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【連載】暴力の学校 倒錯の街 第16回 体罰の実態

藤井誠二ノンフィクションライター

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体罰の実態

山近博幸校長の「体罰は知らなかった」という発言は嘘か方便か、それとも本当なのか。

校長が事件直後の十七日午後六時半にひらいた記者会見では、「宮本先生は熱心な先生で、生徒を思いやる気持ちからのことかもしれない。しかし、絶対にあってはならないことで非常に残念」と発言している。しかし十八日朝の段階になると、「どんな状況であれ体罰はいけない。生徒との断絶が生まれるだけで効果は全くない。体罰はいけないと機会あるごとに教職員全員に注意してきた」と言いつつ、他の教員が棒で生徒を叩いていたことが報じられたことについては、「服装の悪い生徒を竹の棒でつついて注意することはあるかもしれない。遠くから見ると叩いているように見えるかもしれないが、それが体罰だとおっしゃられればしょうがない」と体罰についての認識の浅さを露呈した。

近大附属では、十九日の早朝から幹部会議を開いている。山近校長以下五人が出席し、終業式で事件の経過を生徒に説明すること、福岡県私学学事振興局に報告書を出すために「調査委員会」を発足させることを決めた。この時点で、「体罰があったという報告や通報はいまのところない」と校長は説明していた。

ところか、二○日に開いた職員会議で過去五年間に体罰を加えたことがあるか否かを調査した結果、全専任教諭五四人中、女性教諭三人を含む二二人が「体罰の経験がある」と答えたのである。

調査の方法は自己申告で、(1) その年(九五年)五月に男性教諭が生徒を平手で数回叩いた、(2) 宮本教諭が六月下旬、生徒の所持品検査をした際、逃げ出した生徒を四階の階段から三階までひきずりおろしたという二件等については、担任が保護者と話し合いをしていることもわかった。二例とも校長には報告していなかったことになる。

また、忘れ物や校則違反をした際に、「一、二回目は見逃すが、三回目は体罰を加える」と体罰を予告する教員もいたことがわかった。

こうした体罰の自己申告を受け、職員会議では(1) 体罰は絶対にしない、(2) 生徒指導上の課題は校長と教頭に報告する、(3) 生徒指導は根気強くきめ細かくおこなう、(4) 家庭訪問はまめにおこない保護者との連絡を密にし、(5) 他の生徒がいる前で叱らない――の五項目を申し合わせた。

この内部のウミを出す調査が、どの程度の真実味を帯びているか不明だ。二二人の「体罰」体験者が、過去五年間におこなってきた体罰のすべてを告白したわけではないし、事実関係を生徒や卒業生にあたって調査するという徹底性もない。そして、校長らが、体罰教員を「教師不適格者」として処分するような厳しい決断もみられなかったからである。マスコミの批判をかわすための演出といわれても、申しひらきできまい。

さらに、ここで一般紙には報道されていないことが起きていた。

事実、報告された事例は二六件あった。しかし、このうち「懲戒権の範囲を越えた体罰」と校長が認定したのはたったの三件のみだったのである。この三件については報告書を作成、同年八月一日にこの三件の「体罰に関する調査報告」を福岡県私学学事振興局・私学振興課長あてに提出している。平成五年四月の加害教員は藤瀬新一郎、平成七年五月は篠木守展、同六月は宮本の起こした事例であった。

〔発生年月日/平成五年四月下旬〕

○加害教師  男・二九歳・勤続五年

○被害生徒  女・高等部三年

○体罰の態様

女子生徒が教室の後方で色付きのリップクリームを塗っているのを、横の廊下を通っていた教師が見つけ注意したが、本人に素直に指導に従う態度が見られなかったため、(廊下側に面した)窓越しに平手で数回叩く。なお本人がふてくされた態度をとったため再度数回叩く。

○被害の程度

本人は病院に行き、軽度のむちうち症との診断を受ける。外傷はない。

○学校の対応

生徒へ―当該教師からの報告を受け、家庭訪問を繰り返し、両親とも話し合ったが、父親は警察に被害届けを出し、簡易裁判所に賠償請求の手続きをおこなった。

教師へ―校長より体罰について厳しく指導がおこなわれた。後日、全体の教師に対しても校長の指導講話を中心にした研修会がおこなわれた。

○処理状況等

警察での事情聴取、簡易裁判所での話し合いが重ねられる中で、九月すぎに和解し、民事、刑事ともに取り下げられた。その後、長崎へ一家転住。

〔発生年月日/平成七年五月九日(火)〕

○加害教師  男・三一歳・勤続九年

○被害生徒  女・高等部二年

○体罰の態様

朝のホームルーム中に遅刻してきた数人の生徒を注意したところ、その中の一人が暴言をはき指導を無視する態度をとったため、平手で顔面を数回打つ。

○被害の程度

まぶた及び目の横が赤くなり、若干腫れた。

○学校の対応

生徒へ―学校に報告がないため対応できない。当事者同士では次のような対応があった。

※保健室に行かせ氷で冷やさせた。

教師へ―生徒に手をあてた理由を説明した。その後、生徒は教師の指導を納得し、指導を受け入れるようになった。

○処理状況等

当事者の教師に父親から電話があり、子どもが悪いので怒られるのは仕方ないが、腫れるまで叩くのはどうか、今後気をつけてほしいと言われた。当該教師は陳謝した。

〔発生年月日/平成七年六月十四日(水)〕

○加害教師  男・五○歳・勤続二八年

○被害生徒  女・高等部二年

○体罰の態様

放課後十名程度の生徒を残して書き取りの再試験をおこなっていた。終了した一名が答案を出して帰りかけたので、ちょうど教科書などの持ちかえりを校内あげて指導中であったので、カバンの中身は入っているかと注意。生徒が逃げ出したので追いかけていき、掴み合いとなる。

○被害の程度

外形に出るような怪我はなかった。

○学校の対応

生徒へ―学校のほうに報告がなく、生徒に対しても教師に対しても対応できなかった。

教師へ―(記載なし)

○処理状況等

当該教師が母親に電話をし、約一週間後、母親・担任と当該教師で話し合い

の末、和解した。

当事者の言い分が書かれていない、ましてや被害者への聞き取りがないのは、杜撰としか言いようがなく、従って報告書としてはいいかげんなものである。状況がまったくと言っていいほど掴めない。

事件直後の記者会見などで、「体罰があったことは知らなかった」と明言した山近校長は、これらの体罰が、自分の運営する学校で横行していたことを本当に知らなかったのだろうか。

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ノンフィクションライター

1965年愛知県生まれ。高校時代より社会運動にかかわりながら、取材者の道へ。著書に、『殺された側の論理 犯罪被害者遺族が望む「罰」と「権利」』(講談社プラスアルファ文庫)、『光市母子殺害事件』(本村洋氏、宮崎哲弥氏と共著・文庫ぎんが堂)「壁を越えていく力 」(講談社)、『少年A被害者遺族の慟哭』(小学館新書)、『体罰はなぜなくならないのか』(幻冬舎新書)、『死刑のある国ニッポン』(森達也氏との対話・河出文庫)、『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)など著書・対談等50冊以上。愛知淑徳大学非常勤講師として「ノンフィクション論」等を語る。ラジオのパーソナリティやテレビのコメンテーターもつとめてきた。

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