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言語の上でマイノリティになるという経験 外国人労働者増加で日本はどう対処すべきか 小島慶子さんと語る

中野円佳東京大学特任助教
日本語を勉強するフィリピン人女性(撮影:中野円佳)

夫が会社を辞めたことを機にオーストラリアに移住し、一家の大黒柱として日本との行き来をして「出稼ぎ」する小島慶子さん。2017年から駐在妻としてシンガポールに住むことになり、リモートで仕事をするジャーナリストの中野円佳が対談。外国人としての言語環境について思うことを聞きました。

※2018年夏に実施、海外×キャリア×ママサロンで配信したトークイベントを再編集したもので、BLOGOSからの転載です。(から続く)

海外でマイノリティになるということ

小島:中野さんは英語は堪能なんですか?

中野:私は、高校のときに約1年間アメリカに留学していたので、そのときそれなりにしゃべれるようにはなっているんですけど、基本は高校生英語なのでスラングまじりみたいな感じです。その後たいして(英語を)使わずに生きてきてしまったので、テストを受ければそれなりのスコアは出るけど、実際のところ日常会話レベルです。

小島:みんな「女子アナ=英語できる人」と思っているので、バイリンガルだと思われがちなんですけど、私は帰国子女ではあるものの、シンガポールと香港の日本人学校育ちなので、英語というのは中学高校大学で勉強しただけで、留学もしていないんです。それでオーストラリアに暮らしていても、3週間いても1時間くらいしか外の方と接点がないから、本当になかなか上達しないんですよね。新聞記事を読むとか、テレビのニュースを見るとか、ラジオのニュースを聞くとか、インプットするほうは多少上達しても、アウトプットする機会がないので、失礼のないEメールを書くとか、馬鹿にみえない文章を書くとか、無礼でない大人の会話をするとか、やっぱり機会がないわけなんですよね。それで日本で、オーストラリアのシドニー出身の先生にお金払って英語習ってるんですよ。意味わからないですよね。

実際の対談時の様子
実際の対談時の様子

中野:でも気持ちはわかります。シンガポールは、よくも悪くもなんですけど、日常で使う英語が適当なんですよ。

小島:シングリッシュって言うんでしたっけ。

中野:シングリッシュもですが、シングリッシュですらない、とにかく伝わればいいみたいな英語もとびかっています。たとえばスクールバスで一緒に乗っているアンティー(おばちゃん)が、“Are you message me?”とか。すごく英語としては微妙だけれど言いたいことは伝わるからOKOKみたいな感じで。私もちゃんとした英語をしゃべれなくてはいけないという感覚がいい意味で外れて、シンガポールに行ってからは、ちゃんと学んだ方がいいかなとは思いつつ、適当イングリッシュで遠慮せずに話すようにはなりました。

小島:精神修養になりますよね。私も仕事柄日本語はちゃんとしゃべれるみたいな余計な自負があるのでいい加減な言葉をしゃべってはいけない病にかかっていたんです。そうするとハマグリになるしかないので、とりあえず勢いであとは気持ちで理解してもらえるように、不完全でもいいって思えるようになって、しゃべれるようにはなる、日常会話はできるようになりました。

すごくいい経験になったのが、結局日本語でも無口な人とか言語化するのが不得意な人っていっぱいいるでしょ。「小島さんいいですね、しゃべったり書いたりするのも自由自在で、自分はそういうのが下手で」なんて言われたりすると、「(自分だってしゃべったり書いたり)やればいいのに」くらい思ってたんです。ひどいですよね。

自分が初めて言語不全の立場、しかも社会的にもマイノリティで、現地で私も夫もお金を産む力がないので、オーストラリア社会の中では最弱者なんですよね。マイノリティの極み、という立場に身を置いて初めて、言語化するのが苦手で、人と会話するのが苦手でつらいとか、何か言ったときに変だったかなとか気に病んでしゃべるのがこわくなるとかが初めてわかったし、自分が人からなかなか気づいてもらえないとか、あるいはまともに扱ってもらえないとか、自分の話を誰が聞いてくれるのかなと不安に感じている人のことがわかりました。世間知らずを痛感しましたね。

日本人は日本語が話せない外国人に優しくない

小島:日本はみんな日本語のレベルが均一じゃないですか。日常生活にほぼ全く不自由のないレベルから、その上で賢いか賢くないか、日本人はその違いですよね。でも日常会話レベルに達してないとか日常会話としても不完全みたいな人が留学生の方でいっぱいいらっしゃいます。外国人に慣れていない人などは、そういう方々を下に見ちゃう癖がある気がします。

2020年に向けてダイバーシティとか言ってる割に、母語話者優位主義と私は勝手に名付けているんですが、日本語が母語でない人を下に見る感覚が強い気がするんです。テレビでも、外国人のおかしな日本語を笑うトークとか、ありますよね? ロバート・キャンベルさんとかデーブ・スぺクターさんとかピーター・フランクルさんくらいしゃべれないとダメ、という感覚を知らず知らずのうちに持っている人は少なくないと思うんです。偶然にもみなさん白人男性ですが・・・そういうテレビで見慣れた「日本語のうまい外国人」と、生活の中で出会う外国の人は見た目も日本語のレベルも違う。下手な日本語を笑う人に悪気はないのかもしれないけど、自分は外国語で仕事や学業ができるか?と考えてみれば、むしろ日本語を使って仕事をしている外国の人の方がすごいことに気がつくのでは

私は不完全な英語話者としてオーストラリアで暮らしているので痛感するんですが、言葉が通じないとものすごく孤独だし、その社会から自分が必要ないって言われているような気がしてしまう。人をそういう気持ちにさせることがあってはいけないなと思います。多文化社会の豪州ではそのあたりはわりと寛容ですが、日本の環境に関しては少し心配しています。

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中野:シンガポールも外国人に対してネガティブな動きが高まった時期もありますが、基本的にはもともとが多民族国家なので、人種とか宗教、言語が異なる人たちに対する差別的な言動に対しては、バッシングがくる。日本はその準備が果たしてできているのか、外国人受け入れの準備の必要性は痛感しています。「やさしい日本語」の必要性もさけばれていますね。

ちなみにシンガポールはものすごく極端で、高いスキルのある人か、ものすごい低賃金労働者かの二極化で、低賃金労働者の方は家族は連れてこられない設計になっています。

小島:(シンガポールに)いつかないように、ってことですよね。

中野:そうですね。良くも悪くもポリシーが明確です。この人たちはこういうふうにします、この人たちはこういうふうにします、嫌だったら来ないでね、みたいな感じで、国としてかなり計画的にやっています。翻って日本を見ると、なし崩し的に受け入れが拡大されつつあり、、そのさらに子どもたち世代を考えると教育で受け皿が難しくなってしまっています。

小島:外国から来た子どもで学校で日本語のサポートを全く受けられていない子が6000人くらいいるとかっていう話ですよね、もっといるんじゃないかと。それはESLに相当するようなJSLっていうんですかね、日本語を母語としない子のための教育がもっとないとだめですよね。

に続く)

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東京大学特任助教

東京大学男女共同参画室特任助教。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社。14年、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、15年4月よりフリージャーナリスト。厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員。著書に『「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?』『上司の「いじり」が許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。キッズラインを巡る報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞。シンガポール5年滞在後帰国。

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