コロナ禍による影響は? NPB球団の年俸支払いはどう変化しているか
■ 観客数上限が設けられ開幕したプロ野球。年俸への影響は?
プロ野球は3月26日にいよいよ新シーズンが開幕となった。開幕が延期された昨季を考えると、無事スタートを切れたことをまずは喜ぶべきだろう。ただ観客数の制限は依然として続いている。現在は最大でも上限50%、首都圏では1万人に設定されているようだ。ちなみに通常どおり行われた2019年セ・パ公式戦の1試合平均入場数は30929人(※1)。有観客でのスタートとなったとはいえ、今季も例年どおりの入場者数は期待できないだろう。
こうした入場者数の減少は、当然球団の経営に莫大なダメージを及ぼしている。試合の入場料は現在も球団の大きな収入源の一つだからだ。報道によると、ある球団では数十億円の赤字が出ているという。
そして球団が減収となれば、当然選手に支払われる年俸にも影響は及ぶはずだ。オフには毎年契約更改が行われ、年俸アップ・ダウンが大きく報道で取り上げられる。しかし、選手個人の年俸上下は把握できても、コロナ禍によって選手全体でどれほどの影響を受けたのかについては、把握できていない人が多いのではないだろうか。今回は選手の年俸にどれほどの影響が出ているか、球団別に把握を試みたい。
まずセ・リーグからだ。イラストには各球団の2021年開幕時点の年俸(以降の年俸はすべて推定)を示した。実線が今季、破線が昨季の総年俸を表している(※2)。
セ・リーグでは総年俸が減少している球団が3球団(阪神、DeNA、広島)。ほぼ現状維持が1球団(中日)。驚くべきことに増加している球団も2球団(巨人、ヤクルト)あった。
特に目立つのが、巨人が前年から7.4億円も総年俸を増加させている点だ。巨人では昨オフ、菅野智之がポスティングシステムを利用してMLB挑戦を目指したが、結局交渉がまとまらず残留することになった。編成部としてはおそらく菅野が退団することを前提にチームをつくっていただろう。予期せぬ菅野の残留により、前年から総年俸は大きく跳ね上がっている。ただ菅野の年俸8億円を除いても、前年からはほぼ現状維持。例年どおり補強にも十分な資金をかけた。
総年俸が増加したもう1球団、ヤクルトについては大型補強を行ったわけではない。昨オフは、山田哲人、小川泰弘、石山泰稚という3人にFA移籍のリスクがあった。しかしチームは彼ら3人に好条件を提示することで残留に成功。これにより年俸が増加している。ただこちらも彼らの年俸増加分を除いても、総年俸は現状維持からややプラス。大幅アップの選手がいた分、例年以上に割を食う選手がいるという状況にはなっていないようだ。
総年俸が減少した球団はどのような事情にあるのだろうか。阪神から見ていこう。昨季2位となった阪神だが、総年俸は前年から約2.2億円減少した。ただこれはベテラン選手の退団、あるいは成績低下による年俸減の影響が大きい。阪神は昨オフ、チームを長らく支えた藤川球児、能見篤史、福留孝介の3選手が退団。また長期契約が切れた糸井嘉男と大幅年俸減で再契約を交わした。いずれも例年の動きと比べて違和感はなく、収入源によって大きな影響を受けた判断には思えない。オフには外国人選手に投資を行い、優勝を狙う積極的な戦力補強も行った。
広島については年俸が高額だったクリス・ジョンソンの退団が大きく影響している。新外国人選手に同じだけのコストはかけなかった分、総年俸が減少した。新外国人選手にNPBで大きな実績がある選手同様のコストをかけないのは普通の判断だ。DeNAは梶谷隆幸、井納翔一、スペンサー・パットンの主力3名が退団。高年俸選手が退団したうえ、広島同様、新外国人選手に同レベルのコストはかけなかったため、総年俸が減少している。ただ、FA選手を引き止めるだけのコストを払えなかった、あるいはその穴を埋める補強を積極的に行えなかったというところに、上り調子だったここ数年と異なる事情が生まれているのかもしれない。
中日はオフの契約更改で保留者が続出したが、支払いをチーム全体のレベルで見ると、例年と大きな変化はない。ただ通常のシーズンであれば、8年ぶりにAクラスに入り、好成績の選手が増えると、総年俸が膨らむのが自然だ。こういったレベルでコロナ禍の影響が出ているのかもしれない。
■ 田中獲得の楽天が大幅増。パ・リーグへの影響は?
パ・リーグはどうだろうか。パ・リーグでは、ソフトバンク、楽天の2球団の年俸が増加。西武はほぼ現状維持。ほか3球団(ロッテ、日本ハム、オリックス)が減少となっている。
目立つのが前年から約5.7億円の年俸増が起こった楽天だ。ただこれについては年俸9億円の田中将大加入が大きい。2019年以降、凄まじいスピードで総年俸が増加しているが、コロナ禍でもそのペースは落ちなかった。
ソフトバンクは前年から約1.8億円増加した。コロナ禍にもかかわらず、総年俸は過去最高の約66.9億円に到達している。大型補強があったわけではないが、優勝に伴う既存選手の年俸増が要因となった。ただ例年ほどの大型補強を行えていないという点で、収入減の影響は出ているのかもしれない。これについては入国や移動の制限もあり、例年どおりの選手獲得活動が行えないという事情もあるのかもしれない。
西武はほぼ現状維持。シーズンで過去2年ほどの成果を残せなかったとはいえ、コロナ禍においてもチーム総年俸に大きな変化は起こっていない。FA権を取得した増田達至に対しても、十分な契約を用意し残留に成功している。
パ・リーグで年俸減少が起こったほかの3球団はどうだろうか。
ロッテは昨季2位に入ったが、総年俸は約2.9億円減少となった。昨季は開幕時点で外国人選手(育成選手は除く)が5名、シーズン中にチェン・ウェインを加え6枚体制で戦ったが、今季は開幕時点で支配下登録の外国人選手が3人。すでに入国しているが、NPBから公示されていない(4月3日現在)アデイニー・エチェバリアを含めても4人。外国人選手の人数が減少している。ちなみにエチェバリアの年俸1億円を加えてもなお総年俸は減少となる。投手陣は澤村拓一、チェン・ウェイン、チェン・グァンユウ、ジェイ・ジャクソンと退団が相次いだが、ドラフト以外で目立った補強はなかった。劇的な年俸減が起こっているわけではないが、これまで見てきた球団と違い、やや減収の影響を感じさせる状況となっている。
日本ハムは昨季から約1.6億円の年俸減が起こっている。これについては、有原航平退団の影響が大きい。有原が2020年の年俸で今季も残留していたとしたら、ほぼプラスマイナスは0になる。金子弌大の大幅な減俸などもあったが、外国人選手についても退団人数分は確保した。総年俸はやや圧縮されているが、全体で見ると、減収を受け選手への投資を明確に絞ったようには見えない。
オリックスは昨季から約1億円総年俸が減少している。ただチームがそれほど年俸の圧縮を図ったようには見えない。アンドリュー・アルバース、アデルリン・ロドリゲスといった高額な外国人選手の退団はあったものの、楽天を退団したステフェン・ロメロを年俸1.3億円で獲得。2月にはMLBから出戻りの平野佳寿も獲得するなど、それほど投資に躊躇している様子はなかった。
■ 選手による優れたプレーの裏側にある球団の努力
ここまでコロナ禍による減収を受けて、各球団の総年俸にどのような変化が、どのような事情で起こっているかを確認してきた。ロッテのように開幕時点で例年に比べるとやや投資が絞られている球団もあるが、総じて見れば各球団は例年と大きく変わらないレベルで年俸の支払いを続けている。ロッテについては、シーズン中の補強に資金を残している可能性もあるだろう。
もちろんこれは全体の話で、細かく見ていけば影響を受けている選手もいるはずだ。また本来であれば入団するはずがしなかった選手、退団しないはずがしてしまった選手も一定数生まれているだろう。その影響まで可視化するのは難しい。
ただ球団が選手への投資をそれほど減らしていないのは事実だ。1球団で数十億円レベルの減収が起こっていることから考えると、これは驚くべきことである。高い報酬を与えることは、選手が高いモチベーションを維持し、優れたパフォーマンスを見せられるかどうかに、大きく関わってくる。年俸の話題になると悪者扱いされることもあるのが球団だが、日頃のプレーにあるこうした努力にも目を向けなければいけない。ただこうした状況が長く続けば、球団経営も限界を迎え、選手への投資を減らすことも検討せざるをえなくなるかもしれない。一刻も早く、例年どおりのシーズンが再開できる日がくることを願うばかりだ。
(※1)https://npb.jp/statistics/2019/attendance.html
(※2)2021年の年俸は開幕時点のもの。2月以降に球団間のトレードが行われた場合は、移籍元・先球団で年俸を2等分する処理を行っている。