大宮エリーを衝き動かす、立川志の輔からの言葉
作家、脚本家、画家、映画監督、演出家、ラジオパーソナリティといくつもの顔を持つ大宮エリーさん(43)。今月、来月と音楽、朗読、おしゃべりを組み合わせたライブ「大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら」を東京・草月ホールで開催します。持田香織さんや小沢一敬さんら親交の深い仲間も出演しますが、その根っこにあるのは今の時代への使命感、そして、異業種の大先輩からもらった言葉でした。
自分で見る力
世の中、どんどん便利になっていくじゃないですか。VRとかもできて、行ったことがないところをリアルに見たり、体感できたりもする。
見えないものを見せてもらえて単純に「すごいなぁ…」とも思うんです。だけど、見えないものを自分で見る力、見ようとする力。ここも同時に鍛えないと世の中として、どんどんバランスが取れなくなるんじゃないかなと思いまして。
実際、NHKの番組「課外授業 ようこそ先輩」に出してもらって小学生と触れ合った時も、そんなことを思ったんですよね。
みんな、すごく素敵なものを持ってるんです。見る目はあるんです。ただ、そこを引き出してあげること。そのきっかけを与えることは必要なんだなと。
私がやったのは、黒板に“ワクワク”と書いて「みんなの中の“ワクワク”ってあるよね?今からそれを撮ってきてくれる?」と話したんです。
じゃ、ある子は時計の写真を撮ってきた。「この写真はナニ?」と尋ねると「給食の5分前。ワクワクします」と。この発想はすごいなと。
さらに、デッカイ岩の写真を撮ってきた子もいて、これも尋ねると「アリから見た小石の視点です」と。これも「なるほど!」と。
また、その写真を見て、みんなで話をするんですけど、他の子たちにも「そういう見方もあるんだ」という勉強になるし、自分が撮ってきたもので、みんなが「なるほど!」となったら、撮ってきた子にはそれが成功体験になる。
実際、撮ってきたものを見て、みんなが「オーッ」と歓声をあげると、撮ってきた子の表情は見る見る変わりますし、自信がつく。そういった子どもたちの顔を見ると、私もいろいろな仕事をさせてもらっていますけど、勝手ながら、大いなる使命感と言いますか、そういうこともやっていきたいと思うようになったんです。
疲れるほど、心が動く時間
じゃ、自分は何ができるのか。私は作家もしているし、絵も描いているので、子どもたちのみならず、多くの人の頭の中に絵を描いてもらうようなこと。例えば、言葉で伝えて想像してもらう朗読会ができないかと。そう思ったんです。
何回かポツン、ポツンとやったりもしていたんですけど、令和にもなったし(笑)、やるなら本格的に連続でやるぞ!と。そこで、お友達の持田香織ちゃんや「スピードワゴン」の小沢(一敬)くんと一緒に朗読、音楽、おしゃべりを合わせたイベントをやらせてもらおうとなったんです。
私が書いた60秒くらいの短い詩を読んで、そこから持田香織ちゃんの歌が流れる。そして、そのテーマに則ったおしゃべりをする。今の時代のテンポ感とかトーンからしたら、だいぶと“時代遅れ”なことかもしれませんけど、それをやってみたいと思ったんです。
さっきもお話をしたように、過去にも少しやったことがあったんですけど、5年前にやった時にもお客さんが「疲れた」と言うほど、皆さんが反応してくださいました。
めっちゃ笑わせといて、パッと真面目な話をして、その後、泣く。感情の振れ幅がすごく広くて、お客さんからしたら「疲れた」という感想になるくらい、心が動く時間だったみたいで、詩も歌もあっての流れになると、とりわけ、おしゃべりが盛り上がるんですよ。
その時は、イベント終了予定時刻を大幅にオーバーして、会場費の延長代として30万円くらい余計に払うことなって「アチャー!」ともなったんですけど、それだけお客さんも盛り上がってくださったからいいかと思うくらい、皆さん、楽しんでくださいました。
逆に「ありがとう」
今回の朗読会も、実は思いっきりそうなんですけど、私が強く影響を受けているのが立川志の輔さんなんです。ありがたい話、以前から親交がありまして。「今でこそ、落語会ってすごく盛り上がっているけど、昔は大変だったんだよ。人が来なくてね。続けていくことは本当に大事なこと。エリーちゃんもそういうものを見つけなさい」と言われまして。
こうやってお客さんの頭の中に像を結ばせるという流れも、基本的には落語の形を借りているところも多々あるんですけど、ただ、私には落語はできない。じゃ、私の範囲でできることは何なのか。それを考えた時に朗読会になったんですけど、こんな感じでたくさんのものを志の輔さんからはいただいています。
今から4~5年前、ご縁があって、志の輔さんの落語会を見に行かせてもらったんです。実際に見たら、すごくびっくりしまして。とにかく、面白い。終演後、楽屋にご挨拶にうかがった時、甘いものか辛いものか、どちらの差し入れが良いか分からなかったんで、両方渡しながら「もう一回見たいくらい面白かったです」と言ったら「まだ千秋楽の公演もあるから、じゃ、もう一回見に来て」と。
「もう一回見たいくらい、それくらい面白かった」ということをお伝えしたかったんですけど、思っていたのとは少し違う流れになりましたけど(笑)、本当に面白かったんで、仕事の合間に千秋楽に行かせてもらったんです。
仕事で時間がない中だったのと、もう一回目で甘いものも辛いものも両方とも差し入れもしてしまったし(笑)、もう渡すものもなかったので、家にあったミカンを握り締めて行ったんです。
終演後、体温で生ぬるくなったミカンを一つ渡して「やっぱり面白かったです」とお伝えしたら、逆にそこから2週間後くらい、私がやっていた個展に来てくださったんです。
驚いて、こちらが「ありがとうございます」とお伝えしようとしたら、カウンターというか、志の輔さんから「ありがとう。すごく力をもらった」と言われまして。本来、お礼の矢印は逆なんですけど、そこで志の輔さんにその言葉をいただけた。自分が作ったものを通じて、誉めてもらった。
作りつつも、どこかで「これでいいのかな」と思っている部分がある中、「これでもいいんだ」という自信をもらえたと言いますか。それって、すごく大きなことだったんです。今でも見に来てくださいますし、本当にありがたいばかりです。
次は料理番組
来年はまた一つやりたいなと思っていることがありまして。それは料理番組をやりたいなと。こんなこと自分で言うのも本当にナニなんですけど、よく皆さんから「大宮エリーって、5人いるの?」と聞かれるくらい、いろいろお仕事をさせてもらってはいるんです。
その中で「体をコントロールするというか、整えるのってどうしているの?針治療とかそういうところに行っているの?」みたいなことを聞かれるんですけど、私の場合、それが料理、ご飯なんです。
といっても、15分くらいでババッと作るんですけどね。簡単にできて、あと、夜中まで仕事をしてから食べたりもするので、なるべくカロリーが高くなくて、栄養価のあるもの。お酒もすごく飲みますし、カロリーが高いとすぐに太っちゃうんで。
そういったことを考えて編み出した料理が10品あるんです。別に珍しい料理ではないんですけど、手早く、そして美味しくなるポイントみたいなところをおさえた10品というか。
例えば、青菜と厚揚げの煮物とかも入っているんですけど、厚揚げを小さめに切って、まずごま油でしっかりと炒るんです。ひと手間ではあるんですけど、お出汁がジュワッと染み込む具合も全然違いますし、手間以上に美味しくなる。そんなレシピを尋ねられることも多いので、だったら、それを全て公開しようと。
これは料理のみならず、自分が持っているノウハウで役に立ちそうなものをどんどんシェアする。たくさん私も与えてもらっていますし、2020年はそんな年にできたらと思っているんです。仕事の幹になるようなことも含め。
ま、料理に関しては前日のお鍋の出汁が残っているから、翌日は通常レシピにそれを加えてみたいに、基本はセッションですから!好きなようにやったらいいと思うんですけどね。「あの人、あんなに雑に作っている割には、そこそこ美味しそう」でも何でもいいので(笑)、もしお役に立てたらうれしいことだなと思っています。
(撮影・中西正男)
■大宮エリー(おおみや・えりー)
1975年11月21日生まれ。大阪府出身。作家、脚本家、CMディレクター、映画監督、演出家、ラジオパーソナリティなど様々な顔を持つ。東京大学薬学部卒業後、大手広告代理店勤務を経て、2006年に独立。「生きるコント」「思いを伝えるということ」など著書多数。映画「海でのはなし。」で映画監督デビューを果たし、舞台も多く手がける。親交が深いメンバーと音楽、朗読、おしゃべりをするイベント「大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら」を東京・草月ホールで開催。11月13日には原田郁子、同15日はコトリンゴと小沢一敬(スピードワゴン)、12月2日には持田香織とおおはた雄一、同4日にはキヨサク(UKULELE GYPSY・MONGOL800)が登場する。