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軽減税率対象の新聞は本当に「低所得者の生活必需品」「必要な情報を得るために欠かせない存在」なのか

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ 新聞は本当に多くの人、低所得者にとっての生活必需品なのか

2017年4月に導入される「予定」の消費税率の軽減税率の対象として、食品「以外」に一定条件に合致したものに限定されるが、新聞も該当することとなった。その理由として新聞は「低所得者の生活必需品」であり、「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」だからとの説明がある。新聞協会でも諸外国の事例を挙げるなどし、その正当性を主張している。

Q:なぜ新聞に軽減税率が必要なのか?

A:ニュースや知識を得るための負担を減らすためだ。新聞界は購読料金に対して軽減税率を求めている。読者の負担を軽くすることは、活字文化の維持、普及にとって不可欠だと考えている。

Q:新聞にも適用されているのか?

A:書籍、雑誌も含めて、活字文化は単なる消費財ではなく「思索のための食料」という考え方が欧州にはある。新聞をゼロ税率にしている国もイギリス、ベルギー、デンマーク、ノルウェーの4か国ある。欧州連合(EU)加盟国では、標準税率が20%を超える国がほとんどで、その多くが新聞に対する適用税率を10%以下にしている。

出典:(なぜ新聞に軽減税率が必要なのですか?(日本新聞協会))

食品以外では新聞のみに、半ば特権とも表現できる適用が成された件につき、その理由「新聞は低所得者の生活必需品」「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」に正当性があるのか否か、最優先のものなのかとの疑問が沸いてくる。

そこで総務省統計局による家計調査の最新版となる2015年分の公開値を用い、二人以上世帯における世帯年収別動向を確認することにした。合わせて新聞同様に、むしろ昨今では新聞以上に「生活必需品」との認識が強く、また昨今では「携帯電話の支払い料金が家計に負担となっているので、携帯電話事業者は配慮をするように」との要請が出されたことでも記憶に新しい、つまり政府側からも「欠かせない存在」と認識されている移動電話(携帯電話全般。従来型やスマートフォンを合わせたもの)の動向も見ていく。

次に示すのは「二人以上世帯全体(勤労者(勤め人。無業者は該当しないが、他に役員や自営・自由業者も該当しない)における、世帯別新聞購読率・移動電話通信料支払い率の、世帯年収別推移。合わせて購読・支払い世帯における平均支払額も算出した。なお今件では「新聞購読料支払い世帯は月極での購入」「移動電話通信料を支払う世帯は携帯電話を所有している」と定義している。また単身世帯はデータが存在しないので検証からは除外する。

↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い率(2015年、二人以上世帯全体)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い率(2015年、二人以上世帯全体)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い額(2015年、月額、二人以上世帯全体、購読・支払い世帯限定、円)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い額(2015年、月額、二人以上世帯全体、購読・支払い世帯限定、円)

まず実質的な普及率だが、新聞はむしろ低収入層の方が普及率が高い。携帯電話は低年収ほど低所有率ではあるが、その差は200万円未満を除けば20%ポイント程度でしかない。

利用世帯の負担費用は、新聞ではほぼ一定。1紙あたりの月額料金にさほど差が無いこと、多くの購入世帯では1紙の購読であることを考えれば当然の話。他方携帯電話は利用の仕方で費用が大きく変わる、子供のあるなしなど世帯構成などによって世帯内所有台数が変わる、さらに利用している携帯電話の種類でも料金に大きな差が出ることから、高年収層ほど額が上昇していく。

この結果のみを見ると、「新聞は低年収層へのサポートとして欠かせない存在」との話もあながち間違っていないように見える。しかし「二人以上世帯」には勤労者世帯以外に年金生活者世帯も多分に含まれていること、年金生活者は世帯年収こそ低いものの、生活費の少なからずを資産の切り崩しで充当していることから、実生活様式と額面上の年収との間には、勤労者世帯と比べて差異が大きく出ることを考える必要がある。

↑ 家計収支の構成(65歳以上・単身・無職・男性)(2014年)(円)(一か月)(「2014年全国消費実態調査」より作成)。上段の「実収入+不足分」の不足分が資産からの切り崩しとなるが、これは収入としては計上されない。
↑ 家計収支の構成(65歳以上・単身・無職・男性)(2014年)(円)(一か月)(「2014年全国消費実態調査」より作成)。上段の「実収入+不足分」の不足分が資産からの切り崩しとなるが、これは収入としては計上されない。

そこで勤労者世帯に限り、上記グラフを再構築したのが次の図。

↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い率(2015年、二人以上世帯のうち勤労者世帯)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い率(2015年、二人以上世帯のうち勤労者世帯)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い額(2015年、月額、二人以上世帯のうち勤労者世帯、購読・支払い世帯限定、円)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い額(2015年、月額、二人以上世帯のうち勤労者世帯、購読・支払い世帯限定、円)

利用者世帯の支出額動向はさほど変わりはなく、新聞は一定、携帯電話は高年収ほど上昇していく。他方普及率は一部イレギュラーが生じているものの、新聞は高年収世帯ほど購読している、携帯電話は世帯年収による差異があまり出ていない。

つまり現役世代に限れば「低年収層における生活必需品」はむしろ新聞より携帯電話であり、新聞は優先順位としては低いことがうかがえる。そして逆算すれば、新聞を「低年収層における生活必需品」としているのは、二人以上世帯においては非勤労者世帯、大よそ高齢年金生活者世帯が該当していることとなる(若年層では年金生活者は有り得ない)。

実際、世帯主の年齢階層別で仕切り直すと、まさにその通りの結果が出る。

↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い率(2015年、二人以上世帯全体、世帯主年齢階層別)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い率(2015年、二人以上世帯全体、世帯主年齢階層別)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い額(2015年、月額、二人以上世帯全体、購読・支払い世帯限定、円)(世帯主年齢階層別)
↑ 世帯収入別新聞購読・移動電話通信料支払い額(2015年、月額、二人以上世帯全体、購読・支払い世帯限定、円)(世帯主年齢階層別)

世帯主の年齢と共に新聞普及率は上昇していく。他方、携帯電話は70歳以上でやや下がるが、60代までは8割以上をキープしている。広範囲の世帯に普及浸透しているか否かの観点では、はるかに携帯電話の方が上となる。

なお高齢世帯で携帯電話の利用者世帯における利用料金が大きく下がっている。これはスマートフォンでは無く、利用料金が安上がりで済む従来型携帯電話を利用している人が多いのが要因。

上記で挙げた問題以外にも、「食品以外でなぜ新聞のみが対象なのか」「新聞業界自身以外で、新聞を対象とするようにとの声はどこから上がっていたのか」「低所得者の生活必需品として食品以外を挙げるならは、むしろ水道やガス、電気などのインフラの方が、より一層生命に直結するものではないのか」など、新聞の軽減税率適用に関しては、首を傾げる点が多い。

例えば情報伝達の観点で考察しても、新聞同様にテレビが重要視されるべきである。消費動向調査の直近分では直近2015年のテレビ普及率は単身世帯で91.6%、二人以上世帯で97.5%であり、新聞をはるかに凌駕する。

↑ テレビ世帯主性別普及率(2015年3月末)(消費動向調査より作成)
↑ テレビ世帯主性別普及率(2015年3月末)(消費動向調査より作成)

テレビ視聴そのものは原則無料であり、視聴に必要な金銭的負担を考えると、むしろ電気代に軽減税率を適用すべきとなる。

新聞があえて特例的に挙げられたのは、各種統計調査結果の上からも不思議な点が多い。単に「低所得者の生活必需品」で「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」ならば、むしろ関連業界に是正を求めた、そしてデータの上からも裏付けの取れる、携帯電話料金、または電気料金に目を向けるべきだと結論付けざるを得ない。

あるいは「低所得者の生活必需品」とは大義名分で、実質的に「高齢者世帯の生活必需品」と解釈すれば良いのだろうか。

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グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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