日銀の目標に向けて物価は上昇するのか
4月30日に開かれた日銀の金融政策決定会合の議事要旨が公表された。このなかから、今回は物価に関係する政策委員の議論を中心に見てみたい。
「物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、+1%台前半となっており、先行きも、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、+1%%台前半で推移するとの見方で一致した。」(4月30日日銀金融政策決定会合議事要旨より)
この見方は日銀の政策委員のみならず、エコノミストなども同様の見方をしていると思われる。日銀の物価目標は、全国消費者物価指数(除く前年同月比)であり、昨年11月分で前年同月比プラス1.2%と1%台に乗せ、12月から今年3月にかけてはプラス1.3%での足踏み状態となっている。
「消費税率引き上げの物価への影響について、多くの委員は、東京の4月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が、消費税率引き上げの影響を除いたベースでみて+1.0%と3月から横ばいとなったことから、税率引き上げ分が概ね転嫁されたとの認識を示した。」(4月30日日銀金融政策決定会合議事要旨より)
消費増税が4月からスタートしたが、すでに東京都区部の4月の消費者物価指数は発表されており、前年同月比プラス2.7%となった。日銀は4月からの5%から8%への消費増税の影響で、プラス1.7%程度上乗せされるとみており、その分を除くと3月から横ばいとなっている。
4月の全国消費者物価指数は5月30日に発表される。予想はプラス3.1%あたりとなっているようで、消費増税により1.7%程度上乗せされるとすれば、影響を除いた分は1.4%と小幅上昇を見込んでいる。
「多くの委員は、消費者物価の前年比は、暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、見通し期間の中盤頃に2%程度に達する可能性が高い、また、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられるとの見方を示した。」(4月30日日銀金融政策決定会合議事要旨より)
本年度後半から再び上昇傾向をたどるとする理由として、「マクロ的な需給バランスが、労働面を中心に改善を続け、最近は過去の長期平均並みであるゼロ近傍に達しており、今後も改善を続けていくと見込まれること、また、中長期的な予想物価上昇率が、実際の物価上昇率が1%を上回って上昇する中で、今後も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくと考えられることを挙げた」(4月30日日銀金融政策決定会合議事要旨より)
マクロ的な需給バランスの改善としては、政府も1月~3月までのGDPを基に内閣府が発表した需給ギャップは、マイナス2兆円程度となり、前の期に比べてマイナス幅がおよそ6兆円縮小したとしている。これは、消費税率引き上げ前の駆け込み需要を背景にした消費の伸びと、企業の設備投資の増加が影響しているとしている。
議事要旨によると、「ある委員は、企業の価格設定行動の変化やベースアップの復活は、需給バランスに対する物価上昇率の感応度を高め、人々の中長期的な予想物価上昇率を高めるとの見方を示した」。ただし、それに対して「予想物価上昇率の上昇や企業の販売価格引き上げは緩やかに進むため、2%の実現は見通し期間の終盤になるとの認識を示した。」
多少の時期のズレはあっても目標には届くとの認識のようである。この委員は物価の先行きの記述として2%程度という幅のある表現でなく、2%の実現時期に焦点を当てた書き振りとすべきであると指摘したそうである。
ただし、別の委員からは、2%に向かって予想物価上昇率が上昇することは不確実性が高いとの意見や、さらに別の委員からは、「今後円安の物価押し上げ効果が剥落する可能性が高い中で、労働需給タイト化などの要因が物価をどの程度押し上げるか不確実であり、予想物価上昇率についても、物価安定の目標である2%に向かって上昇し、収斂していくのは難しいとの見方を示した。」
ここから2%に向けて順調に物価が上昇するのかどうか。いまのところ予断は許さない。円安効果が剥落するのは事実であるが、価格が上がりやすい状況になりつつあることも確か。今後も賃金や設備投資が伸びるのか。東京オリンピック特需といった面もあるが、需給ギャップの改善もあって物価が上昇しやすい環境ができつつあるとの見方もできる。2%の物価目標の達成も可能性はゼロではないが、それと日銀による大量の国債買入がどのように関わってきたのかははっきりしていない。実質金利の低下とかで説明できるものであろうか。マインドは変化しつつあると思うが、これは海外要因などを含めて金融政策以外の要因に負うところも大きいはず。
今後の物価動向と日銀の大量の国債買入の関係をもう少し具体的に言及する必要があるとともに、もし物価目標に向けてコアCPIが上昇してきた際に、現在のような超低位の長期金利を維持することが可能なのかどうか。このあたりもいずれ焦点になってくると思われる。