授業で〝想定外〟が起きた
〝おカネを儲ける授業〟をやっているのは、埼玉県戸田市の美女木小学校の3年生である。自分たちの作品をネットで販売して約8万円(クラスあたり約2万円)を手にしたが、その使い方は同じではなく、クラスによって違っている。そこでは〝想定外〟のことも起きている。
| 虫嫌いな子たちに虫の授業
授業はおカネの儲け方を学ぶだけが目的ではなく、「虫の暮らしやすい環境を整える」というテーマの総合学習である。環境を整えるには材料が必要で、それを買うにはおカネが必要になる。おカネが絡んでくると先にすすみにくくなってしまうのが学校の授業なのだが、美女木小では「ならば自分たちで稼ごう」と一歩すすめた授業展開となった。そして子どもたちが実際に稼ぎ、それをどう使うかの段階へとすすんでいる。
「4組の使い途はシンプルで、早い時期に虫に興味・関心をもつために虫の模型とか図鑑を購入することを決めていました」と説明するのは、4組担任の林翔一さん。「環境を整える」というテーマから言えば、ちょっと離れているようにもおもえる。林さんが続ける。
「うちのクラスは、圧倒的に『虫嫌い』の子が多かったんです。虫を育てる話もでてはいたんですが、リアルな虫に接するとなると『やっぱり嫌だ~』となって、模型や図鑑という流れになっていきました。学校に虫を増やすという話をしているうちに、『やっぱり、虫が増えると困っちゃうな』という意見もありましたしね」
かといって、虫をテーマにした授業に消極的だったわけではない。図鑑でも購入する ものを具体的に選択しなくてはならない。それを子どもたちは、まずはネットで検索することから始めた。1人1台端末が実現している環境では手軽に検索できるし、「端末の利用がなかったら進行が難しかったかもしれません」と林さんも言う。
嫌いな虫にできるだけかかわらないために、ネットで検索して、さっさと購入する図鑑を決めてしまうこともできなくはない。しかし、そうはならなかった。
「ネットだと、閲覧できるページが限られているんですね。それでは判断が難しいし、子どもたちは満足できなかったらしいんです。それで近くにあるショッピングモールの本屋さんに休みの日に足を運び、実物を確認してきたらしいんです。幸い、候補にしていた図鑑が本屋に揃っていたので、そこで早めに決まりました」
担任の林さんが指示したわけではない。「授業に関係することは、先生に指示されたことしかやらない」と考える人は多いかもしれない。しかし4組の子どもたちは、自分たちで考え、動いた。しかも、虫嫌いの子たちが、である。まさに〝想定外〟のことが起きていた。
| 絶対にあり得なかったことが起きた
〝想定外〟は、これだけにとどまらない。それ以上の想定外が、3年4組では起きていた。
4組は模型・図鑑という流れが主流になっていた、はずだった。虫が嫌いと口にする子が多く、虫を増やすことにも反対する子さえいた。ところが、意外な方向へとすすみつつあるのだ。担任の林さんが説明する。
「虫嫌いが7割以上を占めているとはいえ、3割近くは嫌いではない子もいるわけです。そういう子たちは、やはり虫を飼ってみたいという意見でした。その子たちが無視されたわけではなくて、模型・図鑑のほかに『虫を飼う』というグループもつくることになったんです。虫を飼って、成長したら外に放せば、学校に虫が増えるだろう、というわけです」
この虫を飼うグループは、少数派になるはずだった。なにしろ、虫嫌いだと表明する子が7割以上も占めているクラスなのだ。
「ところが、実際にグループ分けしてみると、虫を飼うグループにクラスの半数以上が手を挙げているんです。この授業が始まって前期のころなら、絶対にあり得ないことです。虫嫌いだと言いながらも、やっているうちに興味をもちはじめたのかもしれません」と、林さんも驚きを隠さない。
〝想定外〟は、子どもたちの成長の表れである。もちろん、「模型・図鑑が中心じゃなかったのか」と子どもたちの変化を否定し、子どもたちを引き戻すようなことを担任は口にしない。そういう環境に学びがあり、成長がある。