台湾の政治家や要人らのLINEがサイバー攻撃で乗っ取られる事態に 日本も他人事ではない!?
台湾から日本人も無視できないニュースが報じられている。
現地の報道などによれば、台湾の政治家や要人などを含む100人以上のLINEのアカウントがハッキング被害に遭い、台湾の警察当局が7月28日に捜査を開始したという。LINEも異常な動きが起きていたことを認めている。
最初にこの情報を報じた地元のLiberty Times(リバティ・タイムズ紙)の記事によれば、ハッキング、つまり乗っ取られたアカウントには、台湾総統府や行政院(内閣)の高官、軍の幹部、与野党の政治家、自治体幹部などが含まれるという。LINEからの被害届を受けて、内政部警政署(警察)が捜査に乗り出している。
LINEは、地元メディアに「適切な対策を取っていく」と述べ、すでに総統府にも説明を行ったとも報じられている。
どうハッキングされたのかについては捜査結果を待ちたいが、実は台湾では2008年に要人も含む市民の7割の電話番号や住所をはじめとする個人情報が中国政府系ハッカーに盗まれたことがある。もしかしたらそうした情報から政治家や高官らもLINEアカウントに入り込まれた可能性はある。もちろんそれ以外にもあの手この手でハッキングを続けてきたとも考えられるが。
誰がハッキングを行ったのかについてはまだ判明していないが、ハッキングが事実であれば、おそらく中国が関与している可能性が高いと筆者は見ている。筆者は少し前に台湾におけるサイバーセキュリティの状況を取材すべく台湾を訪れ、サイバーセキュリティ当局や警政署、セキュリティ企業など数多くのサイバー関係者に話を聞いた。
台湾行政院(内閣)の資通安全処(情報通信安全局=サイバーセキュリティ局)の簡宏偉・局長は、中国政府系ハッカーは台湾をサイバー攻撃の「実験場」だと見ていると筆者に語った。台湾は現在、毎月3000万件ほどのサイバー攻撃を受けているが、簡局長は「台湾に来るサイバー攻撃の8割は中国からのものだ」と断言していた。そうした攻撃から、実際にセキュリティを突破される攻撃は30件ほどあるそうで、システムに影響を与えかねない深刻なケースが毎月2~3件あると述べていた。
とはいえ、「長年中国から攻撃を受けてきた経験から、私たちはきちんと対応できている」と自信も見せていた。
それでも台湾では、中国政府系ハッカーらによって内部情報が盗まれたケースは2020年8月にも起きている。内政部警政署によれば、少なくとも10の総統府系機関がサイバー攻撃されて、政府高官6000人分の電子メールが乗っ取られていた可能性が指摘されている。また台湾の半導体企業なども中国の情報機関である国家安全部(MSS)とつながりがあるとみられるハッカーらによって攻撃を受けている。
こうした状況から見ても、LINEへの攻撃も中国からだと考えるのが自然だろう。そして中国の攻撃だと確認されれば、それは、中国政府系ハッカーがLINEのアカウントを乗っ取ることができるということになり、約8600万人の日本人、つまり日本人の半数ほどが使うメッセージアプリが中国政府系ハッカーによって侵入されてしまうことを意味する。
このニュースは台湾で起きたからといって決して看過できないのだ。
台湾で現在、中国のサイバー工作員らによって、フェイクニュースや偽情報などがSNSなどを介して拡散され、深刻な問題にもなっている。2016年の米大統領選でロシアが実施したように、中国の政府系グループが、市民の世論を操作しようとしている。さらに新型コロナウィルスについての偽情報も4分の1は中国から出回っているという。
そうした脅威に、台湾は独自のサイバー対策とともに、国際的な協力を受けながら、サイバー空間でも中国に対峙しようとしている。筆者のアメリカ側の取材でも、アメリカやイギリスも今、台湾には協力的に情報も提供し、アメリカのFBI(連邦捜査局)などは台湾当局と協力してサイバー分野で中国からの攻撃を分析していると聞く。
また7月26日には、呉釗燮(ジョセフ・ウー)・外交部長(外相)と、唐鳳(オードリー・タン)・IT担当相が連名で、イスラエルのエルサレム・ポスト紙に寄稿し、中国からの攻撃を受ける台湾はイスラエルとも協力していきたいと訴えている。
日本も含め世界各国が、中国政府系ハッカーらによるサイバー攻撃の深刻な被害を受けてきた。中国はサイバー攻撃で破壊行為は行わないが、機密情報や知的財産の情報を盗んだり、世論操作のようなサイバー工作を繰り広げている。長い目で見れば、そうした工作によって、競争力が奪われ、国力の低下にもつながる。
アメリカのジョー・バイデン政権が価値観を共有する西側諸国が協力して、覇権を狙う中国などと対抗していこうとしているが、サイバー空間でも被害を受ける国々が協力して中国の脅威と戦っていくべきだろう。あらためて、中国のサイバー脅威をみんなで確認する時だと言えよう。