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「差別のない明るい社会」を目指してほしい

橘玲作家

なんのためかよくわからないまま衆院解散が決まりましたが、政党同士の足の引っ張り合いにつき合っていても仕方がないので、ここでは候補者たちに託したい前向きな提言をしてみましょう。

一般にリベラルとネオリベ(新自由主義)は、結果平等を求めるのか、機会平等でじゅうぶんだ(結果が不平等になっても構わない)とするかで分かれるとされます。しかしどれほどリベラルでも、私的所有権を否定する共産主義の理想社会(グロテスクなディストピア)を目指すひとはいないでしょう。一方、貧しい高齢者が餓死するのを見て、「機会は平等だったんだから自己責任だ」と突き放すネオリベもいないはずです。現代の政治的対立とは、同じ価値観を持つ者同士が、どこでバランスを取るかでいがみ合うことなのです。

しかしそれでも、機会が平等でなければ結果の平等もあり得ないわけですから、社会から差別をなくすことはあらゆる(民主的な)政治思想に共通の理想です。しかし現実には、日本ではいまだに多くの差別が放置されています。

「差別」というと「朝鮮人を殺せ」と連呼する集団を思い浮かべるかもしれませんが、もっとも広範な社会的差別は終身雇用・年功序列の日本的雇用が生み出すものです。このローカルルールは日本人(日本採用)の正社員にしか適用されませんから、日本企業は海外での現地採用を平等に扱うことができません。これが人種や国籍による差別と見なされ、優秀な外国人社員が数年で欧米系企業に転職していく原因になっていることは、海外法人の採用担当者なら誰でも知っていることです。

また終身雇用は、定年に達した社員を強制的に解雇する制度ですから、これは年齢による差別以外のなにものでもありません。採用にあたって年齢で選別することは法で禁じられていますが、新卒採用の年齢制限は「日本的慣行」として適用除外にされています。

派遣法の改正では「派遣社員の正社員化」が目指されましたが、どのような働き方をするかは労働者の選択に任せればいいのですから、これは大きなお世話です。問題なのは「正規」と「非正規」で同じ仕事でも待遇が大きく異なることで、これは「現代の身分制」というほかありません。

そのうえ日本の会社はサービス残業という滅私奉公で社員の忠誠度を判定しており、子育てをしながら働く女性が管理職に昇進することは至難の業です。それに加えて政府は、配偶者控除や(専業主婦の社会保険料を免除する)第三号被保険者制度で女性の労働意欲を制度的に奪っており、その結果日本は、男女平等ランキングで142カ国中104位という“後進国”になってしまいました。

少子高齢化の進展で、日本経済はこれから労働力の枯渇に悩まされることになります。そんなときに、会社に生産性の低い労働者を囲い込んで失業率を下げる政策は時代遅れです。いま必要とされているのは、生産性に見合った賃金でいつまでも働けるようにすることと、金銭による整理解雇を認めて不要な人材を労働市場に戻し、有用な人材として再雇用される仕組みをつくることです。

これはべつに過激な提案ではなく、北欧諸国では当たり前の“世界標準”の労働制度にすぎません。党派を問わず、政治家にはまず「差別のない明るい社会」を目指してほしいものです。

『週刊プレイボーイ』2014年12月1日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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