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勉強しないで遊びほうける学生生活のススメ

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

少し前の話になるが、5月8日にベネッセ教育情報サイトに「中2生は勉強嫌いが約6割 大規模な追跡調査で判明した「勉強が好きになった子」の特徴とは」と題する記事が掲載された。

好きこそものの上手なれとはよく言ったもので、好きでそれに熱心に励むとき、習熟度は増す。下手の横好きという言葉もあるが、これは横好きであることがいけないのであって、もっと没頭するくらいに真っ当に好きであれば、やはり上達していくはずである。

記事によれば、勉強が「嫌い」(「まったく+あまり好きではない」)な児童生徒は、小学校1~6年では2~3割で推移していく。しかし、中学校に上がる段階で一気に45.5%にまで増え、中2になると57.3%にも達する。以後、勉強が嫌いな学生は、平均して6割をキープしていく。

一方で、勉強が好きになる子供もいる。例えば中学生の勉強する理由を調べてみると、嫌いから好きに変わった学生のうち「新しいことを知るのがうれしいから」を上げているのは72.0%と、高い。嫌いなままの子供は36.8%であるから、比較すると35.2ポイントもの差があることになる。「自分の希望する高校や大学に進みたいから」は87.5%とさらに高いが、嫌いなままの子供もまた71.0%もいる。後者の理由では、勉強は嫌いだけど、将来のためにやらなければ、といった外的圧力によって勉強している子供が少なくないことになる。

勉強が「嫌いから好き」になった児童生徒は、どの学校段階でも学習時間が伸び、成績も上昇するようである。元の調査をみると、勉強が好きになった中学生のうち、26.8%が成績を上げている。高校生では33.5%、小学生で22.3%である。いずれの学校段階でも、好きをキープしている児童生徒よりも高く、また勉強が嫌いな子供らよりも成績の伸び率がよい。嫌いだと、伸びにくいのである。

ようするに、まずは勉強が好きになることが大切である。しかし、勉強を勉強と捉えると、うまくいきそうにない。勉強は嫌なものだという固定観念が、すでに子供らには染みついている。筆者も勉強は大嫌いだ。そのため授業を面白くとか、勉強を楽しくといった仕掛けは、これまでの学校現場でも様々になされてきたし、実際に多くの工夫がなされている。それでも多くの子供らは、勉強をしなくてもよいのであれば、勉強はしない。スマホのゲーム、漫画、数学のドリルを子供らに渡し、どれをやってもいいよと言ったならば、ほとんどの子供らはゲームをやり、漫画を読むだろう。人はより多くの快楽を求め、快適な環境を好む。そういうものである。

ここで次のように見方、考え方を変えてみよう。勉強などしなくてもよい。子供らには大いに遊んでもらおう。しかし、時間は有限だ。せっかくなら意味のある遊びをしようではないか。それは人生を通して喜びを得づづけるための、遊びという名の学びである。

ゲームを好むのであれば、ゲームをやらせよう

筆者は前の日曜日に体調を崩して一日中ベッドの上にいたから、ひまつぶしのためにゲームでもやろうかと思った。しかし意味のない時間がとにかく嫌いなので、意味のあるゲームをやろうと考えた。そこで、かねて苦手であった世界地図を完璧に覚えようと「あそんでまなべる世界地図パズル」というスマホアプリをダウンロードした。最初は、おそらく世界50カ国の位置も正確にわかっていなかったように思う。ウガンダってどこだ?そういえば東ティモールはアジアだった。恥ずかしいが、こんな調子である。

そんなこんなで丸一日、他のこともやりながら適当に遊んでいた。結果、世界すべての国を10分以内で配置できるところまで上達した。今日のランキングにも載っている「t」は、筆者である。暗記力がすこぶる弱い筆者でも、ゲームにすればあっという間に上達する。ゼミの学生らにも、おもしろいからと勧めてみた。同アプリのレビューには、「このアプリのおかげで世界地理が得意になり中学受験で志望校に入れました!!!人生を変えたといっても過言ではない!!!」とある。よかったね。

漫画を好むのであれば、漫画を読ませよう

皇學館大学は、よき日本の心を育み、未来へつなぐ大学である。我々教員は、そういうことのできる学生を育てたいと思っている。そして未来をつくるためには、歴史を振り返らないといけない。

筆者の所属する現代日本社会学部のある学生は、日本史に疎い。他のことができるのだからそれでいいのだと言いたいところだが、本学の教員としては基本的な日本史の知識は身につけてほしいと思っている。そこで石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』全55冊を買って、研究室においてやった。「適当に読め」と言っておいたら、まぁ適当に読んでいる。しかしマンガを読むのは勉強するよりも頭を使うから、よく定着する。そういえば筆者も、小学校の頃に父が買ってくれた学研のまんがシリーズで楽しく学んだ。それから小学校に置いてあった『はだしのゲン』で、広島弁を習得した。英語もこの調子で習得したいところだ。漫画の力は強大である。

スマホを眺めてしまうのであれば、スマホを眺めさせよう

スマホ依存症という言葉がある。学生になぜそんなにスマホをやるのかと聞いてみると、別に意味はないのだという。ようするに暇で、ほかにやることがないし、手元にスマホがあるからみているだけだ、ということのようである。まさしく依存症である。

包丁はおいしい料理の道具にもなるし、人殺しの道具にもなる。学生がスマホに依存してしまうのであれば、スマホを学習ツールにしてしまえばよい。そこで、前から目をつけていたインフォテリア社のHandbookを採用し、学習というか、学生らの暇つぶしのために使えるようにした。ここに格納しているスライドや資料は、学生とのコミュニケーションにも使う。だから学生は、普段の会話の中に出てきたコンテンツを、電車の中などの暇な時にぼけーっと眺める。スマホ依存性を、学び依存性に変えてしまうのである。すると勝手に知識を習得していき、マインドも向上する。

ゲームをやり、漫画を読むのに飽きたら、外で遊ばせよう

そういうわけで、筆者の周りにいる学生には大いに遊んでもらっている。しかしその遊びは、自分にとって意味のある遊びだ。そういうものを探すこと自体、探究心や創造性が求められるから、学習になる。学生から学び方の提案をしてきて、おもしろそうだったら、筆者はゴーを出す。そうすると学生らは、それに没頭する。自分が見つけた楽しいことだからだ。

しかしながら、室内に居続けるといつかは退屈するし、身につけた知識は使ってみたほうがよさそうだ。皇學館大学にはCLL(コミュニティ・ラーニング・ラボ)というものがあり、伊勢志摩地域の企業や団体などから様々な地域活性化の依頼がきたら学生の学びの場として活かすことにしている。今年度は某団体から「伊勢ネギをもっと売れるようにするために学生のアイディアがほしい」という依頼が来たから、筆者が引き受けてみることにした。

軽く募集してみたら、学生が30人超集まった。どうやら筆者は大学の人気者である。ネギでやりたいことをガンガン考えて提案せよ、との指令を出した。講義や取り組みのアドバイスはするが、基本的にアイディア出しはノータッチでいく。ここがポイントである。主役は学生だ。人は楽しいことは勝手にやる。勝手に学び、勝手につくってきて、勝手に動く。人は勝手に満足するであって、誰かに与えられるものではないのである。

勝手に学ぶことを目指す教育

筆者は大学の教員だから、ここで上げた例は大学生の例である。しかし年齢を問わず、人間には心があることは変わりない。歴史もストーリー仕立てにしてやれば学ぶし、英語も実際に面白い本を読みながら解説を得られれば、習得するかもしれない。数学の場合、やはりゲームにしたほうがよいのだろうか。古文などは昔の人の教訓を学ぶ目的でやると人格形成にもよさそうである。

筆者の提案は、中学高校の授業においても、多くの知識を習得することから、勝手に学ぶきっかけづくりや楽しく学ぶ方法を知ることに多くの時間を割くようにしよう、というものである。すなわち、学校には学びを楽しむために登校する。明日も学校で楽しい経験をするために必要な知識を、学校外で自ら身につける。我々教員は、知識を教えるのではなく、知識を勝手に学ぶモチベーションを育むのである。

最後に、意味のある学びのためには、やはり子供らに将来像を描かせることが必要である。冒頭の調査では「自分の希望する高校や大学に進みたいから」勉強する子供らは87.5%いた。なぜその高校や大学に進みたいのか。そこにいけばどうなれるのか。それらが思い描かれるとき、人はそこに向かって成長しているという実感が得られる。しかも、そのためにやるべきことは遊びなのだから最高だ。遊んでいたら、なりたい自分になれる。そんな人生、送ってみたいではないか。

ゆとりか詰め込みか、という単純化された議論がある。視点を変えて、子供ら自身が勝手に知識を詰め込み、社会の関係性のうちで活かそうとする楽しさ、生きる喜びを得ることができるかどうかを問うべきだと、筆者は思う。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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