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2014年ツール・ド・フランス第11ステージ ほうきでササッとひと掃き

宮本あさか自転車ロードレースジャーナリスト
一等賞はトニー・ガロパン。photo:jeep.vidon

2度の落車で体をぼろぼろに痛めたアンドルー・タランスキーが、この日、プロトンから置き去りにされた。90km近い距離を、ただひとり最後尾で、走り続けた。泣いたり、自転車を降りたり、時には勇気を出してダンシングスタイルをしたり……。

ヴォワチュール・バレ、つまり「ほうき車」に背中を見つめられながら、区間勝者から32分05秒遅れでゴールにたどり着いた。まるでヒーローの帰還であるかのように、世界中のフォトグラファーがタランスキーのゴールシーンを劇写した。

1910年、ツール開催委員長アンリ・デグランジュの発案で、ほうき車は誕生した。当時はリアイアした選手たちを「回収」すると同時に、最後尾から選手たちがイカサマをしないかどうか「監視」する役目もあったそうだ。

近年は、リタイア選手の大半が、救急車かチームカーでレースを立ち去る。だからほうき車は、むしろ「ツール隊列最後尾」のシンボルとしての役割の方が多い。

(ただ実際には、ほうき車の後ろには、故障車を運ぶためのトラックと、警察のワゴンが続く。その後の白バイ隊が、隊列を閉める役割を担っている)

トライアスロンやマラソンでもほうき車システムが採用されているが、近頃ちまたで流行しているのは、「結婚式の隊列」をほうき車で締めくくるというもの。

フランスの街角では、派手に飾り立てた数台の車が、プープープーとクラクションを鳴らしながら教会へと向かう場面を良く目にする。歩行者や他のドライバーは、たいていはイライラせずに暖かく見守るのだが、あまりに隊列が長いと……。そんな時、ほうき車が通り過ぎると、「ああ、ここが隊列の終わり!」とほっとするというわけ。

いや、むしろ、ギョッとするかもしれない。だって幸せの隊列に、ほうき車が加わるなんて、かなり違和感がある。自転車選手にとって、ヴォワチュール・バレとは、ひたすら恐怖の存在であるからして……。

泣きながら最後まで走りきったタランスキー。photo:jeep.vidom
泣きながら最後まで走りきったタランスキー。photo:jeep.vidom
自転車ロードレースジャーナリスト

フランス・パリを拠点に、サイクルロードレース(自転車競技)を中心とした取材活動を行っている。「CICLISSIMO」「サイクルスポーツ」誌(八重洲出版)、サイクルスポーツ.jp、J SPORTSサイクルロードレースWeb等々にレースレポートやインタビュー記事を寄稿。

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