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「噂」が、ついに現実化。なぜ、2023年マスターズ覇者、ジョン・ラームはリブゴルフへ移籍!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ここ数週間、ゴルフ界で囁かれていた「噂」が、とうとう現実化した。

 スペイン出身の29歳、メジャー2勝を含むPGAツアー通算11勝を誇る世界ランキング3位の大物選手、ジョン・ラームが、PGAツアーを離れ、リブゴルフへ移籍することがわかった。

 まだ公式発表はされていないが、12月7日(米国時間)に米スポーツイラストレイテッドが「関係者から確認が取れた」としてラームの移籍を報じた。ラームはリブゴルフとの契約を交わすため、すでにニューヨークへ向かったという。

 ラームがリブゴルフへの移籍を考えているという噂は、以前から何度も浮上していたが、そのたびにラーム自身が打ち消していた。

 「ショットガン形式で一斉にスタートする3日間54ホール、ノーカット(予選カット無し)のリブゴルフのフォーマットは、僕は好きになれない。あれはゴルフではない」

 だから、「リブゴルフへの移籍は考えていない」とラームは常々、言い切っていた。

 さらにラームは、かつてはPGAツアーでともに戦っていた仲間がリブゴルフへ移ったことについては「それぞれの選手の選択を僕はリスペクトする。そして僕自身はPGAツアーで戦うことを選択した。それだけのことだ」とも言っていた。

 しかし、そう語っていたラームが「リブゴルフへ移籍するらしい」という噂は、今年9月のライダーカップ後に囁かれ始め、今年11月の下旬ごろから一気に膨らみ、リブゴルフ選手のフィル・ミケルソンが「ラームのリブ入りは、すでに決まったことだ」と語ったことで、噂はさらに加速した。

 そして、「ラームのリブゴルフ移籍は、12月7日に発表されるらしい」という情報が飛び交い、秒読み段階に入ったかのような状態だった。

 PGAツアーの選手たちからは「ラームが抜けてしまったら、PGAツアーは大打撃を受ける」と案じられ、「どうか現実になりませんように」と祈るような気持ちだった選手やファンは多かったことだろう。

 だが、噂は現実になった。

 これで、2023年のメジャー覇者はラームと全米プロ覇者ブルックス・ケプカの2人がリブゴルフ選手ということになり、今年のマスターズのトップ3は、優勝がラーム、2位タイがフィル・ミケルソンとケプカゆえ、すべてリブゴルフ選手ということになる。昨年の全英オープン覇者、キャメロン・スミスを含めると、メジャー3大会がリブゴルフ選手の勝利ということになる。

【「なぜ?」の背景】

 それにしても、なぜラームは、リブゴルフのフォーマットが好きになれないと言っていたにもかかわらず、移籍を決めたのだろうか。

 真っ先に考えられる理由は「お金」である。リブゴルフからオファーされた移籍料は、破格の6億ドル(約897億円)と推測されており、これまで移籍した選手の中では、もちろん最高額となる。

 だが、「移籍料の金額の問題ではない」という見方もある。

 英国紙「ザ・ミラー」は、PGAツアーが11月22日に発表したボーナス制度「PIP」の結果が、ラームに移籍を決意させたと見ている。

 PIPは、そもそもはリブゴルフへの選手の流出を防ぐためにPGAツアーが新たに創設したボーナス制度で、試合の成績とは関係なく、PGAツアーへの貢献度を数値化してランキング化し、高額のボーナスを支給するというものだ。

 平たく言えば、選手の人気ランキングに応じたボーナス制度で、PGAツアーによって選考され、結果が発表される。

 そして、2023年のPIPで1位に選ばれたのはローリー・マキロイで1500万ドルを獲得。2位はタイガー・ウッズで1200万ドルが授けられ、ラームは3位となって900万ドルのボーナスを受け取ることになった。

 2023年はマスターズ制覇を含む年間4勝を挙げて大活躍したラームにしてみれば、自分が3位というこの結果は、いくらPIPが「成績ではなく人気だ」「PGAツアーへの貢献度だ」と言われたところで、納得がいかず、受け入れがたいものだったのではないか。PGAツアーから正当に評価されていないという不満がラームをリブゴルフへと駆り立てたのではないかと同紙は報じている。

 PIPが発表された11月22日以降、ラーム移籍の噂が一気に膨らみ、広まったことを考えると、同紙の見方は「なるほど」と頷ける。

【「お金」だけではない?】

 だが、実を言えば、ラームがPGAツアーに対して抱いていた不満は、PIPの結果が発表される以前から「いろいろ」あった。

 今年の夏ごろには「PGAツアーにお願いしたいことがある。試合会場のコースの全ホールに選手専用の清潔なポータブルトイレを設置してほしい。いざというとき、選手には選択肢がないんだ」と、切実な要望を口にしていた。

 それ以外にも「コース上に選手の家族専用のバスルーム(トイレを備えた休憩所)を設置してほしい」、選手と家族専用ラウンジで提供される食べ物を「栄養計算されたヘルシーな食べ物にしてほしい」「マネージャーやコーチも、このラウンジを利用できるようにしてほしい」、そして選手用のトレーニングジムで働くトレーナーやスタッフにも「遠く離れた不便な駐車場ではなく、クラブハウス前の便利な駐車場を提供してほしい」と語り、選手、家族、キャディやサポートチームのメンバーたち、すべてに対する待遇改善をリクエストしていた。

 ラーム移籍の噂がまことしやかに囁かれ始めたころ、PGAツアーのジェイ・モナハン会長は2024年の改善点を記したメモをツアーメンバーである選手たちに配布した。そこには「ラームのお願い」に最大限、応える形でトイレの増設等々が細かく記載されていた。

 それは、PGAツアーによるラーム引き留めの「最後の砦」だったと思われる。しかし、「時すでに遅し」だった。ラームがPGAツアーへの不満を積もり積もらせ、ついに爆発させてPGAツアーから離れることを決めたのだとすれば、そんな付け焼刃の待遇改善を、いまごろ示したところで「too late」である。

 賞金やボーナスの高額化も、もちろん大切だが、選手たちが一番求めているのは、正当な評価とフェアな待遇。言い換えれば、お互いの「信頼関係」なのだろう。

 そう考えれば、すでにリブゴルフへ移籍したミケルソンやブルックス・ケプカ、リー・ウエストウッド、イアン・ポールター、セルジオ・ガルシアらが、揃いも揃って、みなPGAツアーへの不満を口にしていたことが、いまさらながらに「なるほど」と頷けてくる。

 これ以上、PGAツアー離れを増やさないために、今からでも「まだできること」「やるべきこと」を考え、実行することが急務である。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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