2024年の1試合平均わずか3.28点―プロ野球史上4番目の“投高打低”環境をうまく生かした球団は?
■プロ野球史上4番目に得点が入らない2024年。歴史的な“投高打低”は順位にも影響
今季のプロ野球は異常なまでの“投高打低”環境でプレーが行われている。プロ野球ファンなら毎日の試合で実感する場面が数多くあるはずだ。真芯で捉えた打球のフェンス手前での失速、両リーグあわせてわずか2人にまで減少した3割打者、防御率0点台を切るかという先発投手の出現など、今季の“投高打低”エピソードには枚挙にいとまがない。
実際、データで見ても得点の減少は明らかだ。2018年には1試合チーム平均4.32得点が記録されていたが、そこから年々下降を続け今季は3.28得点まで低下。これは反発係数が規定を下回る問題となった低反発球が使用されたあの2011年の3.28点、2012年の3.26点とほぼ同等の値だ。それ以前にこのレベルとなると、3.18得点を記録した1956年、戦後間もない時代にまで遡る。今季の1試合平均得点の少なさはNPBの2リーグ制開始以降歴代4番目。今季のプロ野球は歴史的に見ても異常な環境でプレーが行われているのだ。
ただ得点が入りにくくなったとて野球は野球である。全体の得点が減少しても、相手の得点を上回ったチームが勝つという原則は変わらない。投高打低環境といっても、得点が減るのは強いチームだけではない。弱いチームも同様だ。こういった極端な環境となっても、球団間のパワーバランスには変化がないと考えるのが自然なように思える。
しかし話はそう簡単ではない。得点が入りにくくなったことで、球団間のパワーバランスにも微妙な変化が起こっている。今季は得点が入りにくくなったことで、守備の重要性が増し、その資質を備えた球団が上位に位置しているのだ。どういうことだろうか。
■「投手の責任範囲外」割合が増加。得点が減るとなぜ守備が重要になるのか?
なぜ得点が減ると、守備の重要性が増すのだろうか。
我々は野球において失点の責任は投手にあると考えがちだ。しかし実際には失点は投手の責任だけで生まれるものではない。バックのファインプレーに救われることもあれば、完全に打ち取ったボテボテの当たりが安打になることもある。失点の大小には、投手の力だけでなく、バックの守備や打球がどこに飛ぶのかの運も関わってくる。
これらからデータ分析の世界では、この責任をはっきりと分けて考える。奪三振、与四球、被本塁打はバックの守備が関わることができないため「①投手の責任」。それ以外、つまりフィールド内に打球が飛んだ打球は「②投手の責任外」と考えるのだ。
フィールド内に飛んだ打球をすべて責任範囲外と考えることが極端に感じるかもしれない。しかしデータ分析によりフィールド内に飛んだ打球は投手にはコントロールできないことがすでにわかっている。そのため責任範囲外と考えるのだ。
ただ今回の焦点はそこではない。今季のような投高打低環境においては、この①と②のバランスに変化が生じ、それがチーム間のパワーバランスに影響を与えるのだ。どういうことだろうか。
得点が入りづらい環境では、当然本塁打を含む長打が減る。すると投手は打者を恐れる必要が小さくなる。仮にバットに当てられても長打になる可能性は小さい。無理に空振りを奪わなくてもアウトがとりやすくなるのだ。これによりリーグ全体で三振が減少する。事実、ここ5年ほどNPBは投手のレベルが上がっているにもかかわらず三振が減少している。三振%(三振÷対戦打者)を見ると、2019年にNPB全体で19.9%だった値は今季18.7%まで下がった(図2)。これはバットに当てられた際のリスクが小さくなり、投手が空振りを狙うメリットが小さくなったからだと考えられる。また打者が長打のメリットの小ささからコンタクト重視のスイングを行っている可能性もある。
さらにこうした環境では三振だけでなく四球も減少する。投手からするとゾーン内に投げてバットに当てられたとしても長打のリスクは小さい。するとボール球を使って無理に空振りを狙う必要はなくなり、投球はストライクゾーン中心となる。すると四球も減少するのだ。こうした傾向の変化により、三振の減少と同じようにここ数年のNPBでは四球のペースも減少している。2020年には四球%(四球÷対戦打者)は9.1%だったが、今季はこれが7.2%まで下がった(図2)。
そして当然本塁打ではあるが、三振や四球に加えて本塁打も出にくい。本塁打%(本塁打÷対戦打者)も2019年には2.6%だったが、今季は1.5%まで下がっている(図2)。
この3要素は①で投手の責任とした奪三振、与四球、被本塁打の3つにそのまま当てはまる。つまり失点の大小に関わる「①投手責任のイベント」が減少しているのだ。
そしてその分増加するのが「②投手の責任外のイベント」、すなわちインプレーである。打席に占めるインプレー打球の割合を調べると、ここ数年で最も割合が小さかったのが68.6%を記録した2020年。そこから年々インプレー打球の割合は増加。今季は72.5%にまで上昇している。2020年に比べると約4%もインプレー打球が増えているのだ。
そしてインプレー打球が増えるということは、その分バックの守備力が試される機会が増えるということだ。つまり今季のプロ野球は例年よりも守備力が重要な環境の中で戦っているのだ。守備力に優れたチームは例年よりも成績を伸ばしやすいということになる。
■守備力が重要な環境を生かした球団は?高守備力チームには優勝を争う球団がズラリ
では、実際にどの球団が守備力を活かすことができているのか。ゴロとフライに分けて見ていこう。
まずゴロからだ。ゴロで素晴らしい成果を残しているのが読売である。読売は今季浴びたゴロのうち実に78.4%をアウトにしている。平均が74.6%であるため平均に比べて約4%ゴロがアウトになりやすいチームといえる。
4%というとそれほど大きく感じないかもしれないが、これが実は大きい。チームにもよるが1シーズンで1球団が受けるゴロの数は1800ほど。このうち4%多くアウトになると1800×0.04=72。72本もの打球が安打にならずアウトになる計算だ。想像してみるとかなりのインパクトになることがわかるだろう。
ゴロで読売に続くのがソフトバンク。読売に匹敵する78.3%をマークしている。
続いてフライだ。フライでトップに立ったのが日本ハムだ。79.5%もの割合でフライがアウトになっているようだ。水谷瞬や五十幡亮汰が守る左翼、松本剛が守る中堅、万波中正が守る右翼と、3ポジションすべてで他球団に差をつけており、より詳しい守備指標UZRで見ると外野守備だけで平均レベルの球団に40点以上の差をつけているようだ。
そして2位はソフトバンク。ゴロでも読売と僅差の2位だったが、フライでも同じく僅差だった。左翼の近藤健介、中堅の周東佑京が素晴らしい守備力を発揮しているようだ。
そしてインプレー全打球で比較したのが以下の表である。トップに立ったのは、ゴロ、フライともに僅差の2位につけたソフトバンク。実にインプレー打球のうち73.8%をアウトにしてみせた。2位の読売にも1.4ポイントもの差をつけている。
ちなみに最も低いヤクルトが68.2%であるため5.6%もの差が生まれている。年間チームに発生するインプレー打球が3800本ほどであることを考えると、ソフトバンクはヤクルトに比べ約213本の安打をアウトにしている計算になる。相当なインパクトを感じるのではないだろうか。
またソフトバンク以外の上位勢の並びにも注目したい。2位は読売、3位は日本ハム、4位は広島――。これらの球団は今季両リーグの優勝を争う球団だ。前述したように今季は例年に比べ守備力の影響度が大きいシーズンとなっている。もちろん各球団ベースの能力が高いのは当然だが、守備力の高さをうまく生かした球団が上位にきているようだ。もし今季これほど得点が入りにくい環境でなければ、こうした優勝争いにはなっていないかもしれない。
得点が入りにくい環境と聞くと、投手戦が楽しめる、本塁打が入りにくくつまらないなど、エンタメ性に関わる話題に終始しがちだ。しかし実際のところ影響を受けているのはエンタメ性だけではない。プロ野球史に残る“投高打低”環境は、優勝争いにも確かに大きな影響を与えている。
※2024年のデータは9月17日時点