マンチェスター・Cがプレミアで白旗。会見で見せたグアルディオラの異変とは【現地取材】
「タイトルを逃したことを認めるでしょうか。もう優勝のチャンスがないことを受け入れますか」
2月2日に行われたトッテナム対マンチェスター・シティー戦後の記者会見で、ジョゼップ・グアルディオラ監督にそんな質問が飛んだ。スペイン人指揮官は目を大きく見開き、ウンウンとうなずく。質問した英紙デーリー・テレグラフのマット・ロー記者が「うなずいているだけでは記事にできません。言葉にして言ってもらえますか?」と返すと、会見場は大きな笑いに包まれた。「イエス」と口にしてもらわなければ、記者は記事にできないからだ。
前人未到のプレミア3連覇を狙っていたマンチェスターCだが、トッテナムに敗れて痛恨の6敗目を喫した。結果、首位を独走するリバプールとの差は22ポイントに開いた。25戦で24勝1分と驚異的な強さを誇るリバプールを止めるのは、さすがに無理というもの。グアルディオラ監督も、ついにリーグ優勝断念を認めた。
「リバプールにはずいぶん離された。彼らは止められないし、我われはあまりに多くの勝ち点を取りこぼした。今日の試合もそうだったように、似たような試合展開で勝ち点を落としている。当然、今の目標は(リーグ4位以内のチームに入る)来季チャンピオンズリーグ出場権を獲得することだ」
0−2で敗れたトッテナム戦は、まさに今季のマンチェスターCを象徴するような試合だった。昨季王者は前半から試合の主導権を握り、自陣深くで守備を固めるトッテナム陣内へと押し込んだ。攻撃サッカーを志向するグアルディオラと、相手チームの良さを徹底的に打ち消すジョゼ・モウリーニョ。両策士らしい試合展開と言えばそうなるが、マンチェスターCのゴールは時間の問題のようにも思えた。
ところが、マンチェスターCの左SBオレクサンドル・ジンチェンコが後半15分に2枚目の警告で退場。そこから潮目は一気に変わり、数的優位に立ったトッテナムの勝利に終わった。トッテナムはシュート3本で2ゴールを奪取。対するシティーは19本のシュートを放ったが、無得点に終わった。
ジンチェンコの退場処分が決定打になったのは事実だが、他にもいくつか気になる点があった。レッドカードは、リヤド・マレズのショートコーナーをあっさり奪われたのが、そもそもの始まり。サインプレーの伝達ミスがあったのか、CKを奪われて敵にカウンターのチャンスを与えた。結果、体をぶつけて無理やりブロックしたジンチェンコが退場となった。
後半8分のプレーも噛み合っていなかった。CBに入ったフェルナンジーニョが、左サイドにいるジンチェンコにパスを入れる。しかし、呼吸がまったく合わず、ボールはタッチラインを割った。ところどころに散見されるこうした隙が、今季のマンチェスターCのウィークポイントである。
マンチェスターCのスランプは数字に表れている。無類の強さを誇った2シーズン前は、25節終了時点で22勝2分1敗。勝ち点は68で、得点数73、失点数18だった。対する今シーズンは、16勝3分6敗。勝ち点は51で、得点数65、失点数29だ。今シーズンのシティーが調子を落としているのは、スタッツからも確認できる。
なかでも注目したいのは、1試合当たり0.72点から1.16点まで増加している失点数。それから、1敗から6敗に増大した敗戦の数だ。
今季、歯車が狂い始めたのは、4節のブライトン戦でCBのアイメリク・ラポルテが膝靭帯の怪我を負い長期離脱してから。手堅い守備で最終ラインを束ね、正確な左足でビルドアップでも貢献するフランス人DFがいなくなると、チームは途端にバランスを崩した。5節のノリッジ戦を2−3で競り負けると、8節ウルブス戦(0−2)、16節マンチェスター・ユナイテッド戦(1−2)、19節ウルブス戦(2−3)と黒星を重ねた。
49歳の指揮官は、本職がMFのフェルナンジーニョをCBにコンバートして急場をしのごうとしたが、肉弾戦の多いプレミアでは1対1の守備対応に危うさがあり、盤石とは言えない出来。CBのニコラス・オタメンディは安定感がなく、ジョン・ストーンズも調子を落としていて、頼みの綱の最終ライン中央部がチームを支えきれなかった。
守備のまずさは、勝負弱さにつながった。ポゼッションで圧倒しながら、敵にカウンターアタックを受けて沈む試合があまりに多いのだ。5節ノリッジ戦では69%、8節ウルブス戦は76%、16節マンチェスターU戦は72%のポゼッションを記録しながら、いずれも黒星を喫した。「似たような試合展開で勝ち点を落としている」との指揮官の言葉通り、ボール保持を効率的に結果につなげることができていない。その裏には、シーズン開幕前に膝靭帯断裂の大怪我を負ったFWレロイ・サネの長期離脱の影響も多分にあるだろう。
冒頭に記した記者会見は、試合終了から1時間が経過したところで始まった。試合後、グアルディオラ監督が控え室から50分以上も出てこなかったからだ。試合終了から45分が経過したところで、英BBCラジオも「グアルディオラは、まだテレビ用のインタビューにも応じていない。こんな経験は記憶にない」と伝えていた。
グアルディオラ監督は「スタッフや家族と話していた」と時間がかかった理由を説明していたが、会見に現れたスペイン人指揮官は明らかに声が枯れ、不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。控え室で選手たち相手に声を荒らげていたのかもしれない。
それでも、感情論と楽観論で片付けることの多い解説者のイアン・ライト(元イングランド代表FW)は、マンチェスターCについて次のように話す。
「チャンピオンズリーグで頂点に立たなければ、十分とは言えないシーズンになる。反対に優勝できれば、素晴らしい1年になる」
ライトの言葉はそのとおりだ。プレミアが駄目でも、CLを制すれば良しとなる。しかし、欧州の頂点に立ちそうな雰囲気は、今のマンチェスターCからは感じることができない。果たして、グアルディオラ監督の在任4季目はいかなる形で終わるのだろうか。