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原爆に対する日米韓の意識:韓国「防弾少年団」原爆Tシャツ問題から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
防弾少年団メンバーが「原爆Tシャツ」着用で波紋 LJカンパニーのウェブサイト(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

<原爆のキノコ雲の写真を、原爆の悲惨さを伝えること以外の目的で使うことに、私たち日本人は違和感を感じるのではないでしょうか。>

■防弾少年団(BTS)、原爆Tシャツ問題

元徴用工問題で日韓関係が冷え込む中、芸能分野でもトラブルが置きました。

韓国のトップアイドルグループ「防弾少年団」BTS。アメリカのビルボードで1位獲得。タイム誌の表紙も飾った、世界的グループ。このメンバーの一人、JIMIN(ジミン、23)が着ていた「原爆Tシャツ」問題視され、11月9日に予定されていた「ミュージックステーション」(テレビ朝日)への出演が、急遽中止されました。

報道によると、テレビ朝日側は次のように説明しています。

「番組としてその着用の意図をお尋ねするなど、所属レコード会社と協議を進めてまいりましたが、当社として総合的に判断した結果、残念ながら今回はご出演を見送ることとなりました」。

また報道によると、Tシャツの販売会社側は、次のようにコメントしてます。

「反日感情と日本に対する報復などの意図があるわけではなかった。~(原爆写真の)その部分は、日本をばかにするような気持ちはなかった。原爆が投下され、日本が無条件降伏したために、韓国は解放されたという歴史の順序を表現するものだった」。

日本のファンは残念がっていると思いますが、日韓双方で互いに非難の声が上がっています。

■原爆Tシャツとは

問題のTシャツには、長崎に原爆が投下さたときのキノ雲の写真がプリントされています。また、日本統治からの解放を迎えた韓国人の写真、「Liberation(光復:かつての栄光を取り戻す意味で、日本の統治下からの解放を指す言葉)」「Our History(私たちの歴史)」「Patriotism(愛国心)」などの言葉がプリントされていました。

製作者側にとっては、「光復節(日本植民地支配からの独立記念日)Tシャツ」です。

■原爆に対する日本、アメリカ、韓国の意識の違い

原爆に関する意識は、国によって大きな違いがあります。

1995年(減額投下から50年目)のNHKの調査によれば、「原爆投下は正しい選択だった」と考える人の割合は、

日本    8.2%

アメリカ 62.3%、

韓国   60.5%

ドイツ   4.3%

でした。

2005年(原爆投下から60年)の調査では、正しいとする日本人は15.5%、アメリカ人は56.6パーセントでした。

原爆投下を今でも許せないと考える日本人は、2010では52.8%、2015年では48.8%でした。

2015年(原爆投下から70年)にアメリカの調査会社が行った調査によれば、原爆投下を正当だったと考える人の割合は、日本では14%、アメリカでは56%でした(同年のネット調査では45%という数字も出ています)。

ギャラップなどの調査によると、アメリカでは過去数十年にわたって、原爆投下を支持する人の割合は50%前後で安定しています。しかし、希望もあります。

アメリカでの調査でも、年齢が高いほど原爆投下を支持し、年齢が若いほど原爆投下を支持しない人が増えています。原爆投下に対するアメリカ人の意識にも変化が生まれているといえるでしょう(「原爆投下に対するアメリカ人の見方に変化が:ネットアンケートで30歳未満の約半数が原爆投下を「間違っていた」と回答」:ニューズウイーク2015/8/6

オバマ大統領が広島を訪問するなど、アメリカ人の原爆への考え方も変わりつつあります。しかしその一方で、日本はもっと戦争責任を認めるべきだとの声もあります(「原爆をめぐる日米の意識のずれ…米誌は戦争責任を認めない日本を批判」:ニュースフィア2016.5.18

国による原爆意識の違いは大きいのですが、8月6日原爆記念日の報道も、国によって異なっています(参考:西岡達裕2015「 原爆投下をめぐる日米の世論:70年後の節目に」)。

アメリカでは、2005年の報道では原爆を正当化し、その悲惨さを伝える報道はほとんどありませんでした。しかし、2015年になると、政府公式見解に疑問をはさみ、原爆の悲惨さを伝える報道も一部登場します。

ヨーロッパでは、かつての敵味方に関わらず、原爆の悲惨さにふれる人道的立場からの報道が多いようです。

一方韓国では、原爆に関してはヨーロッパほど大きくは報道されず、原爆の悲惨さに関する報道はほとんどされません。一部報道では、原爆を「悲劇」としながらも、日本が加害者の面を認めず被害者の面ばかりを強調することを批判しています。

■原爆、キノコ雲へのイメージ

今回問題とされた「原爆Tシャツ」には、キノコ雲の写真が使われていました。キノコ雲は、原爆の象徴であり、原爆の悲惨さの象徴です。あのキノコ雲の下で、どれほど悲惨な地獄があったかを、私たちは繰り返し学んできました。

原爆のキノコ雲の写真を、原爆の悲惨さを伝えること以外の目的で使うことに、私たち日本人は違和感を感じるのではないでしょうか。

けれども、世界の人々が同じように感じている訳ではありません。ある国の人にとっては、独立解放の象徴であり、ある人々にとっては、力や正義の象徴でさえあるのでしょう。あるいは、原爆の破壊力の大きさは知っていても、「ピカドン」と言われた原爆の光も音も煙も、花火の光と音のようにしかイメージできない人もいるかもしれません。

1994年のハリウッド映画『トゥルーライズ』(監督:ジェームズ・キャメロン、主演:アーノルド・シュワルツェネッガー)。主人公がテロリストと戦うコメディー・アクション映画で、とても面白い大好きな映画です。

ただ、この映画の終盤で、主人公がテロを食い止め、テロリスト側の核爆弾ははるか遠くの無人島で爆発するば場面あります。空を照らす原爆の光、もくもくと湧き上がるキノコ雲。その景色を背景にして、愛を取り戻した主人公夫婦のラブシーンが描かれます。コメディータッチですから、まるで夕日をバックにキスしているように描かれています。

おそらくアメリカ人が見れば、ただの面白く美しいシーンでしょう。しかし、日本人である私はやはり違和感を感じました。いくらテロを食い止めた象徴とはいえ、原爆の光と雲が面白さや美しさを表す道具に使われることには、やはり不快感を感じました。

ただ、広島長崎の原爆を描写したものではなく、当時特に問題にされることもなく、映画の評価を下げるようなものにはなりませんでした。

しかし、原爆に関する意識が国によって大きく違うのだと感じました。

国によって、原爆への評価が違います。歴史的事実の評価も違います。受けてきた教育も、マスコミ報道の内容も違います。国民個人の意見や感じ方が異なるのも、当然です。

不快感は表現した方が良いでしょう。もちろん、マナーは必要です。日本人とアメリカ人が互いに行き来し、会うたびに、「リメンバー、パールハーバー!」「ノーモア、ヒロシマ!」とやりあうことが正しいとは思えません。

それでも、互いに事実を知り、相手の気持ちを理解しようとすることが、平和を作っていくのだと思います。

*広島、長崎では、何万人もの南北朝鮮の方々も犠牲になり、アメリカ人捕虜も被爆しています。核爆弾は、無差別大量殺戮の兵器である事実は、否定ができないことでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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