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「今あったらなぁ」のバイク達(10)【ヤマハ・XT250】あのランボーも乗ったセローの原点的モデル

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
YAMAHA XT250

今のバイクは素晴らしいけれど、昔にも優れた楽しいバイクがいろいろあった。自分の経験も踏まえて「今あったらいいのになぁ」と思うバイクを振り返ってみたい。第10回は「ヤマハ・XT250」について。

生産終了でますます人気のセローの原点

2020年のファイナルエディションを以って生産終了となった「セロー250」。いまだにその人気は衰えるどころか益々高まる一方で、距離浅の中古車が新車並みの価格で取引されるほどだ。

扱い切れるパワーと軽量でコンパクトな車体、街乗りから長距離ツーリングまで便利に使えて、低いシートの利を生かして両足をバタバタと着きながら大柄なアドベンチャーモデルでは躊躇うような山野にも分け入れる。扱いやすさと走破力、実用性を兼ね備えた真のデュアルパーパスとも言えるセロー。

初代セロー225から数えれば、実に35年にわたってトレールバイクの代名詞であり続ける名車の誉れ高いセローだが、過去にはその原点とも言えるモデルがあった。1980年に登場した「XT250」である。

“名車のゆりかご”だったXTシリーズ

XT250はヤマハ初の4スト250ccデュアルパーパスモデルとして登場。空冷SOHC2バルブ単気筒249ccから最高出力21psを発揮。当時のオフ車はまだツインショックが定番だったが、XT250はいち早くモトクロッサー譲りのモノクロスサスペンションを採用するなど最先端のマシンだった。

▲XT250
▲XT250

ちなみに兄貴分のXT500はツインショック仕様だったが、パリダカでも優勝するなど戦闘力の高さを見せつけビッグオフブームの先駆けとなった存在。その優秀な単気筒エンジンは後にSR500/400へと転用されたことも有名な話だ。

▲XT250
▲XT250

また、弟分のXT200はその後、排気量を拡大してセロー225へと進化していった。その意味で、旧XTシリーズはヤマハの歴史を彩るSRやセローなどを生み育てた“名車のゆりかご”だったわけだ。

ランボーがXT250の凄さを世界に広めた

XT250との出会いは18歳のときに映画館で観た「ランボー」だった。今も現役で活躍中のハリウッドスター、S・スタローンが演じるのが元米軍特殊部隊グリーンベレー隊員という設定。

何も悪いことはしていないのに、流れ者というだけで警察から追いまくられる理不尽さに怒ったランボーが、バイクで逃走するシーンに使われたのがXT250だったのだ。

▲XT250
▲XT250

そのアクションがまた凄くて、雨の中フルカウンターを当てつつウイリーで立ち上がり、踏切では大ジャンプでパトカーを引き離し、渓流もガレ場もなんのそので山の奥深くへと逃げ込んでいく。CGなどない時代のナマのスタントのド迫力、しかもノーヘルで上半身ムキムキのランニング姿という定番(笑)。

そのカッコ良さにすっかり打ちのめされ、翌週には上野のバイク屋街で中古のXT250を全力ローンで買っていた。

▲XT250
▲XT250

もちろん、映画の中では一流のスタントマン(おそらくプロMXライダー)が演じているし、排気音はお約束の2ストに吹き替えられていたが、使われているバイクだけは正真正銘のXT250だった。映画「ランボー」はグリーンベレーの戦闘力とXT250のハイパフォーマンスぶりを世界に向けて強烈に印象付けた、その功績は大きい。

今でも同世代のライダーと昔話をしていると、必ず出てくるネタのひとつだ。

“空飛ぶサスペンション”のはずだったが…

晴れて銀色のXT250のオーナーとなった私は、通学や日常の足として毎日のように乗り回していた。細長いタンクや妙に幅広なハンドルバー、2連メーターが今見るとクラシカルな感じがするが、あらめてスペックを調べてみるとエンジン性能や車体サイズもほぼセロー250と同程度と気付く。

▲XT250
▲XT250

中速トルクに厚い鼓動感たっぷりの走りが気持ち良く、シートも低めでタンデム用スペースもしっかり確保されているところなど、ストリートでの使い勝手を優先した作りは今のバイクにも見習ってもらいたい部分だ。

“空飛ぶサスペンション”と呼ばれたモノクロスサスはフワッとした乗り心地が新鮮で、「これならランボーの走りもできるかも!?」とイメージだけで荒川河川敷にあったダートコースに挑んでみたが、一発目のジャンプで着地に失敗、前転して終了。

鬼のキックでもエンジンがかからず汗だくでバイク屋まで押したり、前後ドラム式ブレーキは雨の日はまったく効かずスリップして転倒したり、とイタさも数多く味わった。が、それでもXT250は好きで長く手元に置いてあった。

今も生き続けるXT250のDNA

XT250はたった3年でDOHCのXT250Tへと世代交代していったが、自分としては今再びブームになっているスクランブラーのような雰囲気を残した初期型が好きだった。その後、トレールモデルは性能を追い求めてモトクロッサー化していき、オフ車にも2ストレプリカ時代がやってくる。

こうしたスペック第一主義の流れに反して、誰もが気軽にオフロードを楽しめる原点回帰的な発想でセロー225が誕生したのが85年。昨年ファイナルを迎えたセロー250へとフルチェンジしたのは2005年のことだ。

▲XT250
▲XT250

自分にはセローの中にXT250の面影が見える気がする。そして事実、そのDNAは今も脈々と受け継がれている。皆さんはご存じだろうか。2021年現在、北米をはじめとする海外市場で今も販売され続けているセロー250のグローバルでの呼称が「XT250」なのである。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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