花火初心者にも勧めたい。花火好きに愛される「常総きぬ川花火大会」(2024年9月開催)レポート
茨城県の中部、常総市では毎年「常総きぬ川花火大会」が開催されます。打ち上げ数約13000発、花火の最大号数8号、例年の観客動員数約13万人と、数字だけをみれば、花火大会の多い東日本においては突出した印象はありません。
ですがこの花火大会、たくさんの花火を見ている花火ファンにも人気が高い花火大会なんです。個人的には、花火大会をあまり見たことのない人にもぜひおすすめしたい花火大会の1つです。
どんなところがおすすめなのか? 2024年9月21日(土)開催時の様子を振り返りながらご紹介しますね。
バランスよく多彩で質の高いプログラム
開始前にはプロローグ花火が
9月下旬の開催ということで、花火大会のスタートは18:30と、夏の花火大会と比べると早め。そして「常総きぬ川花火大会」では、18時からスポンサー名の読み上げのなか、単発の花火が上がります。
正直、初めてこの花火大会に来た時は、このスポンサー名の読み上げを「長いな…」と感じたのですが、コロナ禍を経た今となっては、「スポンサーの皆様のおかげで花火が見られます…」と感謝に堪えません。
ナイアガラ富士とオープニングスターマイン
そしていよいよ18:30、カウントダウンに合わせ花火が始まりました!
スタートは、山﨑煙火製造所と筑北火工堀米煙火店(いずれも茨城の煙火店)による、ナイアガラ富士とミュージックスターマイン!
幅200mの富士山型ナイアガラはこの花火大会の定番。
2024年のオープニングは、この夏たくさん聞かれたYOASOBIの「舞台に立って」。元気に、軽快に始まりました。
しょっぱなからがっつり観客をつかみ、さあ、花火大会スタート!
メッセージ花火では思いがけない玉も
続いてはメッセージ花火。メッセージとともに花火を打ち上げるのは各地の花火大会でもよく取り入れられています。ただ、どちらかというと大きなプログラムの間のクールダウン的な位置に入ることが多く、オープニングのあとすぐに、というのは珍しいかもしれません。
メッセージ花火は割とシンプルな花火が打ち上げられることが多いのですが、あなどるなかれ。常総きぬ川花火大会では毎年、なかなか凝った玉が上がります。
玉名や煙火店名の読み上げはないのですが、さすが日本三大花火のおひざ元といいますか。下の写真の花火は、花火が開く前、昇曲導(花火が昇っていく軌跡に見られる効果)が上がっていく時から、「野村・野村・野村!!」(野村花火工業のこと)という声が周囲から上がっていました。
花火が開く前から煙火店を見分けてしまう花火ファン恐るべし。
音楽なしで表現する創作スターマイン
続いては筑北火工堀米煙火店による創作スターマイン。こちらは音楽なし、花火一本勝負!
創作スターマインは「PART1」と「PART2」に分かれていて、「PART1」は「青空のハーモニー」。
様々な形や色味の青い花火がリズムよく上がります。
PART2は「初秋の香り」
序盤は緑やオレンジ、黄色や青などカラフルな色合いが、終盤は赤系に染まり。
最後は、彩りがさっと散っていくようにも見えました。
短いながらも、花火だけでちゃんと伝わるストーリーがあるんですよね。
5号玉100発の「花火ミュージアム」
このPART1とPART2の間には、野村花火工業の野村陽一さんの作品による「花火ミュージアム」があり、5号玉を100発、対打ち(同じ花火2発を同時に打ち上げる方式)で打ち上げます。
BGMはDREAMS COME TRUEの「あの夏の花火」。
野村花火工業は、花火競技大会最高峰の賞である内閣総理大臣賞を、2023年までに土浦と大曲で合わせて21回受賞していますが、これは圧倒的な成績。
その野村花火工業の現社長・野村陽一さんの花火は、小ぶりな5号玉とはいえ、繊細な色や形で魅せます。
丸い花火から八方咲き、光が変化する花火など多彩で、まさに「花火ミュージアム」。さりげにかなり贅沢な内容です。
1つ目のワイドミュージックスターマインはロックで花火が躍動!
後半には5つの煙火店のミュージックスターマインなど、ボリュームあるプログラムが披露されました。
音楽と花火がコラボするワイドミュージックスターマイン、一番手は地元茨城の山﨑煙火製造所、曲はONE OK ROCK「Make It Out Alive」。
ダイナミックな打ち上げが魅力の山崎煙火製造所にロックはめちゃくちゃはまります! ギラギラ光るトラ打ち、ガンガン開く花火、エキサイティングな花火に一気に会場のボルテージが上がります!
終わった瞬間に大きな歓声が上がりました。
珠玉の作品を堪能できるファイアーアートコンテスト
続いては「ファイアーアートコンテスト」。15の花火師の8号玉を単発で上げていきます。こちらはコンテストなので、観客の投票により順位が決まります(10月11日現在で結果は未発表)。地元茨城はもちろん、秋田、長野、愛知、静岡など各地の花火師が参加しています。花火、特に競技大会を熱心に見ている人ならまず名前を知っているであろう花火師の名前がズラリと並んでおり、その作品の質ももちろん一級品。
単発の花火1つ1つはじっくり鑑賞したい美しさ。
結果発表がまだなので、あくまで個人的に印象に残ったものを抜粋してご紹介します。
北日本花火興業(秋田)の今野義和さん「祖国に咲くひまわりの花」。きれいなひまわりが開いたあと、最後に尾を引いた花火が青と金色に輝き、平和への願いが込められていることを感じました。
マルゴー(山梨)の齊木智徳さん「ネオイルミネーション」。まさにイルミネーションのように光が動くのですが、思いがけないトリッキーな変化をするのがマルゴーの時差式花火の凄いところ。花火をあまり見たことのない人なら、「こんなの見たことない!」と驚くこと間違いなし。
なお、8号玉というのは直径約24cmの花火玉で、上空約280mに打ち上がり、開いた時の直径も約280mあります。花火競技大会で競われるのは主に10号玉(尺玉:直径約30cmの花火玉)。9号玉というのはあまり聞かないので、8号玉は実質的に尺玉より一回り小さい花火玉というイメージです。直径が約6cm小さいと、いろいろ制約も増えると思うのですが、尺玉と錯覚してしまいそうな凝った花火がたくさん見られました。
2つ目のワイドミュージックスターマインは華やかに煌めく
さあ、次に来るのは2つめのワイドミュージックスターマイン、こちらは紅屋青木煙火店(長野)の「Hero」。曲はもちろん、2016年に大ヒットした安室奈美恵さんの人気曲です。
1つ目のワイドミュージックスターマイン「Make It Out Alive」がエネルギッシュでパワフルな印象だったのに比べ、こちらは終始可愛らしくキラキラ。
この曲の、というより、「安室ちゃん」のイメージってこんなだったな~と思うような、華麗できらびやかなスターマインでした。
煙火店の個性が映える「花火の巨匠」
続いては「花火の巨匠」。ゲスト煙火店が音楽つきのスターマインを披露するコーナーです。2024年は北日本花火興業(秋田)、伊那火工堀内煙火店(長野)、篠原煙火店(長野)の3社が参加。
競技花火ではないのですが、テーマから選曲から、3社それぞれの個性が映えるプログラムなので、それぞれが鎬を削っているような緊張感を(勝手に)感じてしまいます。
最初の北日本花火興業は「風魔~闇を切り裂く一陣の風」。曲は「Run Free」(Two Steps From Hell)。北日本花火興業は今年、各地の花火競技会で、巫女や神をテーマにした作品を出品していたました。今回は神ではないですが、やはり何か超常的なものがテーマになっていますね。
個人的に、とても描写力の高い煙火店さんだと思っていて、具象的なものと抽象的なもののバランスがとても素晴らしく、まるで1つの映画や舞台を見たかのような満足感があります。
トラ打ちや星打ちなどの地上から吹き上がる花火のデザインが本当に美しくて、思わず声が出ました。
2番目は伊那火工堀内煙火店(長野)。タイトルは「移ろい『…この賭けに勝ったら、もう一度あいつを愛そうと思うの。』」。『』内のセリフでピンときた方もいらっしゃるでしょうか、スタジオジブリの映画「紅の豚」ですね。音楽は加藤登紀子さんの「さくらんぼの実る頃」、フランス語のシャンソンの、ちょっとアンニュイな大人の響き。
和火の星打ちや、柳のように線を描いて落ちてくる花火が多用され、とてもシックな印象。ですが、星打ちのデザインが変化したり、流れ落ちる花火が段々に開いてゆく段咲きなど、繊細ながらアクセントがあり、飽きさせません。
結局賭けには勝ったのか負けたのか…? この映画を見ていた人にはわかったのでしょうか?
ちなみに伊那火工堀内煙火店は2023年は「ハウルの動く城」の「Merry-Go-Round of Life」(久石譲)だったので、ジブリシリーズが来年以降も続くのか、ちょっと楽しみです。
3番目は篠原煙火店(長野)の「バイオレット×エメラルド」、使用曲はアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の「Tears in the Rein」(Evan Call)。
「バイオレット」は「ヴァイオレット」、「エメラルド」はヴァイオレットがギルベルト少佐から贈られたブローチのカラー、なのでギルベルトを象徴するものですよね。序盤はほぼ紫一色、曲調が変わった中盤からはエメラルドがメインに。
やがて、エメラルドからバイオレットに、バイオレットからエメラルドグリーンに色変わりする花火が上がり。また1つの花火から2つの色が飛び出したり、くるくる回ったり。
前出の伊那火工堀内煙火店の「移ろい」もそうなのですが、こういった、何かの作品をモチーフとしたであろうプログラムは、その作品をよく知っている、その作品が大好きな人なら、その演出の意味するところをもっと深く読み取ることができるのだろうと思うんですよね。
「花火が好き」な人だけではなく、あまり花火を見ない人にも、たくさんの人に花火を見てもらいたいな、と思う瞬間です。
フィナーレは安定と完成度の野村花火工業
そしてあっという間にグランドフィナーレへ。
フィナーレは毎年、野村花火工業が飾ります。今年のフィナーレの楽曲はEdvin Marton、前半は「Magic Stradivarius」、後半は「Art On Ice」でした。波が押し引きするような弦楽器の音に呼応するように花火が上がります。
野村花火興業の花火は、とにかく端正で隙のない、調和の高い美しさが特徴。
バランスよく計算しつくされた花火が、まるで一枚絵のように夜空を彩ります。
「常総きぬ川花火大会」は打ち上げ場所の関係上、大玉が中央ではなく端から上がるので、独特の構図になります。これもまた「これぞ常総きぬ川!」と思う個性。
一つ一つの花火の美しさ、その全体の造形の美しさに飲み込まれるようなプログラムでした。
そして、すべてのプログラムが終了しました。
エンディング花火は「満天の星」で
プロローグ花火があるように、エンディング花火もあります。
エンディング花火で、花火大会はよく見るけど常総きぬ川花火大会は初めて…という人が驚くのが、南こうせつさんの「満天の星」が流れること。
なぜかというと、秋田県で開催される「大曲の花火」でもすべてのプログラムが終わった後にこの曲が流れるんですよね。
「あ?え?ここどこ?」となるのがお約束です。
ちなみになぜこの2つの花火大会で最後に「満天の星」が流れるのかは未確認なので、いつかは理由をお聞きしてみたいです。
というわけで。
「常総きぬ川花火大会」とは
・人気・実力ともに高い煙火店のスターマインがたくさん見られる
・エンタメ性の高いプログラムだけでなく、昔ながらの花火の良さを感じさせる音楽なしのスターマインや、花火師が精魂を込めて作った芸術玉もじっくり見られる
と、いろんな形での花火の良さが楽しめるところが魅力です。
時間的にも長すぎず(2024年はオープニングからフィナーレまでで約1時間)、もうちょっと見ていたいな、と思うあたりで終わるのも、集中して見ていられていい具合だと思います。
どこか昔ながらの祭りの良さが漂う会場
さらにこの花火大会、上がっている花火は最高の技術を駆使した豪華なものなのに、なぜか「昔ながらの」といいたくなるようなのどかさがあるんです。
こちらの写真は左岸側の会場ですが、運動公園なので野球のグラウンドがあります。この中にイス席やテーブル席を設置。そして堤防上にはカメラマン席、堤防のり面には自由席となっています。
カメラマン席も堤防のり面席も、場所によっては真正面に花火を見るのではなく、少し斜めに構えたり、身体をひねって見たりしなければなりません。
(ちなみに花火写真は堤防自由席から撮影したもの)
面倒といえば面倒ですが、花火のために設置された会場ではなく、地域の人の日常生活の中に入り込んで花火を見させていただいている、なんだかそういう気分になります。
お値段も、昨今の花火大会の相場を考えると、リーズナブルに抑えられていて、家族連れでも気軽に訪問しやすいのも魅力です。
見やすく、価格もお手頃なのに花火の質は最高級。
プログラムのバランスも良く、いろんな花火が見られるのが、花火初心者にもおすすめしたくなるところです。
画面には写っていませんが、屋台も出ているので、お祭りの良さも楽しめますよ。
来年の開催情報にぜひ注目を!
常総きぬ川花火大会は、2019年までは毎年8月11日に開催されていましたが、2023年より秋に開催されるようになりました。2023年は10月28日、2024年は9月21日と、まだ開催日程は一定していませんが、2025年以降もおそらく秋に開催されるのではないかと思います。
2024年は、7月13日からチケットの先行販売が、7月23日から一般発売が始まりました。おおむね5月~6月頃から開催情報に注意しておくとよいかと思います。
まだご覧になられたことがない方は、ぜひ頭の片隅に置いておいてくださいね!