取るようなこともないであろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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