「今あったらなぁ」のバイク達(7)【カワサキ・ゼファー750】時代を先取りした元祖ネオクラシック
今のバイクは素晴らしいけれど、昔に優れた楽しいバイクがいろいろあった。自分の経験も踏まえて「今あったらいいのになぁ」と思うバイクを振り返ってみたい。第7回は「カワサキ・ゼファー750」について。
レプリカに疲れたライダーはゼファーを求めた
80年代を象徴するレーサーレプリカブームの熱狂が冷めつつあった89年、空冷エンジンにツインショック、ビキニカウルさえ持たない先祖返りのような姿をした異色のマシンが現れた。カワサキのゼファー400だった。
かつての名車Z1/Z2をオマージュしたシンプルで力強いスタイルに、Z400FX系がベースの空冷4気筒DOHC2バルブエンジンを搭載。
最高出力は46psと当時でさえ非力なパワーに約200kgの重い車体は、走りの魅力を語るには不十分なスペックではあったが、それでもゼファー400は当時の行き過ぎたレプリカに疲れた若者やかつてZに憧れたヤングアダルト層のハートをワシ掴みにし、たちまちベストセラーモデルとなっていった。
Z2のDNAを最も色濃く引き継いだ750
となれば、誰もが期待するのはZ1/Z2の後継となる大排気量モデルだ。予想どおり翌90年にはゼファー750、92年にはゼファー1100が続けざまにデビュー。ゼファーシリーズが出揃った形になったが、その中でも最も見た目がZ1/Z2に似ていたのが750だった。
かつてのZでも国内ではメーカー自主規制により750ccのZ2がメジャーな存在だったことも影響していると思う。
ゼファー三兄弟をつぶさに観察すれば分かるが、エンジンの丸みを帯びたヘッドカバーや空冷ならではのフィンの形状、ティアドロップ型のタンクや美しい曲線を描くダブルクレードルフレームなどにもZの正統的なDNAが宿っていた。後にスポークホイール仕様の「RS」を追加するなど、カワサキ自身もそれを認めていたと思う。
さらに細かいことを言うと、エンジンも750は通称“ザッパー”と呼ばれたZ650がベースであるのに対し、1100は水冷のグランドツアラー「ボイジャー」用をわざわざ空冷化したもので、エンジンの外観上の特徴やまったりとした乗り味も750とはだいぶ異なっていた。
一目惚れで初期型のオーナーに
その当時、自分はしばらくバイクと距離を置いていたが、通勤途中にあったバイク屋の軒先に飾られたピカピカのゼファー750を見て一目惚れした記憶がある。自分は70年代のリアルZ世代ではなかったが、ゼファーの中にZへの憧憬を見い出していたのだ。
ほどなくして、ゼファー750初期型のオーナーとなった自分は毎日の通勤の足として、週末は奥多摩や箱根のワインディングへと繰り出しては走りを楽しんだ。
最高出力68psと今のレベルで考えると大したことはないが、Z650譲りのコンパクトな車体は車重も約220kgとクラス最軽量級で、サーキットでも期待どおりの運動性能を見せてくれた。
シンプルな空冷エンジンなのでチューニングの余地も多く、マフラーやリヤショックなどのカスタムパーツも当時から豊富で、剥き出しの車体は自分でも容易にいじれるのがメリットだった。
ちなみにベースとなったZ650は元々ジムカーナ御用達マシンとして名を馳せるなど軽快な走りは折り紙付き。トピックとしては93年の鈴鹿8耐には月木レーシングからゼファー750ベースの耐久レーサーが出走し注目を集めるなど、ゼファー750は同シリーズ中でも最もバランスのとれたマシンだったと言えるだろう。
空冷直4の咆哮をまた聞きたい
ゼファーシリーズはその後のネイキッドブームへとつながる潮流を作った立役者として知られる。今でこそ、2輪のジャンルも多様化し、ネイキッドの中にも“ネオクラシック”と呼ばれる一派があるが、今思えばゼファー750こそが姿形や車体構成も含め、まさしくその原点を体現していたのだ。
その意味でゼファー750は本家「Z」の価値を再認識させてくれた一台でもある。それは今なお200万円を超える高値で取引される人気にも反映されていると思う。
水冷エンジンにモノショックを装備した現代のZ900RSもたしかに速いしクオリティも高いが、昭和世代の自分としては、いつの日かまた空冷直4マシンの懐かしい咆哮を聞けたらなぁ、と思うのだ。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。