バイク死亡事故増の神奈川でプロテクターを推奨 原因の35%が「胸・腹部」
プロテクター着用を奨めるものの普及は進まず
神奈川県でバイクによる死亡事故が増加している。2019年も49人と全国ワーストワンの不名誉な記録を残したばかり。その神奈川で今年上半期も前年を上回るペ-スで死亡事故が多発し、すでに28人が犠牲になっているという。
注目したいのは損傷部位である。県警によると、19年の死亡事故のうち負傷部位で見ると頭部が最多ではあるが、一方で胸部と腹部が約半数を占めているとのこと。県警では胸腹部などを保護するプロテクターやエアバッグ内蔵ジャケットの着用を推奨しているが、ヘルメットと違い法規で義務づけられていないプロテクターは思うようにライダーへの浸透が進まないと危機感を募らせている。
排気量が大きいほどプロテクター着用率は上がる傾向はあるが、それでも全体としての着用率は2割に満たないそうだ。また、小排気量になるほど装着率も低く、125cc以下ではほとんど付けていないというデータもある。出典:神奈川新聞
胸・腹部の致命傷が35%を占めるという事実
警視庁がまとめたデータによると、「二輪車乗車中死者の損傷主部位」を平成26年~30年の過去5年平均で見ると、頭部が48.1%、胸部が26.9%、腹部が8.2%であり、胸・腹部を合わせると35.1%と大きな割合を占めている。この事実からも胸部や腹部を守るためのプロテクターの重要性が見えてくると思う。
明るい兆しもある。近年は胸部プロテクターの着用率も徐々にではあるが増えていて、令和元年の着用率は8.4%と平成18年時点の4.0%に比べると倍増するなど、継続的な啓蒙活動の効果が表れていると見ていいだろう。
その一方で「胸部プロテクターを着用しない理由」として、1位は「着用が面倒」が50.1%と過半数。2位は「値段が高い」で18.9%。3位は「プロテクターを知らない」という人がまだ11.2%も存在することが分かる。
出典:警視庁
白バイも採用、右直事故による胸部損傷がきっかけに
頭さえ守っていれば、腕や足の骨の一本ぐらい折れても……、と軽く考えている人も多いと思うが、それは違う。自分が知っている死亡事故例でも、Uターンしようとしたトラックと接触して胸部を強打した例や、左折車に弾き飛ばされて歩道の構造物に腹部をぶつけたことが致命傷になった例などがあった。
20年ほど前にホンダが純正プロテクターを製品化したときに取材したことがあるが、開発の発端になったのは「右直事故」によるライダーの胸部損傷だったと聞いた記憶がある。直進するバイクと右折するクルマとの間で発生する典型的な事故パターンであり、衝突の瞬間、乗用車のルーフの角に投げ出されたライダーが胸部をぶつけて重篤化する例が多く見られたという。
当時、白バイ隊員の交通事故による殉職が問題になっていたこともあり、胸部プロテクターの開発には警察からの要請もあったと聞く。交通を知り尽くした安全運転のプロ中のプロですら、不慮の事故に巻き込まれるケースもあるということだ。
ホンダが開発した強化プラスチック製のハードタイプの胸部プロテクターはいち早く白バイ隊に導入され、その後一般ユーザーにも普及していった経緯がある。
お洒落でカッコいいプロテクターに期待
胸部プロテクターのさらなる普及に向けての課題としては、前述のデータからも読み取れるように“着用しやすいプロテクター”の開発が求められている。警視庁の調べでも、気軽に着用できる「ウエア内蔵タイプ」が着用者全体の7割近くを占め、別体式の「ハードタイプ」は2割強と下がり、エアバッグタイプに至っては1割に満たない。
これは価格との相関関係も大きく、最も安価なのがウエア内蔵タイプで、エアバッグ式などはどうしても高価になりがちで普及しづらい。そして、安全性に関してはその順番が逆になる。構造物に激突するか、転倒して路上に投げ出させるかなど、事故のパターンによって一概には言えないところもあるが、いずれにしても簡易なウエア内蔵タイプには限界もあるのだ。
交通事故を防ぐには、危険予知に基づく安全運転が最も大事なことは言うまでもない。だが、万が一に備えるに越したことはない。そこで、最新テクノロジーの出番だ。より軽くて着心地に優れ、脱着も簡単で見た目もスマートなプロテクターがあったらどうだろう。プロテクターの装着を法制化したらどうかという意見もあるが、それ以前にライダーが自発的に装着したくなるものを考案できないものだろうか。
欲を言えば、着用しているほうがお洒落でカッコいい!ライダー達がこぞって欲しくなる、そんな先進的なプロテクターが現れるのを期待したい。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。