大災害で被災したほうが「得」をする 政府の支援制度
政府は8月3日、西日本豪雨の被災者の生活再建や中小企業の事業継続などに向けた支援パッケージを実行するため、平成30年度予算の予備費から1058億円を支出することを閣議決定した。その半分近くを占めるのが、被災した企業のグループの設備投資を支援する「グループ補助金」だ。政府では岡山、広島、愛媛の3県に適用し、設備の復旧などに483億円を充てるとしている。
グループ補助金は、被災した企業にとっては、施設復旧にかかる費用に多額の補助金を受けられることになるため、事業の立て直しが一気に進むことが期待される。が、一方で、グループ補助金が適用されない地域で被災した企業や、あるいは過去にグループ補助金が適用されなかった災害で被災した企業との格差が大きくなることが懸念され、また、グループ補助金の適用が今後も常態化されてくれば、民間企業の政府や自治体への依存意識は高まり、結果的に南海トラフ地震など今後の大規模災害における財源確保という面でも課題を残すことになりかねない。
グループ補助金とは
「グループ補助金」とは、被災した中小企業らが、2社以上のグループを作って復興事業の計画を作成し、認定を受けた場合に、工場・店舗などの施設や、生産機械などの設備の復旧費用を公費で補助する制度だ。補助率は最大4分の3。つまり、自社の施設や設備などを修理したり、建て替えたり、買い替える場合に、その費用の4分の3は「返済の必要がない」国や県からの補助金となる。
そもそも、私有財産については、天災が原因であっても自費により復旧することが大原則だが、この事業は、地域の経済・雇用の早期の回復を図ることを目的として、東日本大震災から特例的に措置されたものだ。その後に適用されたのが熊本地震だった。
東日本大震災と熊本地震の場合、1事業者あたりの補助上限は最大15億円で、東日本大震災の場合は、今年4月時点までに、北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県及び千葉県で705グループに5039億円(1グループあたり7.1憶円)、熊本地震については、今年7月時点までに、熊本県、大分県で、516グループに1372億円(1グループあたり2.7憶円)の交付が決まっている。
懸念される問題は
企業にとっては、グループ補助金により、施設整備などに返済不要の補助金がもらえることは当然、大きな支援になるが、一方で、グループ補助金はすべての地域、災害に適用されるわけではなく、適用されなかった地域や他の災害との格差はかなり大きなものになることが懸念される。
例えば今回の平成30年7月豪雨では、岡山、広島、愛媛の3県以外については、グループ補助金は適用されない。また、東日本大震災以前の災害はもちろん、2015年に鬼怒川決壊をまねいた関東・東北豪雨災害では、地元からの強い要望があったものの、グループ補助金は適用されなかった。こうしたことが繰り返されれば、大きな災害で被災した方が企業は得をするというおかしな図式になりかねない。
また、今後グループ補助金を受けられることが当然と考えられるようになれば、そもそも企業は地震や水害による損失をカバーするための保険には加入しなくなる懸念もある。その結果、企業の復旧費も税金で賄われることが当然のように期待されるようになり、そのつけは国民に課せられることになる。
被災地を全国民が税金で支えていくことに批判するつもりはないが、グループ補助金については、その財源規模は、東日本大震災や熊本地震を見てもわかるように、かなり大きい。
さらに、グループ補助金は、採択の基準があいまいで、東日本大震災や熊本地震では、申請したグループはおおかた認定されている。また、大企業や大企業の出資を受けているみなし大企業であっても、中小企業や中堅企業とグループをつくり、彼らが営業活動を行なう上で必要な施設・設備を賃貸している事業者であれば、この補助金は使える点についても、再考した方がよいように思う。
もう1つ、被災後の復旧は、即全容が把握できるものではなく、インフラの復旧などに併せて遅延したり、資材の調達などにより長期化する傾向もある。それらを踏まえて国が当初予算にすべて組み入れることは難しく、数年にわたり追加予算措置が必要になることも考慮しなくてはいけない。
被災地を考えれば、1日も早い復旧を願わずにはいられないが、一方で、国の支援制度は、一時的であったり、感情的ではなく、長期的な視点と、平等性が求められる。