<北朝鮮内部緊急インタビュー>新型肺炎に民衆は驚くべき無知無関心 未知の病気よりも貧困が大きな脅威
中国から周辺国に拡散中の新型コロナ肺炎。北朝鮮国内では、どのような防疫体制を採り、住民たちは、この伝染病にどのような反応を見せているのか。筆者は、北朝鮮国内の複数の取材パートナーに情報収集を依頼、最新の状況について聞いた。
◆中国人と接触した者は全員隔離
28日段階では、新型肺炎に対する防疫と周知は「テレビを通じて、手洗いとマスク着用を励行するように訴えている程度」だったが、9日になって一気にレベルが上げられた。
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咸鏡北道茂山(ムサン)郡の取材協力者A氏は、30日朝に次のように伝えてきた。
――新型コロナウィルスの拡散防止策は、どのような状態か?
A「税関の通関検査係員、貿易機関の職員など、中国人と接触した人たちは症状が出ているかどうかにかかわらず、全員を隔離している」
――病院に隔離しているのか?
A「いや、所属する機関が、対象者に食糧と寝具を準備させて職場内の事務所や警備室などで寝泊まりさせている。貿易商社の職員の場合は、12月初旬まで遡って中国人と面談したり案内したりした全員を隔離している、隔離期間は20日間だそうだ」
――症状が出ている人はどうするのか?
A「職場で隔離した人で、風邪の初期症状のようなものが現れた人は病院に連れて行って隔離さしている。その費用はすべて自己負担だそうだ」
――住民に対して病気の説明や予防法の周知をしているか?
A「28日までは、テレビで手洗いやマスク着用を呼びかける程度だったが、29日になって住民地区や職場を病院の医師が回って講演を始めた」
――どのような内容か?
A「茂山鉱山では労働者を対象に講演をした。病気は伝染する肺炎で、中国では死亡者が出ていること、わが国にはまだ発症者はいないことなどだ。予防策については、手洗いとマスク着用をしっかりやれと言うだけだった。ワクチンがまだ開発されていないので、予防第一なのだそうだ」
――一般住民の受け止め方はどうか?
A「伝染する病気だけれど、一般住民の警戒感は、まだまったく薄いと思う。この寒い冬に、いったいどこに行けばお湯で手を洗えるのかと不満をいう人もいれば、中国で流行しているのは、いいものを食べ過ぎているからだろうという反応まである」
日韓メディアによれば、北朝鮮当局は中国との陸路の国境を封鎖し、貿易もストップさせている。現段階では、金正恩政権はコロナウィルスの国内伝播阻止に集中しているが、「まだピンと来ていない」というのが住民の実情のようだ。これは、昨年大流行した「アフリカ豚コレラ」が拡散して養豚に甚大な被害を与えた時と似ている。人に伝染しないからと、死肉を冷凍保存してこっそり販売する事例が相次いだ。
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◆病気より貧困が脅威で無関心
この点に関し、29日、両江道の恵山(ヘサン)市の協力者B氏は次のように伝えてきた。
――新型肺炎に対する住民の反応はどうか?
B「テレビや講演で感染予防について繰り返しているが、住民たちは『無反応』といっていいのではないか。コロナウィルスにびくびくしているのは、生に執着がある金持ちだろう」
――庶民は関心がないということか?
B「人は死ぬ時は死ぬものなのだという意識だ。つまり、伝染病にかかって死ぬのも、貧乏で飢えて死ぬのも死ぬことに変わりはない、そんな考えだと思えばいい」
北朝鮮の一般庶民にとっては、伝染病よりも今日の生活をどうするかの方がより切実だということなのだろう。言い換えると、まだ流行していない病気よりも貧困の方が大きな脅威なのだ。
B氏は最後に、こんな情報を知らせてくれた。
「29日に、恵山市で今年初めて腸チフスが発生した。場所はソンフ洞だ。防疫所と診療所の係官が『川の水を汲んで飲むときは必ず沸かすように』という注意書きを家々に張っている」
北朝鮮では、いまだに衛生的な飲用水の供給ができていない。保健・防疫当局はコロナウィルスと、やはり伝染病の腸チフスに同時に対峙しなくてはならないわけで、当分の間、てんてこ舞いが続くことになるだろう。
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※インタビューには、北朝鮮国内に搬入している中国の携帯電話を使った。