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トランプ大統領は本当に日本に優しいのか?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
日米の貿易不均衡の原因の一つである自動車(写真:アフロ)

今後トランプ大統領は何を目指すか?

トランプ大統領は、国内では、ロシアゲートで苦境に陥っている。一方、そうした中で、外交で国民をひきつけ、その分をカバーしようとしているかのように見える。今は、シリア攻撃、北朝鮮への外交的軍事的圧力強化であるが、今後何を起こすのか予想がつかない。今回、最初の外遊先がサウジアラビア、イスラエルで、イランを意識したとも言われ、今後中東に何らかの行動を起こすかもしれず、要注意である。

さて、トランプ大統領は、外交とは別に、経済についても成果が求められている。彼は、外国からの移民や製品に制限をかけ、国内の雇用を守る一方、大型の減税と1兆ドルもの大規模な公共事業などでアメリカの経済成長を国民に約束している。しかし、現実は、大型の減税策について具体的で詳細な内容が出てこず、その財源についても明らかにされていない。一方大規模な公共事業にいたっては、言葉だけで何も出ていない。そして、外国からの移民制限については、メキシコとの国境に壁を作るとしているが、不明確である。

このままいくと、トランプ大統領は、国民の約束を果たせないことになる。したがって、ここから、トランプ大統領は、何らかの成果を求めて動いてくることになろう。それは何か?やはり、外交を絡ませて、自国に有利に働くように貿易ルールを変えてくることではないだろうか。それが、TPPの脱退と二国間貿易交渉へのシフト、そして最近の国際会議におけるアメリカの保護貿易を否定しない態度に示されている。

ビジネス志向の強いトランプ大統領は成果を求めている

では、そうした中にあっても、トランプ大統領は、果たして日本に対して優しく接してくれるのだろうか?答えは否であろう。

もちろん、安倍首相は、トランプ氏が大統領に当選したときには、就任前にいち早く会談でき、2月に主要国のなかでも早く日米首脳会談がセッティングされるなど、特に優遇され、一番信頼されているかのような扱いを受けた。それだけ見れば、日本には特別扱いで優しく対応してくるように思える。しかし、それは、トランプ大統領のビジネス思考からいって、一時的なものと言える。

なぜなら、まず国民への約束から成果を挙げなければならない。トランプ大統領は、理念や価値観が全く違っていても、自国にプラスになり、自分の成果になるのであれば取引するという考えが根底にあるように感じられる。たとえば、アメリカとの貿易において最大の貿易黒字を稼いでいるとして名指ししてきた中国に対して、米中首脳会談を境に豹変している。それまでは、中国を厳しく非難をし、高関税をかける、為替操作国に指定すると脅してきたが、その会談以降は、非難しなくなるどころか、中国を持ち上げ、日米が慎重であった中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」会議に代表団を送り、協力するなど、その激変ぶりは、目を見張るほどである。

それは、中国が貿易不均衡是正に向けた「100日計画」において、米国産牛肉輸入再開、米国産天然ガスの購入など市場開放の具体策を素早く提示して、トランプ大統領の期待に応えたからである。また、求められて北朝鮮への圧力強化に協力したことも大きいと思われる。つまり、こちらの主張が認められるなら、価値観が違っていて、同盟国が何を言おうとも、危険な国と取引するという考えが、トランプ大統領の基本にあるからだと思われる。それが国内でロシアとの接触が疑われているロシアゲート問題にも通じているのではなかろうか。また、軍事的圧力をかけている北朝鮮と、突然取引することがありえるかもしれない。

トランプ大統領は甘くない、気を付けるべき

それでは、これまでのトランプ大統領と良好に見えている安倍政権は、このままその関係が続くかというと、中国の例もあるように、何らかの成果を示さなければ、いつ豹変して、大統領選の時に日本の貿易黒字を非難した状況に戻るかもしれない。またトランプ大統領は、取引カードとして日本を利用して、中国に対し有利に取引し、さらには中国と蜜月になるかもしれず、あるいは日本に北朝鮮への軍事的圧力を積極的に協力させて北朝鮮との電撃的取引で有利な撤退をおこなうなど、ニクソン時代のように突然の中国訪問ではしごを外されるというニクソンショックのような事態が、再び起きるかもしれない。その時は、日本はアジアで取り残され、窮地に陥ることになろう。

では、日本に求めてくるのは、トランプ大統領が成果とする貿易不均衡の是正に何をしてくれるかということになろう。それは、アメリカの3月の貿易統計で、ロス商務長官が、最大の赤字相手国である中国には改善したと言って非難を控え、日本に対しては対日赤字が拡大したとこと捉えて「耐えられない」と言って名指しで非難したことに、その兆候が見られるのではないだろうか。

したがって、今度の日米の経済対話において、貿易不均衡に向けた貿易投資ルールや、分野別協力にアメリカは答えを求めてくる可能性が高いといえよう。今日本が進めようとする多国間貿易協定にはアメリカは戻る気がなく、二国間協定で自国に有利に進めようとしている。それが、経済のグローバル化に逆行していようが、保護貿易主義だと言われようが一向にかまわないように見える。よって、理念や価値観が同じ同盟国だから、ある程度妥協してくれるという甘い考えでいると、足をすくわれることが起きよう。

これから、何が起きるか全く予想がつかないが、前回(「トランプ時代は何を意味するのか?」)で書いたように、アメリカは、市場のグローバル化により新興国との競争で疲弊し、超大国としてふるまう余裕を失いつつある。そして、国際協調主義の下で世界のためにリードしていく考えは捨て、アメリカ第一主義の下で、アメリカの国益を優先する内向き志向を強めつつある。そのためには保護貿易であろうが、自国に有利な貿易ルールを構築してくることになろう。日本は、トランプ大統領が日本に優しい、特別だという考えは止め、アメリカを重要なパートナーとみながらも、基本は生き残りのために中国、インド、東南アジア、そしてロシアなどと関係も強化して経済を発展させていくことが必要なのではないだろうか。

最後に

27日G7を終えたが、欧州と米英との対立が明確になってきた。ドイツのメルケル首相は欧州の道を歩むとして米英との決別ともとれる発言をしているが、いよいよ世界の分断が大きくなってきているように見える。このままでいけば、世界はブロック経済化し、利益の対立が先鋭化して、戦争につながらないとも限らない。日本は、最悪を想定して、いかに回避し行動するかが求められよう。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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