人事戦略を考える上で最初に考えること〜「人材ポートフォリオ」と「人材フロー」〜
■人事・採用戦略のコアとは
人事・採用戦略を考える上で、最初に考えるべきことは何でしょうか。何から手をつけていく、何から決めていく必要があるでしょうか。それは、「人材ポートフォリオ」と「人材フロー」です。
人事・採用戦略が「どんな組織を」「どうやって」実現するかの方針だとすれば、前者にあたるのが「人材ポートフォリオ」で、後者が「人材フロー」です。つまり、この2つは人事戦略で実現したい「ゴール」のようなもので、採用や育成などの諸機能における戦略につながっていきます。
■「人材ポートフォリオ」の考え方
「人材ポートフォリオ」の「ポートフォリオ」とは何でしょうか。ポートフォリオ(Portfolio)は、イタリア語のPortafoglio(ポルタフォリオ:お札を入れる財布)が語源です。様々な業界で固有の意味で使われており、例えば、アート関係や広告制作などのクリエイターの人々においては「自分が制作してきた作品集」として使われています。金融や投資の業界では、現預金、株式、債券、不動産など、投資家が保有している「金融商品の一覧や、その組み合わせの内容」を指しています。
人材の「ポートフォリオ」とは、簡単に言えば、自社や事業を運営していく上で、「どんな人をどれだけ必要とするか」ということです。どんなタイプやレベルの人材をそれぞれどの割合で組織を構成していくのかということに関する方針です。自社に必要な人材のパターンを検討し、それぞれの組織内構成比を決めていくわけです。
例えば「チーム⇔個人」「新価値⇔既存手法」の2軸はかなり普遍性の高いセグメント軸ですので、簡易的にはこのフレームでどんな会社でも検討が可能です。しかし、さらに精緻に検討するのであれば、これにレベル感や職位などの階層の軸を加えたり、例えば個人プレイがほぼない会社であれば「チーム⇔個人」の軸を外して、代わりに「短期⇔長期」とか「コミュニケーション⇔論理的思考能力」等々、自社にある職務役割や適性を分類できる軸を加えたりして、オリジナルなセグメンテーションを作成するのが望ましいです。
■「人材フロー」の考え方
理想の人材ポートフォリオを作成することができれば、次に、現在の自社内に各セグメントの人材がどういう割合でいるのかを、実際のデータ等を基に概算することになります。一方で、本来であれば、どのぐらいの割合が良いのかについても想定してきます。そして、その「現実」と、「理想」とのギャップを把握できれば、それを埋めるためのプロセスが「人材フロー」となります。
「人材フロー」とは、人が組織にどんなチャネルから入って、どのように組織内で動き、どのように出ていくかについての流れについての方針です。この最も重要なものが「採用」であり、次に重要なものが「配置」です。
「人材フロー」の方針を決める主な要素は以下のようなものです。
■採用チャネル(新卒or中途、等)
-新卒や第二新卒等のポテンシャル採用か、中途採用等の即戦力採用か、社員と非正規社員の割合をどうするのか
■外部流動性(求心力or遠心力、等)
-「Up or Out」的な高い外部流動性をよしとするのか、「永続勤務表彰文化」的な長く組織に所属し続けるような低い外部流動性をよしとするのか
■内部流動性(キャリアチェンジの可否、等)
-縦割りのキャリアコースを作って、同一組織や職種内での異動や昇進など上下の流動性しか行わないのか、それとも組織間をまたぐ横の流動性も保持するのか、昇格率はどうするのか
これらの論点を、自社の採用力や育成力、求人の逼迫度、階層別に求められるスキルや能力の連続性、求める人物像が保持すべきスキルの獲得が可能となる年数、求める人物像の変化スピード、そもそも持っている自社の求心力(退職率等)、組織や職種の間のスキルや能力転用可能性などを踏まえて検討して、それぞれの指標の推定(目標)数字を決めていくことで、人材フロー戦略が出来上がります。そして、それに伴い、採用の目標数や、どんな人を採用するのか、どういう動機付け(会社との心理的契約)をするのか・・・等々が順次、半ば「自動的に」決まっていくという流れになります。
■2つの「ゴール」に従って、人事全体をアラインメントする
この「人材ポートフォリオ」と「人材フロー」という、2つの「ゴール」を共有しながら、採用や育成、評価や報酬、配置や代謝などの各領域の方針、戦略を立てていくことで、全体を通して「採用」を軸とした一貫性を担保していきます。
採用に関して言えば、理想の人材ポートフォリオや人材フローを眺めて、採用する人材のバラエティ(どんな人をどれぐらい取るのか)や、採用広報でのメッセージ設計(キャリアや仕事のイメージをどう期待させるのか)や、候補者へのフォロートーク(どんなつもりで入社してもらうのか)のトーンを決めていくことになるわけです。
このように、後工程と「一貫性」を持った採用戦略を立て、そこに人事全体のパワーをシフトしていくことで、最も効率的・効果的な人事の全体像を構築することができるのです。