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「双葉花火」(福島県;2024/9/28開催)鮮やかな花火と、この地の未来とともに歩む萌芽を見た

やた香歩里花火鑑賞士な旅ライター

2024年9月28日(土)、福島県双葉郡双葉町で「双葉花火」が初開催されました。2011年に、東北地方太平洋地震による災害だけでなく、原子力災害により長期の全町避難を余儀なくされたこの地で打ち上げられた花火は、花火大会として見ごたえあるものであったことはもちろん、そこに込められた様々な思いを深く感じさせる花火大会でした。

「双葉花火」とは

福島県の「浜通り」と呼ばれる太平洋沿岸地域、その真ん中近くに位置する双葉町。東日本大震災によってその名前が記憶に残ったという人は多いと思います。地震・津波被害だけでなく、福島第一原子力発電所事故により全町避難が指示され、その後も長く続いていましたが、2022年にようやく特定復興再生拠点区域の避難指示が解除となりました。しかし長引いた避難生活により、帰還率はいまだ低く、2024年9月に出された「双葉町の復興状況について」の資料によると、町内人口は震災前の約2%とのこと。そんな双葉町のさらなる復興を願って開催されたのが「双葉花火」です。

花火大会としては珍しく、福島煙火協会という、花火業者の団体が主催となって開催されました。須賀川市の糸井火工が中心となり、赤城煙火店(喜多方市)、川崎火工服部煙火店(二本松市)、菅野煙火店(川俣町)により打ち上げられました。

会場となったのは、双葉町に建つ「東日本大震災・原子力災害伝承館」裏の広場。周辺は、整地された土地が大きく広がっていて、まだ土地利用が進み始めたところという感じでした。

私は震災前も含めて、双葉町を訪れたのは初めてでした。そして実際にこの地に来て初めて、ここで起こった災害の大きさ、長期にわたる全町避難の重さを、ようやく少しだけ知ることができたように思います。

会場は有料観覧席となっており、イス席やテーブル席の他、自由席も設けられていました。私は会場後方に設けられたカメラマン席チケットを購入。自由席だったこともあり、早めに入場したため、比較的中央に近い場所を確保することができました。

日が暮れて、いよいよ花火が上がる

打上は18時からの予定でしたが、まだ入場できていない観客がたくさんいるということで、10分ほど押してスタート。

プログラム1:Moving forward

最初に追悼の花火が上がり、地元の子供たちのカウントダウンののち、Little Glee Monster『ECHO』にのせてオープニングスターマインが始まりました。

オープニング担当は二本松市の川崎火工服部煙火店。
オープニング担当は二本松市の川崎火工服部煙火店。

力強さがありながらも、リトグリらしい爽やかな応援歌。「がんばろう」ではなく、みんなで進んでいこう、まさに「Moving forward」というメッセージが会場いっぱいに響きました。

プログラム2:紅のSHOW

プログラム2のミュージックスターマイン1「紅のSHOW」は、adoの『唱』に合わせ、赤い色の花火中心に、エネルギッシュなプログラム。

人気曲に観客も盛り上がっていました。全体的にメッセージ性の強いプログラムが多かったのですが、こういうシンプルに花火を楽しめるプログラムがちりばめられていたのも良かったです。


プログラム3:能登花火

2024年1月に震災、そしてこの花火大会の直前に豪雨災害にも見舞われた、石川県の能登地方。プログラム3では、石川県羽咋郡にある能登煙火の花火を打ち上げました。

BGMはAKB48『365日の紙飛行機』のインストゥルメンタルバージョン。

能登から届いた4号玉10発が、音楽に乗せて丁寧に打ち上げられ、福島の夜空に輝きました。

続いて、福島から能登へのエール花火が、「Light Up Nippon〜空に花、大地に花〜」にのせて打ち上げられました。

打上担当は赤城煙火店(喜多方市)
打上担当は赤城煙火店(喜多方市)

この曲は、東日本大震災被災地の沿岸十数カ所で一斉に花火を打ち上げた「LIGHT UP NIPPON」のためにつくられた曲。東北から能登へのエールにこれほどふさわしい曲はないかもしれません。

痛みを知らない人に「がんばれ」と言われても、受け入れるのは難しいかもしれません。でも、同じく災害を受け、長く自分の住まいに帰ることさえできなかった、双葉はじめこの地域の方々の能登に寄り添う気持ちは、他の言葉とは違う思いで受けとめられたのではないかと思います。

プログラム4・8:日本の花火[尺玉の共演]

プログラム4と8は「日本の花火[尺玉の共演]」で、全国の煙火店20社の珠玉の花火玉が、各10発づつ打ち上げられました。細かいことですが、「競演」ではなく「共演」としたところが、たくさんの煙火店でともにこの花火大会を彩るのだという想いの表れのように思います。

篠原煙火店(長野)「昇木葉付 ひまわりの花」
篠原煙火店(長野)「昇木葉付 ひまわりの花」

「尺玉」とは、「10号玉」とも呼ばれ、直径約30cm、打ち上げた時の高さと上空で開いた時の直径がともに300m超の花火で、多くの花火競技大会ではこのサイズの花火で競うことが多いです。

赤城煙火店(福島)「昇曲付八重芯変化菊」
赤城煙火店(福島)「昇曲付八重芯変化菊」

美しく、大きく開く花火の1つ1つに、客席からは大きな歓声が上がっていました。どれも各煙火店の個性の出た、特徴的で、また華やかな花火が多かったように思います。

プログラム5:「生命の輝き」

プログラム5はミュージックスターマイン2「生命の輝き」。曲はあいみょんの「マリーゴールド」でした。まさにマリーゴールドの金色の花をはじめ、様々な花が夜空に咲きました。

プログラム6:メッセージ花火

「メッセ―ジ花火」は、寄せられたメッセージのあとに花火を打ち上げる、いろんな花火大会でも定番のプログラム。感謝や未来への希望、追悼、地域の発展への願いなど、様々なメッセージとともに花火が打ち上げられました。

震災、そして全町避難により複雑な思いを抱えながら、それでも未来を見据えて進んでいこうとするメッセージが多く、地域外の者としても、応援したくなる、幸あれを願いたくなる、そんなメッセージの数々でした。

プログラム7:朗読花火「きぼうのとり」

プログラム7の「きぼうのとり」は、絵本『きぼうのとり』の朗読に合わせて花火が打ち上げられました。

『きぼうのとり』は、東日本大震災、そして福島第一原発事故を風化させないためにと、福島民報社が企画・制作した絵本です。

海辺の小学校に通う子供たちが、震災に遭い、避難生活でさまざまなことを経験し、成長していく物語。子どもたちのセリフはおそらく地元のお子さん方があてていたのだろうと思います。

地震を花火で表現したり、かわいらしい型物の鳥が飛んだり、魚やリンゴが浮かんだり。

型物花火は写真だと形がわかりにくいのですが、右のような可愛らしい鳥の形をした花火も上がりました。
型物花火は写真だと形がわかりにくいのですが、右のような可愛らしい鳥の形をした花火も上がりました。

絵本の世界をわかりやすく描き、最後に希望の象徴のような大きな花火が開きました。

「きぼうのとり」打ち上げ担当は菅野煙火店(川俣市)。
「きぼうのとり」打ち上げ担当は菅野煙火店(川俣市)。

プログラム9:「色褪せることなくずっと」

プログラム9のミュージックスターマイン3「色あせることなくずっと」は、フジファブリックの『若者のすべて』でしたが、ヨルシカのsuisさんのバージョンが使われました。

この曲、割とよく花火で使われるなと思ったのですが(本家のフジファブリックのものも含めて)、改めて歌詞を見て納得(今ごろか)。

プログラム10:「ふるさと」

プログラム10のミュージックスターマイン4「ふるさと」は、嵐の『ふるさと』でした。『ふるさと』という曲も、「ふるさと」をイメージさせるような曲もたくさんある中、嵐というのは意外でしたが、よく歌を聴くと、「きぼうのとり」にも通じるようなテーマなんですね。

最初は、1つずつ、ぽつんぽつんと上がっていた花火が…

やがて、2つ一緒に上がるようになり、終盤には3つの花火が一緒に。

だんだんに、寄り添う人が増えていくよう。

最後は、たくさんの人の笑顔が咲くように、一斉に花火が開きました。

プログラム11:尺玉30連発「麗しき花を」

プログラム11の「尺玉30連発」は、福島の4社の煙火店(糸井火工、赤城煙火店、川崎火工服部煙火店、菅野煙火店)の尺玉が上がります。通常の花火大会ではその都道府県の全煙火店が集まり花火を上げるということはまずないと思います。オール福島で臨んだ「双葉花火」だからこそ。『グッド・ドクター』の優しいメロディーに乗せて、大きな花火がゆったりと空に広がりました。

プログラム12:「心ゆくままに」

そしてプログラム12はついに最後の花火、エンディングスターマインとなりました。

みんなのカウントダウンの声のあとに流れたのは、ドラマ『医龍』の挿入歌『BLUE DRAGON』。ドラマのクライマックスなど感動的な場面でよく流れていた曲です。

重々しいオーケストラの響きで始まり、序盤は荘重な曲調に合わせゆったりと花火が上がりました。

曲調が変わりコーラスが入るあたりから、音楽に合わせて小刻みに変化する下層演出、そして上空で重層的に花火が開きます。ワイド幅400mをいっぱいに使った眼前を埋め尽くす花火に鳥肌が立つようでした。

曲とのシンクロはもちろん、曲調の変化に合わせ花火での空間表現も鮮やかに変化します。
曲とのシンクロはもちろん、曲調の変化に合わせ花火での空間表現も鮮やかに変化します。

女性ボーカルの入るクライマックスから、さらに畳みかけます。

花火が空間を金色に染めて…

美しい花火が多彩に、大量に投入され、曲との絶妙なシンクロと合わせ、素晴らしい作品でした。
美しい花火が多彩に、大量に投入され、曲との絶妙なシンクロと合わせ、素晴らしい作品でした。

たくさんの歓声と、拍手と、感動を残し、「双葉花火」は終了しました。

「双葉花火」の名称は、もちろん「双葉町」からのものと思います。でも「双葉」は、双子葉植物が発芽したときに出てくる最初の葉。物事の始まりの象徴であり、これから大きく成長してゆく可能性の塊でもあります。この場所が再び力を取り戻すように…そんな願いも込められているように感じました。

開催前のあいさつにあった、主催である福島煙火協会の糸井秀一会長(糸井火工代表取締役)の

「決して望んだわけではないけれども、結果的に花火を見るのに最高のロケーションになった」

という言葉。

ここで花火大会を開催することに相当な葛藤があったことが伺えます。

それでも、この場所でできる最上のことをしよう、そしてたくさんの人が双葉に足を運ぶ機会をつくろうと、開催されたのだと思います。

今後も継続して開催したいという意向があるとのことなので、ぜひ双葉を代表する新しいイベントとして発展していって欲しいと思う花火大会でした。

改めて震災・原発災害をおもう

開催前に、東日本大震災・原子力災害伝承館を見学させていただきました。映像や、展示で当時のことを振り返ることができます。

東日本大震災・原子力災害伝承館
東日本大震災・原子力災害伝承館

震災時、私は関西に住んでいて、直接被害を受けたわけではありません。何を言っても浅い言葉になってしまいそうなので感想は控えたいと思います。ただ、これは今後も機会あるごとに振り返りたい記録だと思いました。

同時期に開催されていたイベントも

一つ残念だったのは、同時期に開催されていた「HAMADOORI CIRCLE 2024」というイベントと相互告知などがなかったこと。「HAMADOORI CIRCLE 2024」は9月28日・29日の2日間開催されており、紹介ページによると

「福島・浜通りのいま・これからをぎゅっと体感できる2日間のイベント」

ということで、震災後にオープンした浅野撚糸株式会社の工場敷地内で、浜通りの様々なお店や会社が集まってのブース開設や展示、ステージでのトークセッションなどが行われていました。そして双葉町から浪江町にかけての4つのスポットを巡る、双葉駅発着のシャトルバスも走らせていました。スポットの中には、東日本大震災・原子力災害伝承館も含まれ、ほかに震災遺構の浪江町立請戸小学校や、この浅野撚糸株式会社工場や、「道の駅なみえ」がありました。

もう終了していますが、イベントの概要は見ることができるので、「HAMADOORI CIRCLE 2024」公式Instagramのリンクを貼っておきます。

「HAMADOORI CIRCLE 2024」公式Instagram

私は双葉駅に到着して初めて知ったのですが、もっと前から知っていれば、早めに双葉に到着して、こちらのスポットも回ってみたかったです。どちらも開催意図の根底にあるものはとても近かったと思うので、両方に触れることで、この地域の過去と現在について、さらに知ることができたのではと思います。

それぞれに企画・進行していて急に連携はできないと思いますが、来年以降、もし同じタイミングで開催されるなら、せめて双方のイベントでお知らせ程度はあると相乗効果があるのではないかと思いました。

   *   *   *

遠方からだと、双葉町を訪れる機会はあまりないかもしれません。でも、毎年ではなくても数年ごとにでも、「双葉花火」を訪れれば、地域の変化を肌で感じることができます。地域の復興の歴史が同時に刻まれていく稀有な花火大会として、継続・発展していくことを願います。

「双葉花火」公式サイト

花火鑑賞士な旅ライター

宮崎生まれの大阪育ち。人生の約半分を京都で過ごし、現在は千葉在住。もとからの旅好きが、関東移住を機に花火にはまり、旅の目的に花火鑑賞が加わりました。遠くへの旅行も好きだけど、身近なお出かけも好き。どこかで見た素敵なものを、誰かに伝えたい。知って欲しい誰かと知りたい誰かを繋ぎたい。日本酒ナビゲーターで温泉ソムリエで花火鑑賞士な旅人。

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