下水検査が最有力候補? 「5類」移行後に新型コロナ流行を予測する方法
新型コロナが「5類感染症」に移行すると、陽性登録センターや発生届による1日あたりの感染者数が把握できなくなります。そのため、どのくらい流行しているか実感しにくくなります。流行を予測するための有効な方法について書きたいと思います。
下水サーベイランス
各地で下水中の新型コロナウイルスの調査を行っています。流行期にはたくさんのウイルスが下水に排出されると考えられます(図1)。
一部の自治体は、積極的に下水サーベイランスの情報を開示しており、感染者数が多くなるにつれて下水へのウイルス排出も多くなるという相関が、実際に示されています(図2)。
しかしこれを実施しているのは、札幌市、仙台市、小松市など一部の自治体に限られており、地域ごとの流行差を認識できるほど全国的に普及しているわけではありません。
救急搬送困難例
新型コロナの届け出とは別に、救急搬送困難例のデータは各消防庁で収集されています。
救急搬送困難事例は、たとえば東京都では「東京ルール」という指標によって観測されています。「東京ルール」は、救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案のことを指します。
実はこの「東京ルール」の適用件数、東京オリンピック開催時に医療逼迫で苦しんでいた第5波と同水準で下げ止まっています(図3)。どこの都道府県もピーク時の3分の1くらいまで救急搬送困難例は減りましたが、依然コロナ禍前である平時をはるかに上回っています。
オミクロン株以降、高齢者の陽性が増えています。そのため、隔離できる病室の空きがなければ搬送を断らざるを得ないなどの事情があると、搬送困難例が多いことが常態化してしまいます。
搬送困難件数は一定の信頼度がある指標で、この曲線が急峻な角度で高くなってくるということは、それなりに流行していると認識していただいてよいでしょう。
定点医療機関あたり陽性者数
5月8日から「5類」化されるにあたって、1日感染者数を把握することはなくなります。軽症者が多い感染症では、全数をカウントするのは保健所の業務としても効率が悪いのです。
そのため、季節性インフルエンザなどと同じように、定点医療機関ごとに「1週間あたり何人の新型コロナを診療したか」を集計していきます(図4)。
インフルエンザの場合、これが1人超で流行期入り、10人超で注意報、30人超で警報となっています。実際、警報レベルの場合、「外来でもかなり多くなってきたなあ」いう実感を伴います。
定点医療機関あたりの新型コロナ陽性者数が、インフルエンザと同じ温度感でよいのかどうかは議論の余地があり、今後検証が必要と思います。
いずれにしても、今後、週1回報告される定点報告数がニュースで報道されるようになるかもしれません。
発熱相談件数
東京都は、発熱相談センター・自宅療養者フォローアップセンター・うちさぽ東京における相談機能を統合して、新たに新型コロナウイルス感染症相談センターへ移行することを表明しています。
どこの自治体もおそらく相談窓口は残すと思われますので、発熱相談件数は流行の先行指標として有用かもしれません。
まとめ
1日感染者数をみることで流行の予測が可能でしたが、「5類」化によってその予測が難しくなります。
これまでは検査陽性率なども有効でしたが、「5類」化によって実施検査数の実態がつかめなくなります。そのため、今回挙げたような、下水サーベイランス、救急搬送困難例、定点医療機関あたり陽性者数、発熱相談件数など代替指標を用いて、流行を感じ取ることになるでしょう。
(参考)
(1) 札幌市下水サーベイランス(URL:https://www.city.sapporo.jp/gesui/surveillance.html)
(2) 東京ルールの適用件数(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/)