核実験場で防護服なしの「被ばく労働」…北朝鮮の人権侵害(2)
北朝鮮の人権侵害の一つに、過酷な強制労働がある。
オーストラリアの人権団体「ウォーク・フリー・ファンデーション(WFF)」は5月31日、世界で「現代の奴隷」状態にある人の数が、成人と子どもを合計すると4580万人にも及ぶと明らかにした。国別に見ると、人口2500万人の北朝鮮には110万人の「現代の奴隷」がいる。人口比率では世界最多である。
川原の地獄絵図
その中には、子どもも含まれる。北朝鮮では、中学3年から大学を卒業するまで、「農村支援」という名目で、田植え戦闘などの農作業に強制的にかり出される。農村支援がない冬には、肥料や燃料の木を一日中集めなければならない。さらに、学校の教員の畑作業の手伝い、引越の手伝いにもかり出されるのだ。
大人が働く工事現場などでも、労働者の人権は無視されている。北朝鮮の建設現場では、もともと安全環境が整っていない。それに加えて当局は、何かというと伝統的なスローガン「速度戦」を唱える。
「速度戦」とは、太陽節(金日成氏の誕生日=4/15)や光明星節(金正日氏の誕生日=2/16)において大規模建築を成果として示すため、当日に間に合うよう、無茶苦茶なスケジュールで進める突貫工事だ。大規模な工事現場では必ずと言っていいほど死者や重傷者が出ている。
とくに、1989年4月に起きた橋梁建設工事での崩落事故では、一度に500人以上が死亡。現場の川原には無残な死体が散乱し、まさに「地獄絵図」とも言える光景が広がったという。
(参考記事:橋崩落で500人死亡の「地獄絵図」…人民を死に追いやる「鶴の一声」)
「阿鼻叫喚列車」
ちなみに、「速度戦」では手抜きも横行するため、それがまた大規模事故を誘発する。2013年10月には、国防委員会の庁舎新築の工事現場が崩壊し、80人が死亡。また2014年11月には、平壌市内の23階建てマンションが突然崩壊し、450人以上が犠牲となった。鉄道でも、平壌と東海岸の羅先(ラソン)を結ぶ平羅(ピョンラ)線で、超満員の客車が谷底に叩き付けられる事故が発生。川の水が血で赤く染まったとも言われる。
(参考記事:死者数百人の事故が多発する北朝鮮の「阿鼻叫喚列車」)
しかし最も過酷な環境に置かれているのは、やはり政治犯収容所に捕らえられている人々だろう。単なる強制労働だけでなく、核実験場で放射線防護服も与えられないまま、「被ばく労働」させられているとの情報もある。
(参考記事:北朝鮮、核施設で「強制被ばく労働」させられる政治犯たち)
しかし金正恩体制としては、自ら進んで強制労働を廃止することなど不可能なのではないか。これまで自由に使えた労働力が存在しなくなれば、体制は維持できなくなる。だから、北朝鮮の人権侵害を止めさせるということはつまり、金正恩体制の変更を迫るということに他ならないのだ。