金正恩氏がキリスト教を弾圧する理由…「十字架」に隠された秘密
北朝鮮の憲法(朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法)は、宗教の自由を保障しているが、実際は一切認めておらず、激しい弾圧を加えている。とりわけ、布教活動に熱心なキリスト教は「禁教」として弾圧の対象となってきた。
地下教会の信者処刑
一例を挙げると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市に住んでいたパク・ミョンイル(仮名)さんは、中国を訪れた際に入手した聖書を所持していた容疑で、2000年の秋に保衛部(秘密警察)に逮捕された。裁判を経ずに過酷な人権侵害が常態化している収容所に送られ、その後の安否は不明だ。
(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も)
また、2010年には、平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)市で地下教会に通っていた23人が逮捕された。主導者3人は処刑され、残りは収容所送りとなった。いずれも、中国でキリスト教に接したことがきっかけになっている。
(関連記事:北朝鮮、地下教会の主導者3人を処刑)
北朝鮮当局が、海外からの宗教流入に神経を尖らせる中、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、税関当局は、パッケージに十字架が描かれた物品の輸入を禁止。十字架に似たデザインのものも取り締まりの対象になっている。
平壌と中国を往来する華僑の行商人によると、北朝鮮の税関は十字架が描かれたものだけでなく、漢数字の「十」のようなマークでも輸入を認めなくなった。女性服、服地、ヘアピン、カチューシャ、ネクタイなどにこのようなマークが入っていることが多いため、仕入れの際は気をつけているという。
また、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の情報筋によると、アルファベットの「X」の形をしたお菓子が税関で没収されたという。キーホルダー、イヤリングも取り締まりの対象になる。
さらに、学校の数学の時間に「+」(プラス)の縦横の棒の長さを同じにしなければならない、縦の棒を長く書いてはならないと厳しく指導するほどの徹底ぶりだという。
北朝鮮当局が、キリスト教に容赦ない弾圧を加えるのは、少なからぬキリスト教団体が、脱北者支援や北朝鮮人権活動に参加しているからだ。中には、北朝鮮に伝道師を潜入させたり、クリスチャンを連れ出し、韓国に亡命させたりする団体もある。
接しただけで拷問も
韓国のNGO、北朝鮮人権情報センターが脱北者1万183人を対象に調査を行ったところ、1.2%にあたる128人が北朝鮮で宗教に接触した経験があると答えている。また、聖書を見たことがあると答えた人も4.2%、428人にのぼった。未確認の数字だが、北朝鮮国内には、1200もの地下教会があると言われている。
これだけでなく、北朝鮮がキリスト教に対して、過酷な弾圧を加えるには、もう一つの隠された理由があると筆者は見る。
実は、金日成氏自身が、クリスチャンの家庭に育ったという事実がそれだ。
彼の母親である康盤石(カン・バンソク)氏の名前は、新約聖書に出てくる「使徒ペテロ」にちなんでいる。さらに、金日成氏が教会に通っていたことは、彼の回顧録でも述べられている。
分断される以前の北朝鮮は、韓国よりキリスト教が盛んであり、平壌(ピョンヤン)は「東洋のエルサレム」と呼ばれていたほどだった。彼の父親が通っていた学校も、キリスト教系の学校だった。金日成氏自身も、キリスト教の影響を強く受けていたとの証言もある。
(参考記事:キリスト教を弾圧した金日成も手術前には祈っていた)
北朝鮮は、社会主義国家と謳っているが、内実は金日成氏を始祖とする王朝国家であり、さらに、主体(チュチェ)思想を国教とする宗教国家の色合いが濃い。だからこそ、キリスト教に対して敵意をむき出しにするのかもしれないが、そのルーツにキリスト教が深く関わっていたとするなら、なんとも皮肉な話だ。