「社員の大量退職」が発生しても落ち込むな〜明るい未来が待っているかもしれない理由〜
■コロナのせい?か、大量退職を嘆く企業も
私は様々な会社の人事コンサルティングをしていますが、組織課題として「社員の退職」をあげる会社は少なくありません。特に事業上の問題が起こった会社などからは、まるで火事場から逃げ出す動物たちのように大量退職が続くこともよくあります。特に最近では「コロナ転職」という言葉もあるように、コロナによるドタバタに端を発した転職も多いようです。
経営者や上司としてそのような状況に直面すれば、落ち込む気持ちを抑えられないのも仕方ありません。しかし過去の事例を見てみると、意外にもそれを契機に職場が明るくなり、前向きな改革が進みやすくなったケースもあるのです。
■辞めていくのは「職場にネガティブな思いを抱く人」
大量退職が発生するとき、退職者たちはお互いに励ましあい、辞める勇気を後押ししあって、一斉に辞めていくものです。辞めた直後は会社の悪口を肴に飲むこともありますが、当然ながら転職先まで同じではない場合が多く、いずれ会うこともなくなっていきます。
一方、残された社員たちはどうなるのか。大量退職後の職場は寒々しく険悪なムード漂う職場になっていても不思議ではないと思うのですが、私が実際に見てきた光景はやや意外なものでした。多くの職場が、まずまず「明るく楽しい職場」になっていたのです。
そこには様々な理由があります。まず、辞めていった人は、基本的には何らかの理由で職場に対してネガティブな思いを持っていた人です。ある人は自分の評価に納得がいかない、ある人は会社の方針に賛成できない、など。そんな思いを持っている人は「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」といわんばかりに、どんなことにも難癖をつけて文句を言うことも多い。
そういう人たちが一斉にいなくなることで、職場で起こる様々な出来事に対し、ネガティブな意味づけをする人はいなくなります。むしろ、大量退職があるぐらいの危機であるにもかかわらずそこに残る人は、物事をポジティブに捉える人が多いものです。危機を楽しめる人ばかりの会社は、そんなに暗くはありません。
■つかえが取れた組織は「改革」に邁進する
もちろん、単純に物事の捉え方だけで、明るく楽しい職場になるなどというつもりはありません。大量退職後の職場は、実体もよくなっていることが多いのです。
危機を迎えた会社は、存続のために必ず改善しようと努力します。ネガティブな人が残っていれば、そんな前向きの改革すら斜に構えて捉えて、非協力的な態度で接するかもしれません。しかし職場に残ったポジティブな人たちは、それを真っ当に評価し、協力します。
残った人は会社に対する不満が少なく、これまで評価されていた優秀な人も多いものです。そういう人たちが力を合わせれば、会社の改善の意図が成就する可能性は高まります。本当に良い職場に向かって改善されていくというわけです。
また、大量退職の陰には、影響力のある人物の退職があることが多いのですが(それで連鎖退職が起きる)、「ネガティブ×影響力大」という人物は、実はその人こそが組織の問題であることも多いです。つまり、そういう人がいなくなったこと自体が、問題の大部分の解決になり、上のつかえが取れた組織は改革にまっしぐらとなりやすいのです。
■退職者は非難せず、仲良くしておいた方がいい
さて、ここまで大量退職がもたらすよい影響だけを書いてきましたが、大量退職したらその後は何でもOK、であるはずがありません。もちろん危機は危機です。退職が生じる原因を解決しなければ、さらなる退職が生じて、事業が立ち行かなくなってしまいます。
しかし、退職者がある程度落ち着いた後の職場は、改革に適した状態になっていることもある、ということを申し上げたいのです。そこで、大量退職発生後に気を付けなくてはならないことを二点述べておきます。
一つは、退職者を非難しないことです。退職者への非難は他責的で、過去の経営への無反省に見えます。何にもなければ大量退職など起こらないわけです。退職していった人にいくら問題があろうとも、基本的には「こちらが悪かった」と自責でいることで初めて、残った人々は、会社が本気で改善していこうとしていると信じてくれることでしょう。
むしろ、退職者とは機会があれば、仲良くしておくことにこしたことはありません。人は誰でも自分を肯定しようとしますから、退職を肯定するために会社を悪く言うのは自然なことです。退職者とリレーションを保っておけば、むやみな誹謗中傷を受けることは少なくなるでしょう。
■新しい風を迎え入れ、淡々と働きやすい職場を目指す
もう一つは、少しでも早く、退職者の抜けた穴を埋めるために採用を頑張ることです。大量退職を招いたものが財務的な問題である場合は、なかなかすぐに人を採用することはできないかもしれませんが、アルバイトや新卒でもいいので(むしろそちらの方がよいかもしれません)新しい人を入れるべきです。
新しい人は、自分が知る以前に退職した人には特に関心はありません。話を聞いたとしても、実際に会ったことがなければイメージもわかず、強い影響は受けにくい。それよりも今目の前でまさに起こっている前向きな改革の方にリアルを感じるのがふつうです。
新入社員は自然に社内の注目を集めますし、自身も希望に燃えて入社する場合が多いので、社内に勢いを生みます。会社が新しく生まれ変わる象徴が、新入社員なのです。
良くも悪くも、会社というものは新陳代謝を繰り返しながら生き続けていくものです。その中で、何かの理由で一時的に退職が増えてしまうこともあるでしょう。しかし、慌てず騒がず、まさに「ピンチはチャンス」、職場改革の絶好の機会と考えて、淡々と働きやすい職場を目指せばよいだけだと思います。
社会的に価値ある事業をやっている会社が、組織的問題で減速するのはもったいない。大量退職のあった会社は、めげずに是非頑張って欲しいと思います。
※キャリコネニュースで人や組織のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。