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1930年台の大恐慌と今回のコロナ恐慌(?)との相違点

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 IMFは新型コロナウイルス感染防止のための「大規模ロックダウン(都市封鎖)」を受けて約100年で最も深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予想した。感染が長引いたり再来したりすれば景気回復は予想を下回る恐れがあるとの認識を示し、今年の世界GDPを3%減と予測し、大恐慌以来最大の落ち込みとなる可能性が高いとした。

 5月8日に発表された4月の米雇用統計では、景気動向を映す非農業雇用者数が前月比2050万人減少となった。1930年代の大恐慌以降で最大の落ち込みとなった。

 1929年10月24日の「暗黒の木曜日」と呼ばれたニューヨーク株式市場の急落をきっかけに発生したのが大恐慌である。ただし、当日のニューヨーク株式市場は現在のような大きな規模ではなく、国際的な影響力も現在とは大きく異なっている。この株価の急落がきっかけではあったが、恐慌そのものは金融危機が原因とされている。

 大恐慌をきっかけとした金の流出などから再び金本位制が機能しなくなり、英国など金本位制をとる国は金の流出を抑えるために金利を引き上げざるを得なかった。第一次世界大戦とその後のインフレにより金融システムが極めて脆弱な状態であったこともあり、銀行の倒産が相次いだ。

 「図説 銀行の歴史」によると、1929年に営業していた25000行あまりの米国の銀行のうち、少なくとも1350行が1930年に閉鎖に追い込まれ、1931年にはさらに2293行が、そして1932年には1453行が破産したとされる。米国の失業率は1929年の3.2%から1933年には24.9%に拡大したとされる。これによる金融危機が大恐慌と呼ばれた。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大とそれを阻止するためのロックダウンなど経済活動を停止させるような動きは、世界経済に大きな影響を与えることになる。株価も一時大きく下落した。米株価指数が最高値を更新するなどしていたところも、「暗黒の木曜日」の下落を連想させた。  

 雇用をはじめとして景気の落ち込みもIMFの予想したような大恐慌以来最大の落ち込みとなっている。それでは、1930年台の恐慌が再び訪れるのかといえば、一概にそうとはいえないのではなかろうか。

 1929年10月24日の「暗黒の木曜日」以降、米株の下落相場は11月の最初の底入れ後、5か月程度、戻す期間があったとされる。今回もいわゆる半値戻しを東京株式市場でも達成するなど、「偽りの夜明け」ではないかと思われるような動きとなっている。これは本当に偽りなのか、それとも本格的に回復しつつあるのか。

 1930年当時と比べて、今回大きく異なっている点がある。それはすでにリーマンショックや欧州の債務不安などを乗り越えて、金融システムはかなり盤石となっている点である。もちろんそれでも不安は残るが、金融機関が1930年台のように連鎖倒産するような状況にあるとは思えない。

 企業についても特に大企業は内部留保も大きく、一定期間であれば経済活動が停止しようとも乗り越えることはできよう。それでも内部留保等が大きくない中小企業にとって痛手は大きく、これはフリーランスなども同様であり、影響がないわけではない。それでも全体でみると1930年台とは様相が大きく異なる。

 ただし、ひとつ注意すべきことがある。それはコロナ対策のための政府の財政政策の拡大と中央銀行による異次元を超えた量的規模を含めた緩和政策である。これは政府債務と中央銀行のバランスシートを巨大化させ、いわゆる財政ファイナンスと呼ばれるリスクを増加させる。これは若い人たちにとっては将来への不安を増加させることになりかねず、これにより経済活動を萎縮させることになりかねない。このリスクは認識しておく必要があると思う。ちなみに大恐慌と呼ばれた1930年台に日本で行われた政策が、高橋是清による高橋財政であったことも忘れてはいけない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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