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毎年繰り返される「ベンチャーか、大企業か?」という就活の疑問。迷うなら大企業に行った方がいいけれど

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
どちらの道を進むべきか。(写真:アフロ)

■毎年「ベンチャーか、大企業か」

今年もそろそろ2023年卒の学生が就職活動を始めるシーズンに入りました。先行してインターンシップや採用活動をする企業に外資系やベンチャーが多いこともあり、会社選びの際には毎年のように「ベンチャーか大企業か」という議論が繰り返されています。

ネットで検索するだけでも大量の記事が出てきますが、逆にそれが「実際はどうなのだろう?」と学生さんを惑わせているのが現状ではないでしょうか。この記事もそのひとつになってしまわないように、誤解を恐れずにきっちりと私の意見をお伝えできればと思います。

■学生生活を割いて「就活」を頑張れるか

まず、結論を申し上げると、そもそも迷っているぐらいであれば、大企業に行った方がよいと思います。給料が高いし、安定もしている。優秀な人材がたくさんいて、同期もたくさんいるからネットワークも広がる。いろいろな先例も教育制度もあり、学習環境は整っている。会社の信頼を使うことでいろいろな仕事に恵まれ、チャンスもある。

「ない」と言われがちですが、裁量権も実はある。なぜあるかといえば、事業や組織が大きくなると全部社長ができなくなるので、どんどん権限移譲をするわけです。むしろ、大企業だから権限移譲がたくさんあって、裁量権があるのです。

なので、ふつうは大企業に素直に行けばよいのではないでしょうか。ただし、定義にもよりますが、いわゆる数千~数万人の社員を擁するような大企業は、社数でいえば全企業の1%以下しかありません。従業員数でも30%程度。つまり、入ろうと思っても簡単に入れるわけではありません。

さらに、多くの大企業の合格率は1%程度、つまり100人中1人入れるかどうかです。これを勝ち抜くには、見てそれとわかるぐらいの超優秀な人が、大事な学生生活を割いて就職活動を頑張らなくてはなりません。学生時代は二度と来ない素晴らしい時間だとすれば、それを捨てる価値に見合うかどうかはよく考えるべきでしょう。

■苦労して入っても向いていない人もいる

それだけ苦労して入った大企業でも、実は向いていない人がいます。たくさんのメリットがあるどんな大企業にも、早期退職者はいます。例えば、こんな人はあまり向いていません(私も結局そういう人間でした)。

・ワン・オブ・ゼム(大人数の中の一人)感が嫌な人

・たくさんのルールをきちんと守るのが苦手な人(大人数を統制するにはルールが必須)

・競争が嫌いな人(大企業は表面的にどう見えようとも競争の厳しい組織)

・自分で考えて試してみたい人(大企業には勝ちパターンが既にある)

などなど

ここで、消去法で「だからベンチャー」というのもなんですので、逆にベンチャーや中小のよいところを考えてみましょう。基本的にあらゆることが大企業の逆なのですが、ポジティブに捉えられるところを挙げてみます。

私が思うベンチャーの最もよいところは、競争が少なく自分が活躍できる可能性が相対的に高いことです。「鶏口となるも牛後となることなかれ」という故事があります。大きな集団や組織の末端にいるより、小さくてもよいから長となって重んじられるほうがよいということです。

私は大企業では人事部長になれませんでしたが、ベンチャーでその職を得て様々な経験から学ぶことができました。「競争が少ないから上に行ける」という考えは情けなく消極的に聞こえるかもしれませんが、私はキャリア構築の戦略的な考え方だと思います。

■「自分を見出してもらいやすい」ベンチャー

そもそも大企業の「厳しい競争」といっても、大人数の社員からの選抜が精度の高いものなのかどうか疑問です。誰に重要な仕事を与えて出世させるのか、どの新人を大都市の重要拠点に配属するのか。どうやって決めるのでしょうか。

最近は、採用時の様々なデータをうまく使うケースも増えましたが、配属を決めているのはまだまだ属性や感覚で、極論すれば「適当」であり「運」も左右するということです。

ところが、ベンチャーや中小は採用人数も少なく、社長でも新入社員の個々人をきちんと認識しているケースがふつうです(そうでなければ、そういう会社はやめておくべきでしょう)。無論、知られることは両刃の剣ですが、知られないまま自分の実力を活かせないことが最ももったいないと私は思います。

自分の「できること」や「やりたいこと」をきちんと知ってもらった上で、最も活躍できる仕事をアサインしてもらう。そこで成果を上げることでさらに上に行けるということは、キャリア構築上のメリットとして小さくありません。自分を見出してもらいやすいというメリットは、ベンチャーの最大の価値だと思います。

まとめると、結局は「なりたい自分になる」「やりたい仕事をする」にはどちらが近いのかを考えればよいと思います。大企業に入れそうで競争にも勝つ自信があるなら、大企業に行って巨大組織を動かしたり、その中で最先端の専門性を身につけたりしてください。

そうでなければ、ベンチャーや中小で、自分がやりたい仕事をさせてもらえることをできるだけ確約してもらって、大企業での「競争」をショートカットしましょう。リクルートに入って人事コンサルティングができるのはごく少数ですが、弊社なら全員そのチャンスがありますよ(宣伝です笑)。

キャリコネニュースにて人と組織に関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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