欧米市場を揺るがしたリスク要因
8月1日の欧米市場ではリスク回避のような動きとなり、欧米の株式市場は下落し、欧州の債券市場ではイタリアやスペイン、ポルトガルの国債が売られた。それに対して米国やドイツ、英国の国債は買われていた。
1日に発表された7月の米国雇用統計、非農業雇用者数は20.9万人増となった。予想の23万人程度は下回ったものの、FRBが目安としているとされる20万人は上回った。また、前月は29.8万人増と速報の28.8万人増から上方修正された。失業率は6.2%に上昇したが、労働参加率が上昇した。
雇用統計の内容は引き続き雇用の改善を示すものであり、FRBの金融政策にはあまり影響は与えないと思われる。予定通りに10月にもテーパリングを終了させ、来年の利上げに向けた準備が着々と進められよう。雇用統計の数字はさほど市場には影響を与えず、リスク回避とみられる動きは別な要因があった。
そのひとつはアルゼンチンのデフォルトである。国際スワップデリバティブ協会(ISDA)が、7月30日にアルゼンチン政府が債権者に支払いができなかった事態をクレジット・イベント(信用事由)と認定し、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の販売元には、購入者に保険金を支払うよう命じた。今回のISDAによる判断の結果、最大10億4000万ドルが保有者に支払われる可能性があるという(WSJ)。
ウクライナ情勢に関してはロシアへの制裁が欧州の経済そのものにマイナスの影響を与えかねず、欧州の株式市場ではそれがひとつの懸念材料となっていた。
中東情勢の緊迫化もリスク回避要因となっている。イスラエル軍の地上部隊は、作戦の目標がほぼ達成できたとして、パレスチナ暫定自治区のガザ地区の境界線付近まで撤退を始めたが、イスラム原理主義組織ハマスはロケット弾を発射するなど攻撃を続け、各地で衝突は続いている。
そしてもうひとつの懸念材料が、ポルトガルの銀行、エスピリト・サント銀行(BES)の問題である。1日に同行の株価が急落し、取引停止という事態となった。公的資金注入かとの観測も流れたことが背景にあったが、実際にポルトガル中央銀行がBESの経営権を取得する事態となった。49億ユーロによる救済となるが、ポルトガル中銀は銀行整理基金から救済資金を賄う。預金は劣後債以外の全ての債券と共に全て保護されるが、株主と劣後債保有者は損失を被る。BESは新たにノボ・バンコと名付けられるグッドバンクと、エスピリト・サント財閥向けエクスポージャーで構成されるバッドバンクに分割される。BES株は上場廃止となる。
イングランド銀行とFRBが正常化に向けて歩を進めるなかにあり、日銀とECBは緩和方向を向いたままとなっている。ユーロ圏の信用不安は後退しているものの、この後遺症が残り、今回のような問題が発生した。BESの問題が新たな危機を招くことは考えづらいが、欧州の回復にはさらに時間が掛かり、その間、ECBは緩和姿勢を貫かざるを得ない。その分、ドイツの国債利回りにはさらに低下圧力が加わることも予想され、それが英国や米国の長期金利の上昇抑制要因となっている。