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西安、天津、禹州、安陽……急激なコロナの感染拡大で、今年の春節休暇はどうなる?

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

春節(旧正月)を前に、中国各地で新型コロナウイルスの感染者が散発的に増えている。人口が1300万人の西安市でロックダウンが行われているのに続き、人口が1400万人の天津市、人口が550万人の河南省安陽市、110万人の河南省禹州(うしゅう)市などでも感染者が増加。外出規制や一般車両の通行禁止などが行われている。

1月3日には「春運」(チュンユン=春節前から春節後までの約40日間の特別移動期間)の公共交通機関の切符販売がスタートし、月末から始まる春節の大型連休(公的には1月31日~2月6日まで)を意識する中国人が増えているが、北京冬季五輪とも日程が重なる今年の春節は、一体どうなるのだろうか?

春節に帰省するか、しないかで悩む

「次(のロックダウン)はどこになるのか。万が一、我が身の可能性もあるかと思うと、春節が近づいても、なかなか楽しい気分にはなれませんね……」

こう語るのは上海市に住む女性だ。昨年(2021年)の春節も故郷へ帰省するか、どうするか悩んだ末、結局、出発48時間前にPCR検査を受けて陰性証明を取り、ある省の故郷の町に帰った。

「近所の白い目があったので、帰省してもほとんど家から外出できませんでした。同じ団地の住民は私が外部から来たことを知っていますから……。ずっと家で過ごしていましたが、今年は帰省を取りやめようかな、と思っているところです」

女性がこう語るワケは、各地で感染者が散発的に急増し、今年は去年以上に局地的に強い外出制限がかかっていることが背景にある。

上海市では今のところほぼ通常の生活を送れているが、数日前、女性が住む団地の居民委員会(住民の自治組織)の担当者からSNSに次のようなメッセージが入ったという。

「最近、天津に行きましたか?と聞かれました。上海市内から一歩も出ていないと答えましたが、同じ団地に住む知り合いは12月に天津に出張に出かけたので、PCR検査の陰性証明を求められたそうです。同じく12月に感染者が増えている河南省に出かけた友人も同じです。帰ってきてから1カ月も経っているのに……。

いつ、どの都市で急にロックダウンが始まるかわかりませんし、もし、帰省している間に両親が住む団地内で1人でも感染者が出たら、1カ月くらい上海に戻ってこられないかもしれません。

同僚たちとも帰省するかどうか、話すことがよくあるのですが、今年の春節は上海で、ひとりぼっちで過ごすことになるかもしれません」

北京市から出ることは禁止

北京に住む30代の夫婦は隣接する河北省が故郷だ。例年、春節にはクルマで帰省するが、今年は見送るしかないと話す。

「職場から社員全員、北京市外に出ることを禁止されましたので、家でじっとしているしかないですね。公務員の友人は、最初から旅行も帰省もとっくに諦めている、と話していました。今年は『就地過年』(ここで年越し)することになりそうです」

春節期間中の2月4日から北京冬季オリンピックが開催される北京市ではとくに厳格だが、それ以外の地域でも、北京に近い天津や、冬季オリンピックの会場にもなっていて隣接する河北省では厳戒態勢となっている。

五輪の関係者は「バブル方式」の中で管理されて、外には一切出られない仕組みとなっており、一般市民と接触することはないが、「万が一のことがあったら大変だから」とこの夫婦はいう。

そのため「テレビでは盛んに宣伝しているけど、自分が住んでいる都市でもうすぐ五輪が開かれるという実感がない」と話す。

地方に行けば行くほど厳しい

2021年12月、政府は「2022年元旦春節期間 新冠肺炎疫情防控工作法案」という通知を発布した。そこには、中・高リスク地域では厳格な外出制限を行うこと、それ以外の地域でも不要不急の外出を控えるようにと書かれている。どうしても外出する必要がある場合は48時間以内のPCR検査の陰性証明を提出すること、とある。

それを見ると、陰性証明があり、重要な用事ならば外出できそうに感じるが、前述の女性は「そんなことはないです」とキッパリいう。

「行き先によっては48時間以内の陰性証明だけでは不十分なこともありますから。地方によっては中央が決めたルールよりもさらに厳格な独自ルールを決めているからです。地方の行政担当者は、もしそこで感染者が出たら、処分を受けて責任を取らされますから、地方に行けば行くほど厳しくなるのです」という。

独自ルールはその地区の担当者が独断で決めるため、どこかに明記されているわけではない。行き先の人に聞くしかない上、独自ルールもコロコロ変わる。予測不可能であることから、多くの人が遠方に出かけることに二の足を踏んでいるようだ。帰省先であれば、家族にも迷惑をかけ、連帯責任になる。

旅行するなら同一省内だが…

旅行会社大手のシートリップが発表した今年の春節期間中の予約状況のレポートによると、全体の6割以上が、近距離で同一省内での旅行を予約していたことがわかった。

広東省では省内の旅行会社に対して、団体旅行や、航空券とホテルのセット販売を停止するように求めたというが、同レポートによると、今年の人気の旅行先は深圳、重慶、成都、広州、杭州となっており、予約者の多くは1995年以降に生まれた若者だという。

せっかくの大型連休。若者たちは、帰省できなくとも、せめてどこかに遊びに行きたいということかもしれないが、今年の春節時期、中国で旅行に出るならば、相当な覚悟が必要だといえそうだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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