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病院で「面会困難」「死に目に会えない」 新型コロナ時代の困難と緩和ケア

大津秀一緩和ケア医師
(写真:アフロ)

新型コロナがもたらした「自然な死」への挑戦

新型コロナウイルス感染症によって5月19日までに773人の方がお亡くなりになりました。

中には著名人の方も含まれ、彼/彼女の死が報じられた際に、厳しいその最期の様相もまた伝えられました。

感染の恐れがあるために、死前、死の瞬間、そして死後に至っても、ご故人にとって大切な方々が側にいることが叶わなかったのです。

近年、終末期医療の現場には様々な課題が存在していたことも事実です。一方で、その意思さえあれば、亡くなってゆく方と時間をともにすることは普通にできることでした。

しかしそれは「当たり前」ではなかったのです。

BBCの記事で、イギリスの緩和ケア医が「死について話をしておいて」と強調しました。その事情が切実たるものでした。

COVID-19の場合、重篤患者の枕元に家族など大切な人が寄り添うことができない。これこそ新型コロナウイルスの「無残なほど残酷」な側面だと、緩和医療の専門家で著述家のレイチェル・クラーク医師はBBCラジオに話した。

自分は何をどうして欲しいのか、事前にしっかり近親者と話し合っておくことが大事だと、クラーク医師も言う。

出典:「死について話をしておいて」 新型コロナウイルスで英医師たち

誰にも突然起こりうる死。それに備えて、人生会議を先延ばしせずに始める必要が否応なしに生じることになったのです。

そしてCOVID-19の患者さんとご家族に留まらず、広がる新型コロナはさらなる問題を引き起こしました。

がん治療およびがん終末期への影響

医療従事者にも感染者が出たことで、医療体制にも影響が生じるようになりました。そしてそれはがん治療の分野も例外ではありません。

例えばがん研有明病院では一時手術予定を縮小するなどして対応しました。

手術や定期的な抗がん剤治療への影響も次々と報じられました。

そしてその波は、がんの患者さんが主として最後の時間を送るための専門施設である緩和ケア病棟・ホスピスにも及んだのです。

重い病を得るということは孤独な体験です。そのつらさを他者と完全に共有することはできず、死が迫る人は苦悩し、孤独を深めます。

だからこそ、周囲に支えようとする人たちがいることはとても重要です。

死出の道をゆく方にとってばかりではなく、周囲の方々にとってもまとまった時間が取れるということは大切です。

亡くなってゆく人の側にあろうとするご家族は確かに大変ですが、その時間をともにすることは、死後のつらさや悲しみを和らげてくれうるものです。その時間はかけがえのないものなのです。

しかし緩和ケア病棟やホスピスには全身状態が悪い方が多く入院していることを鑑みれば、心ならずも面会などを制限せざるをえない側面があるのも現実でしょう。

有名な福岡県の栄光病院ホスピスでも、面会制限を行っていることに伴い苦悩しながらケアに当たっている様子が報じられていました。

「家族に会いたい」コロナ、ホスピスも苦悩 面会制限の病院も

緩和ケア担当者の模索は続く

緩和ケアとは元来、与えられた状況においてその中での最善を考えるアプローチであり、厳しい状況において何ができるのかを考えることはその専門性の一つとも言えるものです。

今回においても医療者の様々な努力が現場で見られます。

できる範囲で面会制限を緩和して、一緒の時間が取れるようにとするアプローチが為されています。

またタブレットを使った面会を推進すべく、永寿総合病院の廣橋猛医師を中心にクラウドファンディングを行ってテレビ電話面会を広めようとする活動も始まっています。

この時代に即した緩和ケアの課題を感じているのは世界共通であり、先日JAMA(米国医師会雑誌)に、「COVID-19時代のがん患者の緩和ケア」として次のような内容が記されていました。

◎外来患者への緩和ケア…「コロナによる隔離」に対し医療用麻薬処方を遠隔診療で対応。ホスピスの紹介。入院の予防。新規患者のための遠隔医療の確立。遠隔医療の技術的困難へ対応するなど。

◎COVID-19陽性の入院患者への緩和ケア…主治療チームへの支援と負担軽減。症状の悪化による恐怖や予期悲嘆に情報提供などして対応。終末期の薬物調整。治療やケアのゴールの策定など。

◎COVID-19陰性の入院患者への緩和ケア…「(他はCOVID-19になっているのに)自分はなっていないということへの罪悪感」などの気持ちに対して、集学的チームによる支援およびカウンセリングを提供。

対面に比べると、ある1つの研究で不安や苦痛が有意に高いという結果も出ているとその限界に言及しつつも、オンライン診療やビデオ面会に関しての利点もまた述べられていました。

新型コロナウイルスの件で改めてオンライン診療が脚光を浴びることになりましたが、筆者も2年前からオンラインでの緩和ケア相談を行い、専門家が少なくなかなか受けられない緩和ケアを早期から受けられるようにと活動しています。

すべての診療科がオンラインに適しているとは限りませんし、対面が良いことは間違いありませんが、不安や疑問の解消を支援する内容はオンライン診療・相談とも親和性が高いものです。

同文献は「創造的な方法で患者のケアに積極的に関わる時だ」という言葉で締められていますが、本当にその通りだと感じました。

まとめ

一番の解決策はCOVID-19の治療が確立することです。

しかしそれまでしばらく、私たちは今までよりも不自由な”新しい様式”に適応せねばなりません。

その中において今までよりも、最後の時間をともに過ごしたり、話したりということが難しくなっているという現状があります。

ただ技術の進化により使える代替の方法が出てきているのも事実。

それらを通して、家族や大切な方たちとよくコミュニケーションを図っておくこと、これが有事にもきっと役立つものと考えられます。

先日、私もある患者さんを見送りました。ただ施設スタッフのはからいで、できうる範囲でご家族と最後の時間が持てたようです。

もし皆さんが今当事者であるならば、あるいはそのご家族であるならば、ぜひ医療者や介護者とこのような事柄に対して率直に話し合ってみてください。

【注】新型コロナウイルス感染症はCOVID-19で、ウイルス名はSARS-CoV-2ですが、本稿ではCOVID-19時代を新型コロナ時代と呼称しました。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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