眉カット2ヶ月待ちに珍品「マグネットつけま」がヒット 一方、ネイルサロンは倒産増と明暗くっきり
withマスク美容のトレンドが見えてきた その1
バブル崩壊もリーマンショックも大きなダメージになることなく、高め安定を誇ってきた化粧品業界。それも長引くコロナ禍で、昨年の主要メーカー実績は軒並み約20%の減収(*1)と、厳しい数字が並ぶ。市場調査会社インテージが発表した「2020年、今年苦戦したものランキング」(*2)でも、前年より金額ベースで売上げが低下した商品のトップは口紅。つづくトップ7品目中5品目までがメイクアップ商品と散々だ。
限定アイシャドウに長蛇の列、まつげ温熱カーラーは前年比250%に
これだけネガティブなデータから察するに、女性たちの美容熱は急降下……。いやいやそう簡単に美容魂は鎮まらない。
前出の“売れなかった製品ランキング”もよく見直せば、ワースト5品目は口紅、頬紅、ファンデーション、化粧下地、おしろい、といずれもマスクで隠れてしまうもの。使用する意味がないうえ、せっかく使ってもマスクが汚れるだけなのだから、買わなくなるのは当然だ。
一方、マスク着用で視線が集中する眉や目もとのメイクアップ製品は、いずれのメーカーも例年並か例年以上の売上げをマーク。クラランスの4色アイシャドウは前年比250%の大ヒットで、オンラインショップでは一時品切れに陥った。まつげをしっかりカールさせる貝印のホットアイラッシュカーラーも前年比250%と、目ぢから美容は空前の盛り上がりを見せているのだ。
3月に開催された新宿伊勢丹の化粧品イベント、ISETAN MAKEUP PARTYでも、多くの女性が感染対策の手間を厭わず新作アイメイクアップを試し、人気ブランドSUQQUの伊勢丹限定アイシャドウパレットには、長~い列が会場の6階から2階まで延々とのびた。
「事前の電話予約分は2時間でソールドアウト、ネットでの予約も10分で予定分が売り切れてしまい、当日販売分に来店されたお客様が並んでくださったようです」(SUQQU PRマネージャー 小野芽以子氏)と、コロナ禍の逆風など、まさにどこ吹く風だ。
人気再燃のまつげパーマや眉カットは2ヶ月待ちも
さらに最近は「眉カットの予約が取れない」「まつげパーマに2ヶ月待った」の声もよく耳にする。一時は下火になっていた眉カットやまつげパーマが、マスク生活と共に復調してきている様子だ。
銀座で眉カットやまつげパーマなど、目もと美容に特化したサロンmime(ミメ)代表・川島典子氏に伺うと「感染予防のために稼働率を7割程度に抑えているので、予約が取りにくくなっているのは確かです。それに、リモートワークが増えて仕事帰りに来店される方が減った一方、以前は比較的余裕があった昼間の時間帯にお客様が集中するので、よけい取りにくくなっているんですね」とひかえめだが、「コロナ禍でもお客様は途切れていません。高齢の方や遠方のお客様の来店が減った一方、20~60代の新客が増えました」と、噂どおり好調のよう。倒産が相次ぐネイルサロン(*3)とは対照的だ。
人気を分かつファクターXは清潔さと自己メンテの可否
ネイルサロンの閉店は、「コロナ禍で女性たちに経済的な余裕がなくなったため」と言われるが、眉&まつげサロンもほぼ同じ価格帯。施術者との距離も、眉やまつげのケアとネイルアートではほとんど変わらない。そのうえ、いずれもマスクに邪魔されないwithマスク美容の旗手。それなのに、この差はいったいなんなのか?
ネイルサロン通いを休止中の友人は「長く伸ばした爪が、コロナのせいでちょっと不潔に思えてきた。ラインストーンとかをゴテゴテつけたジェルネイルも、今はちょっと無理」と言う。また別の女性は、手洗い回数の激増でプロの精緻なネイルアートがダメになりやすく、「もったいないから自分でマニキュアを塗ることにした」そうだ。
つまりはネイル熱に陰りはないが、清潔感と自己メンテの可否から、サロン通いからDIYに移行とのこと。実際、貝印「KOBAKO」の自宅用ネイルケアセットの売上げは、昨年がコロナ禍前の2019年の345%、今年1~3月はさらに昨年同期の311%と、自宅ケア派の急増を裏付けている。
まつエクはアウトでパーマは好調、目ぢから美容にも微妙な温度差が
絶好調の目ぢから美容においても、清潔意識の変化と自己メンテの可否は、重要なファクターXだ。グルー(接着剤)による簡便な増毛でまつげを長く見せるまつげエクステンション、通称まつエクと、上向きのカールにクセづけするまつげパーマ。部外者にはどう違うのか想像もつかない微差だが、まつエク利用者は下降線を描きパーマは高め安定と、明暗が分かれた。
前出の川島さんも「うちではまつエクも扱っていますが、正直言って、こちらはオーダーが激減しています。うっかり目をこすったりうつぶせで寝たりすると、エクステがとれたり倒れてしまいますし、月に2回程度は来店いただかないといい状態を維持するのはむずかしい。長持ちさせようと、アイメイクのクレンジングを手抜きされるとかなり不潔になります」と、清潔感にも自己メンテにも難アリだ。
一方、まつげパーマは、「パーマでまつげが上向きに持ち上がると、目がぱっちり見えて目ぢからが出ます。何ヶ月もサロンに行かなくても元に戻るだけで特にデメリットがないのも、今の生活に向いていますね」(川島さん)という。
まつげパーマの人気ブランド『パリジェンヌラッシュリフト』の施術用製品の販売および技術指導を行っている株式会社IL代表取締役社長清水小夜香氏も、「技術習得コースの受講者は、昨年は2019年の2倍、今年になってさらに2倍と、倍々で増えています」と、コロナ禍でも右肩上がりだ。
アイライナー式に進化したマグネットつけまがメジャー化へ
そして、時ならぬ目ぢからブーム、ここに極まれりなのが、マグネットつけまつげ。
マグネットにつけまつげ? 冗談のような組み合わせだが、名前どおり根元部分に小さなマグネットがついているつけまつげ。2016年頃からYouTubeなどで密かに話題になっていたマニアックな珍品だが、ここに来てじわじわメジャーになりつつある。
通常、つけまつげは根元部分に専用の接着剤をつけてまぶたに固定するが、これは文字どおり磁力を利用する。装着法が違う2種があり、ひとつは自分のまつげをマグネットつけま2枚ではさむサンドイッチ式。上下のつけまのマグネットが引き合って、自前まつげをがっちりつかむというわけだ。
もうひとつは、改良型ともいえるアイライン式。あらかじめ装着したい位置に、酸化鉄などをふくむリキッドでアイラインを引いておき、そこにマグネットつけまを近づければ……ぴたっとくっついて完成だ。
先に注目を集めたのはサンドイッチ式のようだが、こちらは自前まつげがつけま2枚の重みに耐えられるほど豊かで強靭であることが大前提。欧米人に比べ細くて少ない日本女性のまつげでは、なかなかむずかしい。また自前まつげに、つけまを2枚も重ねるわけだから、仕上がりのボリューム感はかなりのもの。ラテン系女性からの支持は厚いが、日本人好みのナチュラル仕上がりにはほど遠い。
一方、アイライン式は自分のまつげでつけまを支える必要もなく、つけまは1枚だけなのでそれなりにナチュラル。ライン(の酸化鉄)にのみくっつくので、通常の接着剤タイプのようにズレることもなく、手際が悪いと装着前に接着剤が乾いてしまうという失敗もない。かくして、日本でも一昨年あたりから10~20代のマニアの間で話題になっていたのが、マスク生活が長引くにつれて30~40代にも愛用者が増えてきた。
おかげで昨年までは5,000円以上の製品が中心だったのが、今は2,000~3,000円の派手すぎない国産品も豊富に。これならリモート宴会で使えそう。というわけで、ご興味のある方は『マグネットつけま』や『磁力つけま』で検索を。こんなに流行っていたのかと、驚くほど多種多彩な製品が揃っていますよ。