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宿泊券10枚要求!? 対応を見せてもらおうじゃないの! いまホテルはこんな客に困っている

瀧澤信秋ホテル評論家
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

評論家の取材では決して得られないボリュウムとリアルな内容

筆者はホテル評論家として、利用者目線という基本スタンスで様々な宿泊施設へ取材に出向く。取材は覆面取材と正式取材に分かれるが、覆面取材で抱いた疑問が正式取材で解明されるなどいずれの取材も重視している。「このホテルのここは×」ということが覆面取材で判明したことで、「○○ホテルのここは×だ!」と情報発信する行為はSNS隆盛のいま巷間で散見される。

一方、職業的評論家を名乗る以上、言いっぱなしではなくなぜ×なのかを正式に現場に入り取材し解明することにも努める。なにごとにも原因や理由があるもの。等身大のホテルを知るためにも正式取材は必要であるが、特にネガティブな情報は出したくないのもホテルの本音だろう。ゆえに、ホテル側との馴れ合いにならない信頼関係を日常的に築くことは、ジャーナリストとしての矜持とも思っている。

かように消費者目線を貫くという意味において、ニュートラルなスタンスを堅持するためにあえて業界側との距離感に気遣うことで、業界側から“ゲスト目線のホテル評論家”という理解をいただくことに繋がるとも信じている。他方、ホテルからみると、評論家とはいえ客である以上はあくまでも一人のゲストであり、取材といえどもなかなか心割った本音の話は伝わってこないことも。

前置きが長くなったが、筆者のかようなスタンスを深く理解していただいている業界関係者のひとりに宿屋大学代表の近藤寛和氏がいる。宿屋大学とは、ホテル業界等の人材を育成するためのビジネススクールとして、多くの人材を輩出してきた業界では知られた存在だ。当然、ホテル現場の第一線で日々業務に勤しむスタッフとの交流も深い。

GoToトラベルの活況も報道されはじめたある日、近藤氏から連絡があった。「ホテルや旅館を利用するお客様のなかには、残念ながら一部わがままで傍若無人な方がいて、そうした方への対応に心折られる現場スタッフも多く、全体としてサービスレベルの低下を招いている要因のひとつになっている」というものであり、「宿屋大学としてこの問題と真剣に向き合い、社会問題として世間の耳目を集める問いかけをしたい」との相談であった。

続々と寄せられる声

特に昨今、GoToトラベルの影響もありゲストの求めるものと宿が提供するサービスのミスマッチというシーンも目立つといわれる。宿泊施設の現場の苦悶を少しでも世間に知ってもらうことで、ゲストとホテルの関係をよりよいものにできないか-宿屋大学と近藤氏の呼びかけにホテル・旅館から多くの声が寄せられた。

そこにあったのは、近藤氏の人徳というほかないが、おおよそ筆者の取材では一朝一夕に得られないであろう生々しい現場の声であった。なるべく多くの事例をという思いもあり少々ボリュウミーになってしまい恐縮であるが一部紹介したい。また。個別具体的な内容も含まれるため、筆者で表現を変えた箇所もあることをお許しいただきたい。

簡単に写真が撮れるSNSも隆盛の時代ならではのトラブル?

『スパでの写真は他のゲストのプライバシーの配慮でご遠慮頂いてお声がけもしているが、関係なしに写真を撮るゲストが増えました』

ロビーで待たされるウーバーイーツも大変!?

『お客様がウーバーイーツを注文、宿泊者以外は館内立ち入り禁止の旨を伝え「フロントまでいらっしゃって頂けますか?」と電話連絡したところ、憤慨してフロントまで来られ「今コロナで外食ができないから頼んだけどエレベーター乗って降りて来るうちに感染させられたらどうする?」とフロントデスクを叩きながら怒鳴られました』

トラブルは帰られた後にも続く・・・

『オーバーフロー(排水溝からお湯が溢れる)があり「浴室床に置いてあった娘の服が濡れたのでタクシーで帰らなければならなくなった!タクシー代かクリーニング代を弁償して!」と怒鳴られた。対応スタッフがパートだったため、「上に確認します、お待ちください」と言ったところ「ホテルがどう対応してくれるか見せてもらおうじゃないの!」と捨て台詞とともに去りました。状況確認したところ、オーバーフローしたことは事実であったが、なぜタクシーで帰ったのか、濡れた服の確認もさせてもいただけなかった』

『お客様が泊まった客室のテレビを破損(液晶画面激しく割れている)したが、チェックアウト時も何も言わずに出発。お客様へ事実確認と弁償の話をするもまったく謝罪もなく「ホテルの保険でどうにかなるでしょ?」と一切支払う意思をみせず。また「弁償額について妥当かどうか弁護士と話をするから年式や型番、破損具合の分かる写真を送れ」と強気。その後はお客様が加入している保険特約を利用して賠償するとの連絡があり現在対応中』

(筆者撮影)
(筆者撮影)

無料宿泊券要求系

『誤ってホテルがゲストの所有物を破損した際に、弁償以上の過度な要求をされました。旅行を仕切り直すということで無料招待券10枚を要求、さらにそれを使って宿泊する際に規定外のサービスを求められました』

アップグレード要求系

『予約はスタンダードツイン(12000円)でしたが、清掃不備がある、部屋が清潔ではない、ベッドが小さい等のご指摘が続き2、3回ルームチェンジを繰り返しました。最終的には50000円程のお部屋に無料でグレードアップし一旦落ち着きました(こちらの不備もあると思えたため無料グレードアップはこちらのお詫びの気持ちも込めて)』

仕事を辞めたくなった瞬間・・・

『若い男性(A)1名がアップグレードを強要。チェックイン時「ツインが良かったのにこのサイトにツインが出てなかった。プランも見にくくシングルしか出ていないから仕方なくシングルを選んだ」とのこと。チェックイン担当スタッフが無料アップグレードしてしまう(9500円でシングル予約→スタンダードツイン)。その後若い別の男性(B)(シングル9800円で予約)のチェックイン対応を私がしていたところ、先ほどのAが来て「Bの部屋いくら?どの部屋?」とBに話しかけ始めました(ふたりに繋がりがあるのは事前にわからず)。男性Bの部屋の値段や部屋タイプを知ったAは、「俺より高い金を払っているのになんでクソみたいな部屋なの?こいつもツインにして」と要求。「A様にはプランの件でご不便をお掛けしたことをお声がけした上で通常だとアップグレード代金が追加でかかります」と説明すると、Aは「は?部屋はあるでしょ?ツインに変えたらいいだけじゃん?お前うざい!キモい!消えろ!」と暴言を吐かれました。上司に引き継ぐとその上司はあっさり無料でグレードアップしてしまいました 私事ですが、子供の頃虐められていたことがあり、男性の言葉に色々とフラッシュバックし手が震え体が固まってしまうような感覚に。仕事の帰り道や家で涙が止まりませんでした。この仕事をやめようと決心した瞬間でした・・・』

苦情は時にサービス改善のきっかけになることも

苦情や過度な要求に対するホテル現場の苦悶を見てきたが、一方で苦情が新たなサービス誕生のきっかけになることも。朝忙しい中、フロントでのチェックアウト手続きに時間がかかるといった苦情がきっかけで、いまやお馴染みの自動チェックイン機が誕生したといわれる。そんな改善事例も寄せられた。

『本来アフタヌーンティーは2時間制でお楽しみ頂いているが、時間を過ぎてもしばらく居座るゲストが増えた。“2時間経ったら食べ物が残っていても帰るように促される”などの苦情。ホテル側の要改善点として、スタッフ数とゲストの数の整合、備品の数(ポットやグラスが足りない→お待たせしてしまう)などを検討した。その結果、ファーストタッチの時になるべく2時間制という言葉を使わずやんわり伝え、1時間45分経過した頃にラストオーダーを伺い、2時間で帰らなさそうなゲストには(バーなどに協力を仰いで)お席をご移動頂くことで、気持ちよく2時間でご退席頂けるように努めるという意識になっている』

『3密対策で休業していた温浴施設でしたが、お客様の指摘により吸排気能力を確認すると3密に当たらないことが分かりました。私たちの無知な部分でお恥ずかしいお話ですが、定員削減は必要なものの行き過ぎた対策に現実的な対応策を指摘いただけたことは非常にありがたいお言葉でした』

苦情の際に真摯に話をした結果「リピーター顧客になっていただいた方というのも多い」と語るのはあるホテルマン。立腹の方へ(決して媚びずに)真摯に対応した結果、次回の宿泊からは担当者に直接予約が入りその後も徐々に親しくなり、何年もお付き合いさせて頂いているという話も。苦情からはじまるゲストとの縁といったところだろうか。

*   *   *

苦悶する現場から続々と寄せられた声の数々いかがだったろうか。今回、特にGoTo絡みのものも多かったこともあり、続編として引き続き紹介する。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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