「神様に祈って走った」。今季初得点の武藤嘉紀が明かした執念のゴール
センターライン付近からゴール前にFKのロングボールが飛ぶと、ニューカッスルのFW武藤嘉紀はゴール前へ猛ダッシュで走っていった。
「とにかく、ボールがこぼれてくることを願って。あそこは神様に祈って走ってました」(武藤)。ボールは武藤の頭上を越えて、前方を走るオランダ人DFイェトロ・ウィレムスの下へ飛んでいく。
そのウィレムスが胸トラップすると、相手選手と交錯。勢いよくゴール前に走り込んできた、その武藤の足下にボールが転がった。日本代表FWが右足でゴールに押し込んでネットを揺らすと、ゴール裏に陣取るサポーターたちに向かって力強くガッツポーズ。18年夏にニューカッスルにやってきた武藤にとって、この得点が本拠地セント・ジェームズ・パークでの初ゴールとなった。
この試合にかける武藤の思いは、ひときわ強かった。8月9日に開幕したプレミアリーグで、第3節までベンチスタート。出番は後半からの途中出場に限定され、アピールしたくてもできないというもどかしい状況が続いた。
こうして迎えたレスターとのリーグ杯2回戦──。国内リーグ戦に比べて優先順位の落ちるこの大会で、武藤は今シーズン初先発を命じられた。チームは1.5軍メンバーで臨んだとはいえ、それでも武藤にとっては、待ちに待った大きな、大きなアピールの場である。「ゴールを決めないと序列は変わらない」と常日頃から言い続けている武藤は、「今日の試合で点を取れなかったら終わりという覚悟で来た」と、並々ならぬ思いを抱いてスタジアムに乗り込んだ。
ポジションは、5−4−1システムの1トップ。カウンター時にDFラインの背後に抜けたり、相手DFのパス回しを追いかけたりと、立ち上がりからCFとしての仕事を黙々とこなしていった。「5-4-1のシステムのなかで、僕が1トップとして前線に一人でいることになる。だから、あまり下がりすぎるのも良くない。でも、前線で孤立しすぎるのも良くない。良いポジションを保ちつつ、裏のスペースに抜けることを意識していた」と言う。
前半10分には、クロスボールを呼び込もうとファーサイドに走っていったが、肝心のボールが出てこない。味方に「裏のスペースにボールを出してほしい」とジェスチャーで要求したり、185センチ・95キロの巨漢CBウェズ・モーガンとの空中戦に挑んだりと、武藤は立ち上がりから精力的に動いた。
そんな積極的な姿勢が、ニューカッスルの同点ゴールを呼び込んだ。FKからのロングボールに「追いつくか追いつかないか、自分にもわからなかった」が、「とにかく、ボールがこぼれてくることを願って。ゴール前に入って行ったら、いいボールが来た」(武藤)。地元紙シールズ・ガゼッタが「正しい場所に、正しいタイミングでいた」と評したように、武藤がゴール前に詰めていなければ得点は生まれなかった。
本人も「どんな形の点でもいい。1点は1点。プレミアは間違いなく、そういうところ。形なんて気にしていない。ポジション争いをする上で、ゴールはほんとに大事なことなので。先発で初めて使われて、そこで点を取れたのは大きい」と胸を張った。
強い気持ちで臨んでいたのは、1−1で迎えたPK戦にも表れていた。武藤は5人で編成されるPKキッカーの1人だったが、順番は決められていなかった。そこで、重要度の高い1番手を志願した。
「PKはかなり練習していたけど、試合中のPKは蹴る人が決まっていた。『今日の試合で絶対に点を取って、PKの序列も上げておかないと』って思っていた。だから、1番手に志願した」と武藤は明かす。試合の中でもPKキッカーを務めたい。それゆえ、自身をアピールするため1番手に名乗りをあげたという。
そのPKを、武藤はきれいに決めて成功。チームメート2人がPKを失敗してニューカッスルは敗れたが、昨年12月26日以来となる公式戦の先発出場を果たした武藤は、自身を最大限にアピールすることに成功した。
「レギュラーになりたいからこそ、こういうところでやっぱり点を取らないと、序列が変わらないのは分かっている。だからこそ、点を取るしか生き残る方法はない。これで流れに乗って、プレミアでも早く点を取りたい。次の試合もホームだし、サポーターも力になってくれると思う」
今季初ゴールは、まだまだ通過点。武藤の視線は、すぐにその先へ移っていた。