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2021年、JRA重賞ハイレベルレース3選

勝木淳競馬ライター

2021年JRA全日程終了。記憶に新しい有馬記念もレベル高き激戦だった。今年も一年、AI競馬SPAIAでほとんどの重賞を回顧してきた。どうにも後ろ向きなのか、振り返ることばかりしていた私が回顧のなかで、レースラップとその時の馬の動きを中心に、これはと感じたレースを三つ振り返ることで、未来に活かせるなにかを一緒につかんでいきたい。

■シンザン記念(ピクシーナイト)1.33.3

香港では大変残念だったが、今年スプリンターズS制覇まで駆けあがったピクシーナイトの初重賞制覇がこのレース。勝ち時計は前週の京都金杯1.33.1と0.2しか変わらず、ピクシーナイトは逃げ切り勝ち。つまり、自力でこの時計を出した。

福永祐一騎手は内側の馬の出方を探り、ピクシーナイトとのスピードの違いを計りながら、ハナへ。前半800mのラップは12.5-10.9-11.3-11.6で46.3。現役時代のモーリスが緩急なき一定のラップを得意にしたように、産駒も同じく持続力ラップで好走する。

ピクシーナイトが落とさなかったことで、先行勢は後半自然と脱落、ついてきたのは3着バスラットレオン。同馬はその後、NZT圧勝、日本ダービーまで駒を進めた。

後半800mは11.8-11.6-11.6-12.0で47.0。前半で落とさず、後半でわずかにペースアップ、このあとマイル戦で苦労したピクシーナイトだが、最初から最後まで一定のラップで走れる強みを1200m戦で存分に発揮。そうした才能の片りんがこのラップ構成にみえる。前後半800mのラップ差は0.7。最後に急坂がある中京で最後12.0でまとめられては、後方は届かない。

それでも差してきたルークズネストはファルコンSを勝利、上位3頭のその後の成績を考えても、3歳マイル路線のキーレースだった。2、3歳限定戦では、こうした一定のラップを最後までキープするようなレースは底力のある証。スピードとその持続に優れた馬たちなので、見かけたらチェックしておきたい。

そして実質連続開催であっても、正月の中京芝は高速馬場。レースを改めてみると、土ぼこりが激しく、乾燥した状態だったことがわかる。22年も同じ開催日割なので、年明けの中京は暮れよりも早い時計に強い馬を警戒したい。

■鳴尾記念(ユニコーンライオン)2.00.7

こちらは宝塚記念の前哨戦。やや地味な存在ながらも、勝ったユニコーンライオンは次走宝塚記念で2着と激走。勝ち時計はスローペースで目立ったものではなかったが、見所あるレースだった。

勝ち馬は逃げ切り勝ち。スローを逃げ切ったとなると、評価しにくく聞こえるだろうが、じつは内容が濃かった。

中京芝2000mの前半はのぼり区間が続く。そのためスローペースが定番。ここも前1000m62.9は確かに緩かった。しかし、残り1000m標識通過後から12.2-11.5と下りを利用して加速。番手にいたショウナンバルディがユニコーンライオンに早めに並びかけたところから、加速に転じた。

その後最後の600mは11.1-11.1-11.9。4コーナーを回りながら加速、それも11.1を記録。好位勢はここで追走一杯。さすがに11.1を記録すれば、その後苦しくなってもおかしくなかったが、直線を向いてさらに11.1。いくらスローペースといえど、連続で11.1を踏むのは容易ではない。さらにいうと、坂を越えて失速止むなしといった状況で11.9。このまとめ方は前半のスローが引き出したものではなく、ユニコーンライオンとショウナンバルディの性能によるものだった。

前者は宝塚記念2着後に長期休養中。後者は同舞台に出走した中日新聞杯を8番人気で逃げ切った。スローの前残りというと、イメージはよくないが、前残りにも色々あると教えてくれるレース。前後半1000mは62.9-57.8。後半1000mを57.8で逃げ切れる馬も番手から残せる馬もそうはいない。レースラップをしっかり見ることはレースの価値を明らかにすることだと示唆したレースだった。

■天皇賞(秋)(エフフォーリア)1.57.9

今年のG1レースで最高の名勝負はこのレース。古馬と初対戦のエフフォーリア、2000m再挑戦のグランアレグリア、大阪杯以来の出走だったコントレイル。三強はそれぞれ突きたくなる要素がありながらも、1~3着を独占。さすがは天皇賞というレースだった。

逃げたカイザーミノルのペースは前半1000m60.5。正直、早くない。マイル戦中心のグランアレグリアは中距離だとスタートがよすぎた。自然と先行する形になり、番手追走。たぶん、鞍上は本意ではなかったはず。それでもグランアレグリアは3着。行き過ぎた前半を考えれば、この3着は底力の証明だった。

エフフォーリアはグランアレグリアを見つつ、後ろのコントレイルを意識するという難しいポジション。後半1000mは12.0-11.8-11.1-11.1-11.4。グランアレグリアの早めの並びかけもあり、後半1000mからペースアップする厳しい競馬。4コーナー手前から坂下まで11.1-11.1。

先に動いてエフフォーリアがグランアレグリアを捕らえ、そこへコントレイルが追撃する。最後の200mは11.4。鳴尾記念で連続11.1というラップは容易ではないと述べたが、こちらはそのあとラスト200m11.4だから、段違い。もう三強以外はついて来られなかった。連続11.1で自ら先に動き、グランアレグリアを捕らえ、最後11.4で末脚を溜めたコントレイルを封じた。エフフォーリアの総合力の高さは有馬記念でも証明。負けた2頭も次走G1を勝って引退。当面、エフフォーリアに対抗できる存在は見当たらない。

レベルの高いレースはその後、別のレースにつながるのは当然のこと。だからこそ、レースを振り返り、そのレベル高きレースを見つけるのは重要だ。そのレベルを計る指標のひとつにラップがある。JRAがレース後に発表するラップタイムを眺め、違和感や目につくものがあったら、ぜひレースを見直し、その時の馬の動きに注目してほしい。重賞に限らず、条件戦であってもダイヤの原石は必ずどこかにある。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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