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自分の問題点を少しも省みることなく、選手選びだけに解決策を見出そうとするハリルホジッチ

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

W杯予選突破以降、右肩下がりが止まらないハリルジャパン

 事態はより深刻度を増している。W杯予選を突破して以降、暗雲が立ち込め続ける日本代表にいまだ希望の光は見えてこない。見えないどころか、時間の経過とともにその暗雲は厚みを増していると言ったほうがいいだろう。

 3月23日にベルギーのリエージュで行なわれた親善試合、対マリ戦。1-1というリザルトは別として、それはよほど熱心なファンでない限り、最後まで試合を見続けることさえ困難なシロモノだった。その試合内容に希望を持てた人は、一体何人いただろうか。

 ハリルホジッチ監督が指揮官に就任してからの日本代表のチーム力を折れ線グラフにした時、W杯予選中はなんとかその下げ幅を抑えることはできていたようにも見えた。ところが、そこで見え始めていたネガティブな要素は、本大会出場が決定した瞬間に一気に弾け、以降は急激な右肩下がりが始まっている。

 まず2017年10月の親善試合2試合でニュージーランドに2-1で勝利した後、ハイチに3-3のドロー。いずれもホームで完勝して然るべき相手にもかかわらず、試合内容は低調極まりなく、特にハイチ戦では2-0とリードした後に逆転を許してしまう始末。後半アディショナルタイムに香川真司が同点ゴールを決めたことでスコアだけは最低限の帳尻を合わせたが、敗戦を喫していても不思議ではない内容だった。

 続く11月の欧州遠征ではブラジル、ベルギーと対戦。どちらもW杯本大会に出場する世界屈指の強豪国であることを考えれば、連敗を喫することは想定内。しかし問題は、ブラジルに手も足も出ないまま完敗したことであり(1-3)、省エネでプレーしていたベルギーに少しの脅威も与えられないまま敗れてしまったことだった(0-1)。

 同時に、ハリルホジッチはこの4試合をメンバー選考のテストにも使ったため、次第に予選を戦ったチームはその骨格を失い、白紙に近い状態からチームを作り直す気配を漂わせ始めていた。

 そして、国内組だけでチームを編成した12月の東アジアカップ3試合。北朝鮮(1-0)、中国(2-1)にはなんとか勝利したものの、韓国との最終戦では1-4の大敗。右肩下がりを示すグラフの折れ線は、より深い角度で沈んでいった。

 韓国戦に敗れた後、ハリルホジッチ監督は次のように失望を露(あら)わにした。

「フルメンバーのA代表でも今日の韓国に勝てたかどうかわからない。この韓国のプレーを見た時、(フルメンバーで戦っても)あまり多くのことができないのではないかと感じた。受け入れ難いことかもしれないが、そうした現実を認めなければいけない」

 韓国のメンバーも、アジアでプレーする選手のみでベストメンバーではなかった。それに対して「ベストメンバーでも難しい」と指揮官本人が感じたのだから、相当に深刻な状況である。少なくとも、この大会に招集されたほとんどの選手たちが不合格を言い渡されたに等しいコメントだった。

 しかしその一方で、自身の仕事ぶり、采配の問題点を反省する様子は1ミリも窺えなかった。

 この7試合の悪い流れを受けて迎えた今回の親善試合2試合は、そういう点で注目に値した。チームの作り直しを行なうハリルホジッチが新しい解決策を見出すことができるのか。W杯本大会用のチームの骨格を定めることができるのか。また、選手層に厚みをもたせることもできるのかどうか……。

 結局、マリ戦を終えた段階ではいずれも不透明なままだと言っていい。むしろ冒頭での表現通り、問題はより深刻化している。それは試合後の指揮官の重苦しい表情が物語っている。

「現実を直視してトレーニングを続けるしかない。W杯はまだまだ遠い。誰のこともまだ判断したくはない。(現在は)チャンスを与えて、解決策を探している段階だ。スタメンで使いたい選手が5、6人いなかった。それを痛感した試合だった」

 指揮官の口から発せられたネガティブな言葉は、まるで滝の水のように勢いよく出てきた。これが本音なのだろうが、逆に言えば、それは指揮官本人の自信のなさと限界を、白日の下に晒(さら)していることになる。

 久しぶりに代表に復帰し、まずまずのパフォーマンスを見せた宇佐美貴史や代表デビュー戦で同点ゴールを決めた中島翔哉にしても、試合後のハリルホジッチの言葉から推測すれば、本大会行きのチケットを手にしたとは言い難い。そもそも指揮官自らが試合後に「今日は深い分析には入りたくない」と語った試合では、ポジティブな評価を得られた選手はひとりも存在しなかったと見るのが妥当であろう。

 自分の問題点を少しも省みることなく、選手選びだけに解決策を見出そうとするスタンスを崩さないハリルホジッチ。ここ8試合の流れからすると、27日のウクライナ戦も低調な試合になる可能性は高い。

 もはや症状は末期にさしかかっている。この最悪な状況を一変させるような起爆剤をハリルホジッチが見出すことはできるのか。そして、見出すことができなかった時、この先の日本代表に何が起こるのか。

 ウクライナ戦の焦点は、そこに絞られているといっても過言ではない。

(集英社 週プレNEWS 3月27日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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