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北朝鮮と戦争「ソウルと東京で210万人死者」―対立煽る安倍政権の無責任、現実的選択が必要

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
自衛隊のミサイル迎撃部隊。現状では、ミサイル被害を100%防ぐことは難しい。(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮は29日午前3時18分ごろ、弾道ミサイルを発射した。これを受け、安倍晋三首相は「我が国はいかなる挑発行為にも屈することなく、圧力を最大限まで高めていく」と述べたが、これまでと同じ繰り返しだ。安倍首相は、「強固な日米同盟のもと、高度の警戒態勢を維持し、国民の命と平和な暮らしを守り抜く」と言うが、いざ北朝鮮と米国が戦争する事態になった場合、本当に日本の人々を守りきることなどできるのか。「強い指導者」を演じるよりも、現実的な対応をすべきではないのか。

〇米朝戦争で貧乏くじを引くのは日本

 ドナルド・トランプ米大統領が今月20日に北朝鮮をテロ支援国家に再指定したことに、北朝鮮側は強く反発していた。これに対する「報復」として北朝鮮がミサイル実験を行ったことは、ある意味、想定内だろう。ただ、今回の発射実験で、トランプ政権が態度を硬化させることは間違いなく、愚かな行動だったと言える。米国も、北朝鮮側が9月以降、ミサイル実験を控えていたことを鑑み、例えば、再指定するかどうかの判断を延期するべきだった。

 今回のミサイル実験は、超高高度に打ち上げ、日本海に落ちたものの、本来の発射角度なら、飛距離4000キロ以上と、米国本土をターゲットとすることを想定したことからもわかるように基本的に北朝鮮の核やミサイルは、対米国であって、対日本ではない。ただし、いざ戦争になった場合、日本が北朝鮮に攻撃されない保障もどこにもない。日本には在日米軍基地があり、イラクやアフガニスタンなどの戦争の際も、在日米軍基地からこれらの戦争に出撃していった。つまり、北朝鮮側が在日米軍基地を攻撃してくる可能性は、十分にあると言える。さらに言えば、米国本土に攻撃を仕掛ける長距離弾道ミサイルは、打ち上げられてから、ターゲット地点に再突入する際、大気との摩擦で弾頭が極めて高温にさらされるため、弾頭を保護する必要があるが、北朝鮮側はまだその技術を確立できていないと観られている。こうした米ミサイル専門家らの分析が正しければ、手近な在日米軍基地が狙われる可能性はますます高いと言わざるを得ない。

〇北朝鮮のミサイルによる被害は防げない

 だが、実際に北朝鮮がミサイルを日本に撃ってきた場合、安倍首相が言うように「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ことは、極めて難しい。日本全域を射程とする中距離弾道ミサイルを、北朝鮮は少なくとも200発以上持っているとされ、短距離弾道ミサイル「スカッドER」も西日本を射程とすることが可能。一方、日本が保有するイージス艦が一隻あたり何発の迎撃ミサイル「SM3」を搭載しているかは、公表されていないが、過去の国会質疑では8発とされている。日本の保有するイージス艦6隻のうち、弾道ミサイルに対応するBMD艦は、4隻。つまり、弾道ミサイルに対応できる日本のSM3は、32発程度となる。しかも、4隻全てが常時運用できるわけではない。つまり、北朝鮮側の物量攻撃に日本側は全く対応できない、ということだ。地上側で迎え撃つPAC3迎撃ミサイルも、射程が20キロと短く、防衛省が国内に17の拠点を置いているものの、日本全国をカバーする能力は無い。例えば、日本海側の原発は格好の餌食となるだろう。

 北朝鮮が日本にむけて本気でミサイル攻撃をしかけてきた場合、「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ことは、極めて難しいという現実を、安倍政権も日本の一般の人々も直視するべきだろう。ならば、どうしたらよいのか。戦争を回避するということが、最良の道であろう。いかに戦争を回避するかだが、要は、朝鮮戦争からの米国と北朝鮮の「戦争状態」の終結と、東アジア全体の非核化だ。これらの詳細については既に記事を配信しているので、そちらを読んでいただければ幸いだ。

【衆院選】北朝鮮に核放棄させる政党は?ノーベル平和賞受賞者に聞くリアルな外交

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20171020-00077138/

【北朝鮮】核を放棄させる現実的な方法、専門家らが立案―自意識過剰な日本は冷静さを

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20170831-00075162/

〇あくまでも米朝問題、日本は中立であるべき

 もう一つ、日本が取れる選択として、中立を守るという方法もある。イラク戦争の際、イラクと国境を接するトルコは、米軍の戦闘機や爆撃機等のトルコ上空を通ることを認めなかったなど、イラク戦争への協力を固辞した。繰り返し強調しておくが、北朝鮮の核とミサイルの問題は、あくまで、米朝対立である。そこに安倍政権がクチバシを突っ込んで騒ぎ立てるから、日本にもミサイルの矛先が向いてくるのである。対北朝鮮の戦争において、在日米軍基地の運用はあくまで日本の防衛に限定し、北朝鮮への攻撃には使用させない、ということを日本政府として明言した場合、北朝鮮が日本を攻撃する口実は無くなる。

〇日米地位協定の見直しを急げ

 ただ、そのためには、日米地位協定の見直しが必要となるかもしれない。端的に言えば、日米地位協定は、在日米軍のやりたい放題を認めるもの。これに対し、日本と同じく第二次世界大戦の敗戦国であるドイツやイタリアでは、領内の米軍基地の管理権を握っており、重大な作戦を承認するか否かの権限も持つ。このような対等な関係を日本も持つ必要があり、そのためには日米地位協定の見直しは不可欠だ。それでなくても、沖縄では昨年4月の性的暴行・殺害事件、昨年12月のオスプレイ墜落事故、今年10月のヘリ墜落事故、今月の飲酒運転による死亡事故など、米軍関係の事件・事故が相次いでいる。安倍政権が「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」というのであれば、口先だけの再発防止ではなく、日米地位協定の見直しこそが必要である。

〇米朝戦争の分析「ソウルと東京で210万人が死亡」

 北朝鮮との戦争は、米国内にも、被害が大きすぎるとして後ろ向きな意見が根強い。ジョンズ・ホプキンス大学の米朝問題プロジェクト「38NORTH」の最新の分析によれば、「ソウルと東京に複数の核兵器が使用された場合、210万人が死亡、770万人の負傷が想定される」という。安倍政権も日本の人々も、トランプ政権と北朝鮮の双方に対話を促すことが、日本の安全と平和につながることを認めるべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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