紙の模型タワー作り!? 地震学者大木聖子氏のゼミ生が「災害対応」の実践を学ぶ
防災の知識を身に付けることと、災害時に実際に動けるようになることは異なる。
いくら地震のメカニズムを知り、安全確保の方法や備蓄の重要性を知っても、実践できない人は多い。ましてや、人を助けるための救助・救出のスキルなどは、いくら座学で知識を身に付けても、現場で生かすことができなくては意味がない。
そんな座学と実践力の壁を超える取り組みに、地震学者で慶應義塾大学環境情報学部准教授の大木聖子氏が主宰するゼミ生たちが挑んでいる。
災害対応の一線で活躍する現役の消防士やOB、医師、企業らから、災害発生直後の救助・救出活動などを座学と実践によって学ぶというもの。「命をつなぐポジティブ防災~守る力をすべての人へ」をテーマに、計3日間のプログラムで、災害への準備やグループ編成、火災への対応、災害の心理学、危険物・テロ災害への対応、災害救護活動、捜索や救助、の各項目について、知識と技術を身に付け、最後に総合演習を行う。
講師は、一般社団法人災害対応訓練研究所代表で在日米陸軍消防本部に所属する熊丸由布治氏、岩手医科大学岩手県高度救急救命センター助教で災害医療専門の秋冨慎司氏、消防関係の人材教育や訓練支援などを手掛ける株式会社 タフ・ジャパン代表取締役社長の鎌田修広氏ら。企業では高性能防じんマスクや化学防護服など安全製品を扱うスリーエムジャパンも参画する。
12月4日に行われた最初の講義では、36人の学生が参加。演台に立った熊丸氏は、「災害対応の知識、技術、そして勇気を勝ち取り、助けられる側から、助ける側の立場になってほしい」と今回の授業の目的を説明。続く自己紹介では、参加した学生一人ひとりから「防災を専攻しているが、災害が発生した時、自発的に動けるようになりたい」「人を助けられるスキルを身に付けたい」などの期待が発表された。
紙の模型タワーづくりで危機対応力を磨く
自己紹介に続き課せられたのは、紙の模型タワーづくり。
教室内を5人ずつのグループに分けると、各グループには約20センチ四方の段ボール2枚と、A4サイズほどの厚紙約10枚が配られ、「まずリーダーを決め、ハサミやテープを使って10分以内に高さ150センチ以上のタワーを作ってください」との課題が熊丸氏から言い渡された。ただし、最初の5分間は計画づくりの時間で、実践できるのは残り5分だけ。
スタートの合図が出ると、各グループでは、「厚紙を丸めて柱にしたらいい」「三角の方が強い」「下層の方を多くしなくては倒れてしまう」など、さまざまな議論が始まった。図面を書きはじめたり、役割分担を決めているチームもある。
後半の5分は、会場内の雰囲気が一気に変わるほど慌ただしい。計画通りに紙を丸めても、なかなか土台づくりがうまくいかない。上層階をつくる途中でタワーが倒れてしまうことも…。時折、大きな落胆の声や笑い声が会場に響いた。
見事、完成したのは5グループ。厚紙を丸めた筒を柱にして、1層目、2層目、3層目、4層目とピラミッド型に積み上げた塔、段ボールで土台を固め、あとは厚紙を丸めた筒を直列でひたすら150センチの高さまで積み上げた塔、曲がったアンテナのように歪な形をしながらもなんとか高さを満たしている塔など。
一見、災害対応には何ら関係がなさそうに思える訓練だが、熊丸氏は「今皆さんにやってもらったことは災害時の状況を再現したもの。災害時には、普段はやらないことを、知らない道具を使って、知らない人たちと迅速に行わなくてはいけない。人命がかかわっているから、スピードが勝負。そのためには、計画づくりやチーム内での役割分担、進捗の管理や計画の見直しなどがしっかりとできるようにする必要がある」と語った。
ゼミを主宰する大木聖子氏は、「学生たちは防災に対する基礎的な知識は十分学んでいる。知識を身につけることと、災害時に実際に行動できることは別だとうことも理解している。この実践的なスキルを身に付けてもらうことで、少しでも自信をつけてもらいたいというのが私の願い」と話す。
2回目の講義は18日、3回目は20日、それぞれ慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスで予定されている。