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本来の金融政策に必要なのは柔軟性と機動性であり、それを取り戻すことで円安対応にもなる

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀の黒田総裁は7月21日の記者会見で次のような発言をしていた。

 「金利を上げたときのインパクトはかなり大きく金利を引き上げるつもりは全くない。金利を少し上げるだけで円安が止まるとは到底考えられない。金利だけで円安を止めようとすれば大幅な金利引き上げになって経済に大きなダメージとなる」

 これは一見、正論のように見えるが、いくつかおかしな点が存在している。

 「金利を上げたときのインパクトはかなり大きく金利を引き上げるつもりは全くない」

 これは「金利を上げたときのインパクト」と「かなり大きく金利を引き上げる」ことは切り離すべきものである。

 「金利を少し上げるだけで円安が止まるとは到底考えられない」とあるが、ここにひとつ問題が存在する。

 黒田総裁は「金利を上げたときのインパクト」が、かなり大きいことは自覚しているようである。この金利を上げたときというのは、当然ながら最初はマイナス金利の解除を示そう。

 つまりゼロ金利政策に戻ることを意味する。これが黒田日銀以前であれば、黒田総裁のおっしゃるとおり、「金利を少し上げるだけで円安が止まるとは到底考えられない」となる。

 しかし、黒田総裁の金融政策は片道切符であった。つまり緩和方向にしか向いていなかったのである。それがどういうわけか9年間も続いてしまった。9年前に社会人になった人は異常な緩和しかみてこなかったことになる。それがあたり前のようになってしまったが、それこそが異常な状態なのである。

 しかもその方向を変える意思がほとんどない状態が続いていた。いまの日銀の辞書には「緩和」しかない。

 それに対し引き締め方向もあるという普通の金融政策に戻るだけで、もの凄いインパクトが生ずる可能性があり、それを黒田総裁も自覚していると思われる。

 そのインパクトがどの程度あるのか。これは1998年7月にドル円が146円台をつけた際に日米の協調介入が実施され、ドル円が一時136円台に低下したぐらいのインパクトはありうる。その後、7月に147円台に再び上昇したが、この147円台でピークアウトした。

 日銀がFRBと同じ幅で利上げをする必要はまったくない。ただし、利上げもいつでもできる状態にしておくことが重要である。

 「金利だけで円安を止めようとすれば大幅な金利引き上げになって経済に大きなダメージとなる」

 別に金利を大きく上げることが必要でなく、普通の金融政策に戻ることで、円安調整は可能になる。そのために?9年間も異常な緩和を続けてきたじゃないかとも言えるのである。

 本来の金融政策に必要なのは柔軟性と機動性であり、それを取り戻すことで金融政策による円安への対応力も備わることになる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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