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「ここからどう売れたらいいのか」。「オジンオズボーン」篠宮が噛みしめる松竹芸人の苦悩と光

中西正男芸能記者
「オジンオズボーン」の篠宮暁さん

 Twitterに投稿した「漢字『鬱』の覚え方」が話題になり関連著書も上梓したお笑いコンビ「オジンオズボーン」の篠宮暁さん(39)。新たなキャラクター・大林ひょと子として単独ライブを開催するなど常に話題を発信し続けています。その裏にある松竹芸人としての苦悩。そして、見出した光とは。

「M-1」に出られない

 2015年で「M-1グランプリ」の出場資格を芸歴が超えてしまいました。さらに、一昨年から「R-1グランプリ」の出場資格も芸歴10年以内になったのでこちらも出られない。

 現状では大きな賞レースで出られるのが「キングオブコント」だけになってしまったんです。

 ただ、僕らのコンビは演技ができるようなタイプではないし、今のコントは僕らがやっていた時よりも格段に進化している。

 そうなると、真正面からやっても難しい。ただ、何かしら可能性はないのか。そこで考えたのが大林ひょと子というキャラクターだったんです。

 ひょっとこのお面で顔を隠すという意外性、さらにリズムに乗せたネタ。そして、ひょっとこの口がどちらに向いているかという分かりやすさ。それなら一発あるかもしれない。そんな発想で生まれたものでした。

 ありがたいことにネタ番組からもたびたびお声がけをいただき、5月に東京で、8月には大阪でひょと子としての単独ライブを開催できるまでになりました。

 ひょと子もそうですけど、ここ数年はいろいろなパターンで発信をしてきました。19年にSNSにアップし本も出させてもらった漢字ネタもそうなんですけど、何か発信を続ける。その根っこにあるのは「もう『M-1』には出られない」というところです。

 「M-1」という王道の売れる道が閉ざされた中、どうやって売れたらいいのか。直球で売れるのはもう無理なんじゃないか。だったら芸人を辞めるのか。でも、辞めるという選択肢は自分の中にない。

 じゃあ、なにをするのか。それを考えて手にしたこともないパソコンを買い、独学で映像や音楽を作り始めたんです。そこから漢字ネタなどが生まれました。

松竹芸人の苦悩

 本当に正直な話、これが吉本興業の芸人さんだったら「劇場を主戦場に食べていく」という選択肢もあると思うんです。もちろん、それもライバルが多いし、ものすごく難しい話だとは思いますけど、一応その道を目指すことはできる。

 ただ、松竹芸能には吉本興業のような寄席がないので、そのパターンが存在しない。王道の売れ方もなくなった。劇場で存在感を見せることもできない。だったらどうするのか。この苦悩は本当に大きい。それは感じてきました。

 ならば、やっぱりメディアで注目してもらう必要がある。でも、芸歴20年を超えた漫才師をわざわざ番組に呼ぼうとはなかなかならない。鮮度や「今呼ぶ理由」が見つけにくい。

 だったら、何か新しいことを打ち出して「今呼ぶ理由」を提示する。それしかないだろうと思ったんです。

 今の世の中は自分がやろうと思えば簡単に発信はできる。こちらの気持ちに委ねられている。そして、大げさな話ではなく、SNSでの発信は日本のみならず海外にもつながっている。それをここ数年で実感しました。

 実際、4~5年前に“シャッフル男爵”というフリップネタをやったんですけど、それが台湾でバズって、台湾まで行ってネタをさせてもらうこともありました。今回のひょと子もTikTokがインドネシアでバズっているようでして。そういうことがあるのも、このパターンの話ならではのことなんだろうなと感じています。

 そう思うと、今まではとにかく漫才を頑張って「M-1」で結果を残す。そういう視野と射程距離でやっていたんだなと自分たちのことながら再認識しました。当然、それはすごく大切なことなんですけど、別の見方をすると視野が狭かったという見方もできる。

 ひょっとこの口がどちらに曲がっているかなんてのは、確かに言語関係なくどの国でも理解してもらえることでしょうし(笑)、凝り固まっていた思考が柔軟になった気はしています。

面白い人は売れる

 この考えを持つに至るまで、強く影響を受けたのが古坂大魔王さんでした。古坂さんもピコ太郎として世界的な人気を得ることになりましたけど、ピコ太郎の前からイベントにもちょこちょこ呼んでいただき、お世話になっていたんです。

 僕なんかが言うのはおこがましいですけど、本当に面白いんです。ただ、こんなに面白い人が「ボキャブラ天国」(フジテレビ)以来、あまり露出がない。そんな不条理を感じてもいたんですけど、僕などが考える以上にあらゆるものを作ってらっしゃって、結果的にはそれが世界に刺さった。

 その姿を間近で見せてもらって、そこに道があることにさらに確信したといいますか。漢字ネタをやり始めた時も「いいのを見つけたじゃない」と言ってくださって、ネタを盛り上げるプロモーションビデオ的な映像も作ってくださいました。

 面白い人は発信を続けていればどこかで評価をされる。それを体現してらっしゃる方なので本当に背中を押してもらっています。

 去年から大学(日本大学文理学部文学専攻)に通い始めました。大学に行っていると話すと「芸人を辞めるための保険を作ってるの?」と言われたりもするんですけど、全く逆の話でして。

 全てはお笑いに生かすため。漢字ネタの説得力をより強くするために国語の教員免許を取ろうと思っているんです。

 お笑いという“幹”を太くするための養分としていろいろな動きをしていく。幹が太くなれば枝葉が伸びても倒れないし、枝ぶりが立派になれば、そこから幹に養分もいく。最終的にはお笑いという幹が太くなることをやりたいと思っています。

 …真面目にしゃべり過ぎましたかね(笑)?ただ、本当に思っていることですし、なんとかそうやって幹を太くして、大好きなお笑いでたくさんの人に喜んでもらえればと思っているんです。

(撮影・中西正男)

■篠宮暁(しのみや・あきら)

1983年2月8日生まれ。京都府出身。松竹芸能所属。99年に松竹芸能の養成所で出会った高松新一とコンビを結成。「NHK上方漫才コンテスト」優秀賞などの成績を残し、2005年に活動拠点を大阪から東京に移す。13年に結婚。一男一女に恵まれる。19年、Twitterに投稿した「漢字『鬱』の覚え方」が話題となり、20年にムック本「オジンオズボーン篠宮暁の秒で暗記! 漢字ドリル」(宝島社)を出版。21年、日本漢字能力検定準1級に合格。同年、日本大学(文理学部文学専攻)に入学し国語の教員免許取得を目指している。自身が演じるキャラクター・大林ひょと子としての単独ライブ「大林ひょと子のひょっとこライブin大阪」を8月13日に大阪・松竹芸能 DAIHATSU 心斎橋角座で開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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