Perfumeの「サブスク解禁」はなぜ盛り上がった?日本の音楽市場の特殊性から考える
いよいよPerfumeが「サブスク解禁」
9月18日(水)、Perfumeのメジャーデビュー以降の楽曲が実に52曲も収録された3枚組ベストアルバム『Perfume The Best "P Cubed"』がリリースされました。
2005年9月に「リニアモーターガール」でメジャーデビューして以来、2007年の「ポリリズム」によるブレイク、東京ドームを含む大型会場での最新テクノロジーをふんだんに導入したライブ、積極的な海外展開、そして世界最大のフェスと言っても過言ではない「コーチェラ」こと「Coachella Valley Music and Arts Festival」への出演など、従来の「女性アイドルグループ」の枠にとらわれない活動を続けてきたPerfume。
彼女たちの代表曲が余すことなく収められた今回のベストアルバムを聴けば、3人がここまで歩んできた道のりを追体験することができます。
このベストアルバムと同時に発表されたのが、各種ストリーミングサービスにおける楽曲解禁。メジャーデビュー以降のアルバム、シングルの全収録曲がSpotifyやApple Musicを始めとするストリーミングサービス、いわゆる「サブスク」にて聴くことができるようになりました。
参考記事:Perfume、メジャー以降の楽曲をサブスク解禁(音楽ナタリー 2019年9月18日)
女性アイドルグループとしての枠組みを押し広げる先進的な存在であり続けるPerfumeですが、あくまでもCDを売ることに比重を置いた(ように見える)音源の発表方法に関しては、言葉を選ばずに言えば唯一「遅れている」と指摘せざるを得ない部分がありました。彼女たちの「サブスク解禁」に対する渇望感がファンの間で充満していたこともあり、このニュースはツイッターでもトレンド入りを果たすなど大きな話題を呼びました。
多数のヒット曲だけでなく、作品として優れたアルバムも保有する彼女たち。2016年にリリースされた『COSMIC EXPLORER』はアメリカのローリング・ストーン誌における「20 Best Pop Albums of 2016」にも選ばれています。
今回のベストアルバムおよび「サブスク解禁」を通じて、より多くの人がPerfumeの作品の魅力に気づくことになるのではないでしょうか。
「サブスク解禁」がニュースになる日本の特殊事情
一方で、この「Perfumeがサブスク解禁した!」ということ自体がニュースになる背景についても目を向けておく必要があると感じます。
そこから読み取れるのは、日本の音楽市場の特殊性です。
たとえば、2019年の1月から6月までの音楽市場について振り返ったとき、アメリカでは総売上5800億円のうち4600億円がストリーミングサービスです。市場シェアで言えば約80%。
参考記事:音楽CDとダウンロードが売れない時代の救世主 米音楽産業でついにストリーミングが8割に到達(JBpress 2019年9月10日)
対して日本の2019年の1月から6月までの音楽市場の実績を日本レコード協会が公開している統計で確認すると、音楽ソフト(オーディオ+音楽ビデオ)で1150億円、配信で340億円の計1490億円のうち、ストリーミングサービスは213億円。市場シェアでは約14%と、アメリカと非常に大きな乖離があります。
また、グローバルのレコード協会であるIFPIの調査データ(2018年発表)によると、世界におけるストリーミングサービスで音楽を楽しむ人の比率が61%であるのに対して(調査対象となっている18か国の平均値。アメリカは68%、イギリスは56%)、日本は23%。グローバルの値を大きく下回っています。
このように、「海外ではストリーミングサービスで音楽を楽しむのが主流になっているが、日本ではストリーミングサービスがいまだ市場の中心ではない」ということが複数の指標から明らかになっています。
日本のストリーミングサービス市場は急速に拡大しており、今年もおそらく昨年の349億円を上回ることがほぼ確実です。それでも市場があくまでも「フィジカルパッケージ主導」であることに変わりがないのもまた事実です。
日本でストリーミングサービスが一般化し始めた2015年ごろ(Apple Musicの日本でのサービス開始が2015年)から現在に至るまで多くのアーティストが同種サービスに音源を公開してきましたが、その足並みはいまだ揃っていません。「市場が小さいからアーティストも解禁しない」「未解禁のアーティストがまだ多いから市場が小さい」という双方の理屈が成立すると思いますが、いずれにせよ日本においては「サブスクで聴けないアーティスト」がいまだ多数存在しています。
「サブスク解禁」がトレンド入りする日本の音楽市場の現状は、「日本の音楽市場におけるデジタルシフトがいまだ道半ばである」ということの証左でもあるのです。
星野源が示した世界との向き合い方
昨年あたりから顕著ですが、これまでストリーミングサービスに音源を提供していなかった大物アーティストはその状況を逆手にとって「サブスク解禁」を一種のプロモーションツールとして活用してきました。
昨年5月にはMr.Childrenの「サブスク解禁」によってストリーミングサービスのチャートが「ミスチル祭り」の様相を呈するなど、「サブスク解禁」がこれまでのファンの掘り起こし、新規ファンの獲得などに相応の貢献を果たしていると思われます。
参考記事:椎名林檎、ミスチル、宇多田ヒカルも。「サブスク解禁」がもたらす衝撃(CINRA.NET 2018年8月1日)
そんな中で異彩を放ったのが、先月8月に「サブスク解禁」に踏み切った星野源。彼が仕掛けてきたのは「単なる音源の解禁」ではありませんでした。
「サブスク解禁」と同タイミングで発表されたのが、上海、ニューヨーク、横浜、台北を巡るワールドツアー。ニューヨークと横浜の公演には世界的なビッグネームでもあるマーク・ロンソンも出演します。また、Apple Music内のラジオステーションBeats 1での番組も同時公開されました。ちなみに日本人がここで番組を持つのは初めてで、番組冒頭では英語であいさつを行っています。
参考記事:星野源 自身の全作品の音楽ストリーミングサービス配信開始を語る(miyearnZZ Labo 2019年9月4日)
彼にとっての「サブスク解禁」は国内におけるプロモーションのみならず、「グローバルシーンとつながるためのきっかけ」でもあったようです。普段の活動から自身の音楽を遠くに届けるべく様々なトライを行っている星野源ですが、この件におけるスケールの大きさにはただただ度胆を抜かれました。
次なる大物の「解禁」は?
おそらく「サブスク解禁」というのはステークホルダーの様々な思惑が絡み合った案件であり、いろいろなタイミングが一致しないとなかなかスムーズに進まないケースもあるのだろうというのは容易に想像がつきます。また、「あえて解禁しない」ことが正義になるアーティストもいるように思いますし(例えばローカルに深く根差したアーティストであれば「その地域でしか音源を手に入れられない」というような発表形態の方が魅力的かもしれません)、なかなか一概に語れる問題ではないのも事実です。
この先も、サザンオールスターズのような「国民的」クラスの人気者から米津玄師のような若手スターまで、現時点ではストリーミングサービスに音源を提供していないアーティストの「サブスク解禁」を求める声が高まると思います。ですが、外野が気安く「早く解禁してよ」と言ったところで「じゃあすぐに解禁しましょう」となるとは考えづらいです。
ただ、日本国内においてもそもそもCDを買う場所自体が急速に減りつつあること、またストリーミングサービスが世界につながるプラットフォームでもあることなどを考えると、この先ストリーミングサービスの重要性はさらに増してくるはずです。
「サブスク解禁!」がニュースではなく当然のものとして受け入れられる、そんな日が来たときこそ日本の音楽市場が新たなフェーズを迎えるタイミングなのかもしれません。