リクルート成長の原動力は「SNHR」 リファラル採用で組織は強くなる
■リクルートは日本有数の時価総額の会社に
リクルートホールディングスの株式時価総額が、ソフトバンクや三菱UFJフィナンシャル・グループなどを超えて東証一部5位となりました(2021年12月20日現在)。私の新卒入社時には莫大な借金を抱えた債務超過の会社だったので、ここまでの成長に感無量です。
この30年間、決して順調な日々ではなかったと思います。雑誌中心の事業からインターネットに適応する苦労があったり、国内事業だけの会社がグローバル展開をしたり、純血主義の会社がM&Aによる事業拡大を進めたり……。
営業力勝負から、プロダクトやマーケティング、テクノロジーでの勝負にシフトするなど、変化の連続でした。そんなリクルートの成功の原動力は、どこにあったのか。いろいろあると思いますが、人事を担当していた私は、その一つに「リファラル採用」があったと考えています。
■「先輩・内定者引っ張りルート」で半数以上採用
実はリクルートは、何十年にもわたってリファラル採用を重視してきた会社でした。当時はリファラルなどという今風な言葉は使わず、「SNHR」、すなわち「先輩・内定者引っ張りルート」と呼んでいました。
起点となる社員(先輩)や内定者から紹介をもらい、およそ10倍の人数に接触し、その中から採用を行うという方法です。普通に応募してくる人よりも合格率が高く、入社後も活躍し、定着率も高い採用チャネルでした。
これがリクルートの採用戦略の中心で、多い時にはこのSNHRルートからの入社者が半数超にのぼることもありました。
私自身もSNHRルートの採用だったので実感を持って言えるのですが、先輩から紹介されて入社した会社で変なことはできません。そんなことをすれば自分のネットワーク全体に悪評が広がります。もう頑張るしかないのです(笑)。
もちろんプレッシャーだけではなく、逆に多くの知り合いがすでに社内にいたり、どんどん後輩が入ってきたりすると、それまで他人のような存在であった会社が「顔の見える」「我々の会社」となっていき、会社が自分事になり愛着がわくようになりました。
■リファラル採用が生む「組織市民行動」
こういうことがリクルートのあちこちで起こっていたので、リクルートという組織内の結束力やチームワークはどんどん強くなっていき、様々な苦難を乗り越えることができたのではないかと思います。
実際、リファラル採用研究所とビジネスリサーチラボの共同調査(2021年11月11日発表)でも、リファラル採用が組織を強くするメカニズムが明らかにされています。
会社に知り合いを紹介したり、紹介しようと思ったりした社員は、会社のために自発的な役割外行動「組織市民行動」をするようになる、というのです。
組織市民行動を行う人は離職しにくく、組織市民行動を行う人が多ければ会社が円滑にまわり、組織のパフォーマンスが高まるのです。紹介をした以上、自分の会社をよくする責任を感じ、帰属意識が高まるのでしょう。
これは、以前は「成果主義」、最近では「ジョブ型」の諸々の議論の際によく語られた問題への対策にもなっています。つまり、「厳格な目標設定や評価を行うと、社員が自分の役割しかしなくなり、チームワークが機能しなくなる」というものです。
■紹介が紹介を呼ぶ「好循環」が生じれば勝ち
また、同調査では、会社への帰属意識が紹介行動を促進する、という結果が出ています。これは当然の結果でしょう。つまり、リファラル採用をどんどん続けていけば、紹介が紹介を呼ぶサイクルが起こるということです。
言い換えれば、リファラル採用は自己増殖性があるということ。やり始めは社員や内定者からの紹介をなかなか得られずに、「うちではできない」と心が折れてしまう会社も多いのですが、最初の山を乗り越えると、次から次へと紹介が回っていくのです。
リクルートがSNHR、つまりリファラル採用が続けられたのは、この自己増殖性の結果でもありそうです。何十年も続けたからこそ、世の中に「先輩や知人がリクルートにいる」というコミュニティが増え、リファラル採用がやりやすい状況になっていた。だから、毎年の中心戦略になっていたのでしょう。
逆に、やり続けないとこの結果は得られないため、「リファラル採用は続けることに意味がある」とも言えます。リクルートでも、一度、採用をストップした際、SNHRも当然止まり、採用再開の時に苦労した覚えがあります。
立ち上げるのに時間や手間がかかるが、一度立ち上げれば自己増殖するリファラル採用は、止めなければ採用上の有力な他社との差別化要因になります。まだ実施していない会社は、これを機に挑戦してみてもよいのではないでしょうか。
※キャリコネニュースにて人と組織に関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。