面接で「一緒に働きたいと思う人を採れ」はそれで本当にいいのか〜組織が同質化することを促進してしまう〜
■面接官は「一緒に働きたい人を採れ」と言われている
採用をする際、基本的にはどんな会社でも「どんな人を採用すればいいか」という採用基準をいろいろ定めています。ところが意外なぐらい多くの会社で、面接の事前ガイダンスで面接担当者に対して「最終的には自分が一緒に働きたいと思えるような人を合格にしてくれればいいですよ」と説明していたりします。詳しくは以下に説明しますが、結論から言うと、そういうことはあまり言わないほうがよいのではないかと私は思っています。
では、せっかくある採用基準を説明しておきながら、最終的にはそもそも「一緒に働きたい人を採れ」とガイダンスしてしまう側の本意はどのようなものかを考えてみましょう。
■「一緒に働きたい人」を採ればマネジメントコストが低くなる?
すぐ思いつくのは、「コミュニケーション力やマネジメント力が周囲になくても、『一緒に働きたい』と思える人と働けば、なんとかなるのではないか、余計なマネジメントコストがかからないのではないか」という考えです。確かにそういう人を採用すれば、一緒に働きたいと思うぐらいですから相性がよくて、協働することでシナジー効果が発揮されるのかもしれません。素朴に考えるとそんな風にも思えますが、本当にそんな直感的な「一緒に働きたい」で選べというようなガイダンスによって、面接の精度や妥当性が上がるのでしょうか。
■それは「自由に採っていいですよ」に等しい
「一緒に働きたい」というのは候補者の何か特定の特徴を指しているのではなく、個々の面接担当者の心の中に生じる気持ちです。ですから「一緒に働きたい人を採れ」というのは、「いいと思ったら採れ」つまり「あなたの心の思うままに自由に採っていい」と言っているようなものです。そして、人は誰かから指示などされなくとも、もともと人の好き嫌いがありますし、評価を左右するポイントを持っていますから、自由にしていいと言われれば、自分の判断基準において人に順位をつけることはできるでしょう。
ただ、それが会社が欲する人材、自社の事業や仕事や文化に適した人材かどうかは極めて疑問です。
■心理的バイアスを野放しにすることにつながる
個々人の持つ判断基準は、基本的に心理的バイアス、言い換えれば偏見に満ち満ちていることは様々な研究などから判明しています。例えば、自分と似ている人は高く評価しがちです(類似性効果)。また、1つとても良い点があれば、それに引きずられて全体の評価が上がる現象もあります(後光効果)。「アスリートはストレスに強いが繊細さに欠ける」などの先入観に縛られることもあります(確証バイアス)。第一印象にいつまでも引きずられて評価してしまうこともあります(初頭効果)。「自由に採ってよい」と言われれば、これらの心理的バイアスを抑制する契機がなくなって、評価は影響を受け放題になるでしょう。
■心理的バイアスを受けた評価の精度は低い
基本的に面接において、このような心理的バイアスは避けなければならないものです。世界中の面接手法のスタンダードとも言えるBEI(Behavioral Event Interview/行動評価面接)でも、心理的バイアスを乗り越えるために、できる限り信憑性の高い「事実」=「具体的な場面での過去のエピソード」などから、候補者の思考・行動パターン(性格・能力・志向)を推定することで評価を行わなければならないとされています。「思っていること」(意見)は究極的に、実際と違っても何とでも言えますが、「やってきたこと」(事実)はきちんと深く質問されれば、実際やったことではない偽りの話をするのは困難だから(ばれるから)です。
■「似たもの同士」を生むことだけはメリットもある
このように、心理的バイアスは通常は排除すべき対象であり、助長するなどもってのほかです。ただ、上述の心理的バイアスのうちで言えば、「類似性効果」についてだけは悪いことばかりではありません。
まず、面接担当者が自社にとってのハイパフォーマーであり、その人が自分と似ている人を高く評価するなら、評価された候補者もハイパフォーマーになりうる可能性があります。加えて、パーソナリティが同質である「似たもの同士」は、一緒にいても相手を理解しやすいので居心地がよく、協働しやすい関係ではあります。仕事のパフォーマンスも高く、シナジー効果もあることがわかっています。
■「異質だが補完関係にある」という最高の人を排除してしまう
しかし、それでもやはりデメリットもあります。「似たもの同士」は似ているが故に、同じような情報しか持っていなかったり、同じような発想しか出なかったりするので、いろいろマンネリ化しがちで、チームの創造性や生産性が中長期的にみると低下していくとされています。
「同質性」にはこのようなデメリットがあるために、結局は最高の相性というのは「異質ではあるが相互に補完関係にある人」です。ところが「補完」の人も「異質」であることには変わりなく、「一緒に働きたい人を採れ」と言われて「類似性効果」が働くことによって排除されてしまうことでしょう。
■「異質‐補完」を採りたいなら一見合わなさそうな人も採らないといけない
一般的に異質な人と相互理解を深めるには、一緒に働いていても半年ぐらいはかかると言われています。ですから、採用活動の最中に、ましてや短時間の面接の最中にその感覚を得ることは不可能かもしれません。
私はリクルートの最終面接官をしていたときに、常々「自分とは合わないなと感じる人でも採る」と自分に言い聞かせていました。会社を代表して評価するわけですから当然ではありますが、上記のような「異質‐補完」を失いたくなかったからです。「一緒に働きたい人を採れ」とはほとんど言いませんでした。むしろ「自分とは合わないと思うからと言って落とすな」と言っていました。
■そのためにお勧めの方法
結論としては、同質人材ばかり採っていてはダメで、異質だが補完関係にある人を採るべきです。ただ、これまたそんな人を見抜くのは面接官の熟練が必要です。本連載のテーマは「熟練していなくてもできる」ですので、お勧めの方法をお教えします。
それは、「どの面接官にどの候補者を当てるのかをコントロールすること」です。一般に、候補者と面接官の組み合わせをマネジメントすることはあまりありません。スケジュールに合う人が面接をしたり、いつも同じ人が同じステップで面接をしていたりするのが普通です。しかし、そういう選考プロセスで「一緒に働きたい人を」と言っていては上述の通り問題が起こってしまいます。
■パーソナリティの合う面接官と候補者で選考を行う
候補者と面接官のマッチングを的確に行うためには、できればパーソナリティテストを導入して可視化すべきです。候補者だけでなく、面接官にも同じテストを受けてもらうことが必要です。その上で、「似たもの同士」だけが面接を行うようにするのです。パーソナリティ別に選考コースを分けるとも言えます。そうすれば、「自分と違う」だから「一緒に働きたいと思わない」ということで落とすことがなくなります。あとは、最終的にどんな人をどれくらい採りたいか(=採用ポートフォリオ)に従って、各選考コースからの合格者割合を最終面接などで調整すればよいだけです。
■熟練の面接官が不要になる
このように、選考の初期の面接担当者にいろいろなタイプを選別させたり割合を調整させたりすることから解放し、「似たもの同士」の候補者の似ている度合いだけを評価させる(これがまさに「一緒に働きたい」度合いです)ようにすれば、熟練の面接官を揃えなくても、途中で「一緒に働きたくないから」と「異質」な人を落とされることがなくなり、最終的に会社として採りたい人を採りたい割合で採用できます。
もちろん、このオペレーションはそれなりに面倒くさいのですが、よい人材を適当な「違和感」とかで落としてしまうよりは良いでしょう。面接官を熟練させるのか、候補者と面接官をマッチングして中央集権的に採用ポートフォリオ管理をするのか、どちらが楽かはぜひ考えてみてください。
※HRZineより転載・改訂